今回は、今後認知症の方が増えてくることによって、葬儀屋さんの業務にも支障がでてくるだろうという問題提起です。
ある事前相談でのできごと
先日葬儀の事前相談をするために、身寄りのいないお年を召した女性のご自宅を訪問しました。
ちょうど1年前にも事前相談のために自宅に呼ばれており、今回は以前話した内容を変更したいとのご依頼でした。
高齢化と世帯人数の減少に伴い、独居老人の数は増えています。
<高齢者白書2019年度版より https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/zenbun/pdf/1s1s_03.pdf>
このように一人暮らしの高齢者の事前相談に呼ばれるのは珍しいことではありません。
私が異変に気付いたのは、会話が始まって3分くらいしたところです。
いつまでたってもお葬式のお話には入っていかず
・菩提寺に預けた2億円を使い込まれた
・ここのマンションの住人は私の命を狙っていて食べ物に睡眠薬を混ぜようとしている
・私の息子は10年前に鉄砲で撃たれて殺された
内容が非日常な割には、ディティールの細かさに軽い恐怖を覚えました。
「まずい。始まっている」と思いました。
確かに1年前お会いした時は同じ質問を時間を空けて2回するということはありました。しかしこちらの言うことは問題なく伝わりましたし、論理的な受け答えもできていたので、コミュニケーションは成立していました。
今回会話を成立させるのは無理そうです。
それから認知症にはよくある話なのでしょうが、被害妄想モードに入っているのが気になりました。
今、密室で一対一の状態です。
あとで何を言われるかわかりません。「財布が無くなった」とか。
無許可で行うのは好ましくないのは理解していますが、iPhoneのボイスレコーダーをそっと起動させました。
どこまで法的に有効か分かりませんが、自己防衛が必要だと判断したのです
さらに1時間後、賞味期限を3日過ぎたコンビニのパンを出された段階で、次の予定があると言って退席しました。
1年前にお会いしたときと全く同じ上品な口ぶりにもかかわらず、内容が滅茶苦茶だったことがショックでした。
あの時は、「(お葬式の事が決められて)安心しました。」と、うれしそうにおっしゃっていたのに。
自宅に電話をすると「詐欺防止のために録音しています」という自動音声が流れてから、つながることから分かるように防犯サービスに入っているようです。また定期的にケアサービスが訪問していることも知っています。
いずれ施設に収容されることになるのでしょう。
2つの問題
こんな事例はおそらく全国で発生しているはずです。
A 認知症の被害妄想による冤罪から葬儀屋さんはどう自衛するか
B 判断力のあったころの事前相談による「遺志」表示を反映させるにはどうしたらいいか
という2つの問題が今後どんどん顕在化してくるでしょう。
Aに関しては相手に判断能力があるかどうかは、明らかにダメな場合、事前相談の申込の電話で判断できます。しかし訪問してみないと分からないことも多いです。
訪問しての事前相談は一切行わないようにするという選択肢もあります。しかし思考がはっきりしていているのに出かけられない人もいます。また電話だけのやりとりで済ますには、お葬式の内容は複雑すぎます。
介護職や介護している家族向けに、被害妄想への対処方法は発信されていますが、ケースバイケースのようです。
B おひとりさまの場合、弁護士がいたり、死後事務委任契約を結んでいたりすれば良いのですが、なかなかそのサービスを利用できる人は限定的です。そのまま認知症が進行して、事前相談を行ったことも忘れたままどこかで亡くなったら、我々葬儀屋さんは対処のしようがありません。会話内容をまとめただけの書面が、認知症発症後どこまで有効になるのかもわかりません。
今回はこれという解決策は示せません。
とりあえず問題提起だけしておきます。
先日、私も同様の案件に会ったところなのでタイムリーでした 本当に解決が難しい問題ですね
ヤマザキ様
今後、深刻な問題になってきますよね。