葬儀社ティアの分析のおかしなところを指摘してみた




最近「一橋MBAケースブック 【戦略転換編】」という本が出版されました。
一橋大学でMBAを取りたて(取る前?)の方々が各企業の分析を行ったのをまとめた本のようです。

第1章は 葬儀業界の変革者、ティアの戦略
ということで名古屋発の葬儀社ティアの成長の理由を分析しています。

大きいくくりでコンサル系書籍としては以前紹介した大前研一先生の葬儀業界分析がダメダメだったので、今回は期待して購入しました。

このブログでも過去何度かティアの成長の理由について触れています。
ティアが成長したのは
A創業時に金持ちの投資家(横山 博一氏)を見つけた
B賃貸による安い会館でドミナント展開をした
C創業社長の冨安徳久氏のキャラクター
以上の3つ理由であると私は考えています。

BとCに関しては本書でもはっきり言及されていて、同意します。
しかし「それは違うだろう」と思われる点が何カ所かありましたので、私の意見を述べてみます。

事前に断っておきますが、私もティアさんは良い葬儀社だと考えています。
ただ成功したからと言って、なんでもかんでもほめるのは違うのではないか、ということです。

(もちろん学べる視点もたくさんあるので、葬儀屋さんはこの本を買って損はないです)

ティアは生前の本人のターゲティングを積極的に行っているのか?

ティアは「生前の本人」という、一見すると利益ポテンシャルを低下させるような革新的なターゲティングを行った

葬儀を生きている本人に検討させるという常識の転換を行った

というようにティアは「生前の本人」を対象にしたのがすごいと何度も力説しページを割いています。
これはつまり生前に自分の葬儀を考えさせる、もしくは事前相談をさせる、ということですよね?
「生前の本人」を対象にしたというのは一体何を根拠に言っているのでしょうか?
どこにもその根拠となる記述を見つけることができませんでした。

たとえば
セレモアのエール清月記の葬儀信託などの葬祭信託系の商品は明らかに「生前の本人」が自分自身の葬儀を契約する仕組みです。
これらの葬儀社は確かに「生前の本人」をターゲットにしていますし、この商品が売れているならマーケットを新たに開発したと言えるでしょう。
しかしティアはこのような商品を扱っていません。
個⼈投資家向け会社説明会資料には生前見積もりを推奨していると書かれていますが、別にそれは自分自身の葬儀であるとは書いていません。
強いて言えば終身保険の保険会社を紹介している程度です。

ではほとんどの葬儀屋さんも行っている会員制度による集客についてはどうでしょうか。
ティアさんも事前にティアの会員になることを勧めています。
しかし葬儀業界の中の人なら分かると思うのですが、事前相談に訪れたり会員になったりする人の主流は「家族が亡くなりそうな人」です。
自分自身のお葬式の相談のみに来る人はおそらくまだ全体の1~2割くらいの比率です。
確かに以前と比べると事前相談者全体に占める、自分自身の葬儀相談者の比率は増加していますが、それはどこの葬儀社もそうでしょう。
つまり「生前の本人」を対象にするというのは程度の差こそあれ、どの葬儀社も行っています。
取り立ててティアがこのセグメントをターゲットにした、そしてうまくいったという根拠は何でしょうか?

この本では「生前の本人」を対象としたという主張の根拠がないどころか、むしろ逆のことを書いています。

ティアの会の秀逸な点は、入会した本人のみならず、親族や知人にも会員の権利を行使できるところ

と評価しています。
しかし割引対象は会員の親族まで有効としている葬儀社が多い現在の状況において、「知人」まで対象にしてしまうというのは、本人の葬儀を主眼にすえることとは、むしろ逆の施策です。
おかしくないですか?

それからこのソースを出すのは反則かも知れませんが、友人に元ティアの人がいます。
彼に聞いたところでも「自分自身のお葬式の事前相談の比率は、他社と違いはないと思う」という回答でした。

それともティアの会員にもならず、事前相談にも行かず、それでも自分が亡くなったらティアに連絡するように家族に遺言を遺している人が大量にいるのでしょうか。

この書籍をお持ちの方は図1-1-2を見てください。
この図は鎌倉新書の第二回お葬式に関わる意識調査における「葬儀社を決めるまでにかかった時間」のアンケートデータを筆者が再構成しています。
そこには

生前に故人「が」葬儀社を決めていた 24.1%

とのデータが載っています。(「」は私が加筆)
あれ、生前に本人が決める比率がそんなに高いか?と不審に思い鎌倉新書の元データ
を調べたところ、元データは

生前に故人「と」葬儀社を決めていた 24.1%

となっています。

つまり「生前の本人」ではなく家族が主体で決めていたケースを含むということですよね。
実際は家族が本人に相談なく事前に相談していたというケースも含まれるでしょう。

これだと意味が異なってきますよね。
自分の主張を補強するためのデータの意図的な改竄(かいざん)をしたのでないとすれば
(ティアではなく一般的な統計であるものの)このデータを読み違えて、事前相談と言えば自分自身のお葬式の相談という思い込みを筆者はしてしまったのでしょうか。

ティアは明朗かつ低料金なのか?

