葬儀の事前相談者は増えている
葬儀業界に就職して20数年になりますが事前相談をする方の比率はどんどん増えています。
私の勤める葬儀社の場合、亡くなる前に葬儀社と何らかのコンタクトを取っている人の方が多いくらいです。
とはいえそのほとんどは亡くなる本人ではなく、お子さんや兄弟のケースが多いです。
それでもなかには自分自身のお葬式の事前相談に来る方もいて、そういう方の人数も年々増えています。
女性のほうが多い
ちなみに自分自身の事前相談に来る方の傾向は
・余命何ヶ月という方はまれにしかおらず、今は元気だけど終活の一環として将来のことを、という動機で事前相談に来る
・女性8割男性2割の割合
女性が多いのはお葬式のセミナーの客層も同様です。やっぱり男性は終活のことを考えたくない人が多いのです。
男性は基本怖がりなんですよね。
男性は好感度が高い傾向
ところで、その数少ない自分のお葬式の事前相談にいらっしゃる男性には共通する「傾向」があることに気づきました。
一言で言うと好感度が高くて自分もこうなりたいと思わせる男性であるということです。
具体例
具体的には
・奥さんとは死別しているが身の回りのことは全部自分でやっている
・絵を書いたり釣りをしたり何らかの趣味を持っている
・健康(80才過ぎてもプールやジムに通っている)
・喋っている時笑顔が多い(この世代の男性は表情筋が使えなくなっていることが多いのに)
・誰とでも平等に接する(息子ぐらいの年齢の私に対しても偉そうにしない、入居している介護施設のスタッフに対しても同様)
・ビジネスで成功している、お金持ち(庶民はちょっと入れないような介護施設に入居している)
・余裕がある(年齢を重ねれば人間ゆったりとしてくると思いがちですが、意外とイライラしている高齢者の方は多いのです)
・結果的に長生きしている
このような傾向があります。
その原因
おそらく因果関係と相関関係が絡み合っている状態かと思われますが、分析してみます。
まずは、奥さんと死別に関して、です。奥さんがいれば、自分の最期は奥さんのやりたいようにさせるという方が多い傾向があります。つまり自分のお葬式のことを決めておく方には奥さんがもういないという方が多いです。
一般的に団塊の世代から上は、生活に関することは全部奥さん任せで、奥さんが亡くなるとストレスがたまってしまう生活能力のないタイプの男性は多いんじゃないでしょうか。
事前相談にいらっしゃる方は、身の回りのことはほとんど自分でやっています。
そこまで自己コントロールができるからこそ、自分の最期も計画的に、ということなんでしょうか。
また健啖家(食欲旺盛)の方が多く、先日も事前相談内容の変更をしたいということで呼ばれたのがうなぎ屋さんで、私と同じ分量を召し上がっていました。
(余談ですが長寿の方って鰻好きの人が多い印象というのは気のせいでしょうか。
「生前うなぎが好きで」
という御遺族の話を聞いて霊前にうなぎを備えることがたまにあるのですが、どうも長寿の人が多いような気がします。
うなぎを食べたから長生きしたではなくて、うなぎを食べられる人はそもそも健康ということかもしれませんが)
また会社を辞めると所属するコミュニティ(共同体、組織)を失ってしまう男性も多いですが、こういう人たちは趣味やイベントでつながったコミュニティを持っています。
私は「自分が主催するサークルで終活のセミナーやってくれ」とたまに頼まれることがあります。
当然住んでいる介護施設でもうまく人間関係を作っています。
必ずしも突出して社交的とかコミュニケーション能力が高いというわけでもないのですが、ちゃんと自分の居場所を持っているのです。
その辺りの人間関係の豊かさと、喋る時の笑顔の多さと、誰とでも平等に接することとの相関関係は高いと思います。
ビジネスで成功していることと、お金持ちであることと、余裕があるということには、当然相関関係はあるでしょう。
たしかに貯金がギリギリで、日々の生活費のことしか考えられないのであれば、当然自分の死後のことまでは気が回らないでしょうから事前相談には来たりしないでしょう。
とはいえ、私の経験上お金持ちが鷹揚かといえば、必ずしもそうではありません。
仕事柄、会社の創業者のお葬式を時々担当します。皆さん自分の作った会社を我が子のように愛していて、それゆえなかなかうまく身を引くことができず、執着の煩悩に死ぬまでまみれている方が多いように思います。
人格者のイメージの強い経営の神様こと松下幸之助ですら、孫に会社を継がせようとして死ぬ間際まで組織をかき回し続けて続けたことを考えると、執着からは逃げられなかったようです。
その執着ゆえに会社を大きくすることができたとも言えるのですが。
そういう人は自分のお葬式の事はほとんど考えません。自分の人生が終わることを考えるのが嫌で嫌でしょうがないのでしょう。
一方事前相談に来る男性は、会社を立ち上げて成功したけどもう部下に譲ってしまったと、さらっという人が多いのです。
執着がない。
そういえば免許を自主返納したという方も多いですね。
ご老人は謎だらけ 老年行動学が解き明かす (光文社新書)
この本によると、男性の老人が免許を返さないのは、自分の運転に自信があるからとか不便とかいう理由ではないそうです。「免許」というのは、男性にとってまだ社会の一員であるというアイデンティティになってしまっているからなのですね。免許返納というのは、かなりの覚悟が必要なのです。
事前相談に来る方が、なんでそんなふうに万事欲望に対して淡白なのかは疑問なのですが、美意識なのかな、というのが現在の自分の分析です。
いつまでも権力に執着していてガツガツするのはカッコ悪い、という考え方を持っています。
こんなふうに言うのは簡単なんですが、実際に実行するのは難しいですよね。
みなさん元気です
たまに連絡を取るのですが、みなさんご高齢にもかかわらずお元気です。
80歳の時に事前相談させてもらって、今95歳で頭もシャンとしている方、なんていうのは普通にいらっしゃいます。
長生きしているというのが私の印象です。
残念ながら統計を取るには母集団が少ないので、彼らが長生きであるという統計がないのが申し訳ないですが。
私としてもお客さんというよりは友人のような付き合いをさせていただいているので、長生きしていただくのは助かります。
健康でお金があって人間関係が良ければ長生きするのは当然かと。
というわけで最初は「自分の葬儀の事前相談をする男性はカッコいい説」というタイトルにしようと思いましたが
最終的に「自分の葬儀の事前相談をする男性はカッコ良くて長生きする説」にしました。
葬儀の事前相談に来るということは、まわりに迷惑をかけたくない、自分の人生に最期まで責任を持ちたいという美学を持っている人です。
やっぱりそういう人はかっこいいですし、自分もそうなりたいですね。
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