次にティアの特徴として

① 低価格の訴求

を挙げています。

ティアの最大の特徴は、明朗かつ低価格な料金である。明朗さに関しては、同業他社に先駆けて見積もりの内訳を開示しており

というのは言い過ぎです。

ティアは先駆けたのか?

確かに見積もりの内訳を示すというのは当時の名古屋の他業者と比べて先進的だったのかも知れませんが、
関西圏や首都圏では別に珍しくもないレベルでした。
「同業他社に先駆けて」ではありません。

この程度は言葉の綾(あや)だと思う人もいるかもしれません。しかし
・冨安社長は歴史修正主義(笑)のところがある
・その前から見積もりの透明化を行っていた先人達に失礼
という理由で、こういった内容の主張がされている場合は小言っぽいと思いつつ指摘することにしています。
筆者がティアの主張を鵜呑みにしたのではなく、独自に「先駆けていた」という確証をお持ちということなら、ご意見を承りたいです。

ティアは低価格なのか?

さて低価格の根拠として

ティアの2016年9月期における平均単価が106万であるのに対して、2015年の全国平均葬儀単価が142万円であるから、およそ25% 程度低い単価となっている

と言っていますが、この全国平均葬儀単価142万円というソースはどこでしょう?
図1-1-6の特定サービス産業動態統計調査の業界売上高を件取扱件数で割った可能性が高いのですが、もし仮にそうだとすると、この数字は精度が低く上振れしています。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査を真に受けてみる | 考える葬儀屋さんのブログ
全国平均が142万円というのはちょっと高すぎです。
(そもそもこの金額にどのアイテムを含んでいるかがはっきりしないので、単純比較に無理があるのですが)
直葬も増えている現在の状況を考えると、平均値としてこの数値を超えられない葬儀屋さんがほとんどではないでしょうか。
ティアの平均単価が106万というのは別に低価格でもなく平均的だと思います。

統計データは精度が低い

ここで少し余談です。
以前この記事でも申し上げたのですが
この書籍で取り上げられている葬儀関係の統計データは精度が低いのです。
葬儀業界は監督官庁もなく(だから日本に葬儀社が何社あるのかということすら把握できていない)、発表元の組織のポジショントークを補強するための統計がばらまかれているのが原因です。
私の心情としては、こんな精度の低いデータを使いやがって、ではなく、こんなデータしか用意できない業界でごめんなさいというのが、正直なところです。

おそらく筆者もこの点は薄々気づいていたはずです。
巻末で

株式会社ユニクエスト・オンライン田中社長の発言として「会館の稼働率は1割以下」と述べられている。また、株式会社みんれびが運営する「安くて豪華なお葬式」のホームページには、「実質稼働率は、30% 程」という記載がある。正確な稼働率はわからないものの、ティアの葬儀会館が高稼働であることは推測できる

というように妄想レベルの発言すら引用をせざるを得なかったのは気の毒です。

とはいえ明らかに筆者が読み違えているところもあります。

仲介サービスであるといえそうだが、現在では病院からの紹介は1%

と言っています。
これはデータを読み違えています。
確かに近年は病院の紹介で葬儀社を決めるのは1割を切る勢いですが1%ということはないです。
1%なら葬儀社が病院に紹介手数料払って霊安室業務を請け負って、さらにスタッフをずっと病院に貼り付けておくわけがありません。
この記述の元ネタは図1-1-9日本消費者協会の葬儀についてのアンケート調査を出典としています。

これは
「葬儀について最初に相談した相手」
が病院だったケースが1%だと言っているのであって、葬儀社を病院の紹介で選んだのが1%と言っているわけではありません。
これは筆者が読み違えています。

ティアは明朗なのか?

さて話を本題にもどします。
ティアは「明朗」と言っていますが、果たしてそうでしょうか?
別のページで

通常葬儀一式の費用は105万円となる。しかし、会員であれば祭壇価格が1割引、基本祭壇まわりは無料となり、葬儀一式の費用は57万円になる

と書いていますが、筆者はこれをおかしいと思わなかったのでしょうか?
もし会員でなければ、最終的に会員の倍近い費用を払わねばならず、差額の48万円はまるまるティアの利益になるわけですよね?
こんな価格設定は果たして「明朗」なのでしょうか?
どういう原価計算してるんだよ、と私は思うのですが。

つまりティアは首都圏レベルの業者と比べると低価格でも明朗でもなく、それゆえ首都圏進出を宣言したにもかかわらず、(名古屋ほど)うまくいっていないのでは、というのが私の見立てです。
(そうなると名古屋という土地を選んだことを、これまでの成功の要因の一つとして加えるべきなのかもしれません)

消費者が購買を意思決定する上で人材育成が決定的に重要か?

次に人材の話です。

社内教育機関であるティアアカデミーを設立したり、社内資格であるティア検定を設けたりして人材教育に注力しており、葬儀施行のフロントに立つ人材の質的向上を図ることで、Productである葬儀サービスの品質を高めているものと考えられる

 

消費者が購買を意思決定する上で人材育成が決定的に重要

確かに葬儀社の質を決定するのは人材です。
そのため質の良い人材を採用し、教育するのは必須です。

しかし「消費者が購買を意思決定する上で」人材育成が決定的に重要とは言えないのがつらいところなのです。
情報の非対称性の弊害の一つで、人材の良さを消費者に伝えることには限界があります。

葬儀屋さんのサイトを見てもらえば分かると思いますが、人材に関して、客観的評価方法としてどこも葬祭ディレクターの資格を持っていると誇る以外になく、
あとは「ウチの人材は優れている」と繰り返すのみです。
それは(多少のブランディングができているとはいえ)ティアさんも同様です。

粗っぽく言うと消費者できることと言えば、その葬儀屋さんの言い分を信じるか信じないかだけです。
消費者は、時間も情報もなく精神的に厳しい状況で、葬儀屋さんの人材の良し悪しを十分に見分ける方法を持ちません。
(だから私は自著のなかで客観的に葬儀社の人材の良し悪しを見分ける方法を書いたのです。)

消費者がお葬式という商品の購買を意思決定する上で、人材の良さを消費者が判断することに限界があると気づいているから、ティアはフランチャイズを行っているのです。
本当に人材至上主義ならフランチャイズという方法はとりません。
なぜなら葬儀屋さんという育成に手間がかかる職業のクオリティコントロールは、フランチャイズでは極めて困難だからです。
質はそこそこにして、支部をいっぱい作って認知度を上げるという割り切った戦略をとっているのがティアの強みだと私は考えます。

なぜ他社はティアのようになれなかったのか?

最後の方でなぜ他社はティアのようになれなかったのか、という分析が行われています。
以前そのことに関連した記事を書いたことがあるので、参考までに貼っておきます。
過去に軽く書き流したものなので、学術的厳密性はないのでご容赦を。
中小葬儀社は大手葬儀社より優れているのか? | 考える葬儀屋さんのブログ
大きなシェアを持つ葬儀社が少ない理由 | 考える葬儀屋さんのブログ

総評

さて総評です。

MBAホルダーにさえミスリードさせて、過剰評価させてしまうティアの戦略はすばらしい、とこの本を読んで私は思いました。
(いや、皮肉ではなく本当に)











3 件のコメント

  • 中国全土には約7,000の葬儀場があり、
    99%が国または自治体、自治体民政局の子会社
    民間もPFIが多く、民設民営は僅かです
    10年以上前に「市場開放」の話はありましたが、過度な価格競争、客の奪い合いにより国民・市民への不利な事案が想定をされて、「一部開放」に留めました
    これらの施策と法令により、民間の葬儀参入を規制をしています

    しかし、葬儀や遺体搬送、司会や遺体処置は法令規制をかけましたが、遺族サポートと湯灌には法令規制をかけていなかったために、ここ3年間で中国全土に
    約1,000以上の業者が出て来ました
    99%の公営のうち50%程度が赤字であり、PFIや民間への許認可も課題です

    そのために、北京大学西安校(大学院)の
    MBIコースに政府や自治体の葬儀施策担当者や民間経営者(今後、葬儀業参入)を
    集めて、民政としての葬儀とビジネスとしての葬儀を教える予定です

    教員はハーバードやコロンビア組、
    学生も北京や清華が多いので、
    少々の不安も

  • 日本の葬儀と関連業は、「最大の反面教材」であり最も教育や研究、論文にしやすいのは確かです

    法令や条例、資格や許認可が無く(霊柩事業以外)、自由競争のために葬儀価格は世界1高いが、モラルは限りなく低い
    ショーパフォーマンスも世界1高いが、
    その意味や意義、論理的には低い
    そのために、「カネは儲かるが、社会的評価は限りなく低い」
    企業毎や団体毎のモラルでは無く、
    社会的規則厳守が必要ではあるが、
    守るべき法令も無く、守る気も無し

    法令のある台湾ではヤクザやヤクザもどきも多く、同じく法令のある韓国では
    例年100名程が逮捕されている事から、
    法令や条例で規制をしても、企業や団体、従事者の教養や教育、モラルの低さが主因との評価も

    日本の消費者は自画自賛や羊頭狗肉に引っかかる傾向が他国より強く、
    「CM効果が強い反面に、期待に裏切られた感も強い」ために、「一限客は獲れてもリピート客は獲れない」との面白い現象もあります
    格付けや斡旋での優良評価よりも
    良い葬儀社は沢山有りますが、
    これを引き当てるかは「運だけ」
    ネット社会の恩恵は、悪意のある者に多い

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