「香典葬」がダメな理由




今回ご紹介する本はこちら
「香典葬のすすめ―蓄えなしでも失敗せずに葬儀を出す方法」

埼玉県の葬儀社の社長が、お書きになった本です。 

主旨を要約すると
「参列者を招いたお葬式をしましょう。
香典による収入があるので充分な蓄えが無くてもお葬式ができます。
これを香典葬と名付け、もっと普及させよう!」
ということです。

社会的なつながりを大切にして、
参列者を招きましょう、っていう考え方は同意できます。

ただ直葬のことを
「自分の親や肉親をゴミのように破棄」
「ある意味それは犯罪です」
「人間として守らなければならない最後の一線を越えてしまっている気がします」
「遺体処理のイベント」 
とけなすのは明らかに言い過ぎだと思います。

葬儀担当者である自分の経験上
直葬で心のこもったお見送りができたケースはいくらでもあります。

さて本題に入る前に
他の細かい気になる点も挙げておきます。

・「葬儀費用は所得税の控除対象です。
(中略)領収書を発行してもらい年末調整や確定申告に使います。」(P157)
↑間違い。
葬儀費用が税金に関係してくるのは相続税の場合です。
こんなデタラメな説明をしているから
世間から葬儀屋はバカだと思われるのではないでしょうか。

・エピソードが作りっぽい。
ある調査では~
ある僧侶の話では~
~と言われている
と、いった調子。

札

さて本題。

この本の主題である
「香典による収入があるので充分な蓄えが無くてもお葬式ができます」
に関して。

この理屈おかしくないですか。

ちなみに都市部の個人葬では、それほどたくさんの参列は見込めない、
っていう話を私はしたいわけではありません。

これは埼玉の葬儀社の社長が書いた本を
埼玉新聞社が出版していることからも分かるとおり
埼玉在住の方向けに書かれていると思うので。
そこは別にいいんです。

おかしいと思うのは次の2点。

その一
仮に香典葬を行って香典の「収入」が100万円あったとします。
だがよく考えれば分かることですが、
この相互扶助のシステムを社会全体で成立させるためには
自分自身も過去~将来に渡って総額100万円の香典を持参しないといけない
ということですよね。
つまり収支はプラスマイナスゼロであって
現在おこなうべきはずの支出のタイミングをずらしてるというだけの話
ではないでしょうか。
「充分な蓄えが無くてもお葬式ができる」にはほど遠いのでは?
その二
香典をもらったとしても、通常香典返しをしなければなりません。
お葬式の場で直接渡すにしても、後から四十九日の時に送るにしても。

香典返しは大体もらった金額の半分くらいでしょうか。
埼玉にも香典返しの習慣はあるでしょう。
また
通夜の時に参列者に料理をふるまわなければなりません。
同じくこの習慣も埼玉にあるでしょう。
参列者全員が通夜の料理を食べる訳ではありませんが、
告別式より通夜の方が参列者が多い傾向があるので
香典を持参した人の半分くらいは
料理を召し上がるでしょう。
さらに、香典返しとは別に、
実際は足を運んでくれたことに対しての少額のお返し物も必要でしょうから
たとえ1人当たり5000円の香典を持参したとしても

香典-(香典返し+通夜料理代+参列に対するお返し物)

って引いていったらほどんど香典は残らないのでは

だから「予想以上の参列者が来ても、持参してくれる香典で、
お返し物や料理(≒変動費)の増加分を相殺できますよ」
ってことは言えますが
「香典による収入があるので充分な蓄えが無くてもお葬式ができる」から
直葬や家族葬をやめて参列者を呼びましょうって言い方をするのは
意図的なミスリードではないですか?

というわけで
先ほど「その一」の説明で収支はプラスマイナスゼロと申し上げましたが
実はそれは正しくありません。
ほとんどがお返しの品物や料理に変換されるので
お返し物業者や料理業者が得る利益分が、
施主にとってはマイナスになるのです。

上記の問題点について本文では全く触れていません。

付録の「葬儀の流れ」の説明の中で、たった1ページを使って
香典返しと通夜の料理という習慣がある、と申し訳程度に述べているだけです。

冒頭でも申し上げましたように、
参列者を招く葬儀の良さというは当然あります。
しかしそれを勧める根拠が香典というのが
私の頭では理解できませんでした。

私には
「香典葬」というのが葬儀屋の
穴だらけのポジショントーク
にしか聞こえないのです。

(追記)

 本日(2013年2月4日)の読売新聞朝刊1面下段に、

「香典葬のすすめ」の広告が掲載されているのを発見しました。

(引用開始)
『「現金収入」がある香典葬のすすめ
香典葬は葬儀費用の全額
または80%~60%を
賄える「現金収入」があります』
(引用終わり)

広告の説明に私が同意できないのは上記記事中で述べた通りです。
それにしても
↑この記事がアップされてから広告を掲載するという間の悪さは仕方ないとしても
先日から現在に至るまで
アマゾン、楽天ブックスどちらも在庫切れになっています・・・
編集サイドというか出版元は一体何がしたいんでしょうか?











4 件のコメント

  • 埼玉にある街の葬儀屋さんで働いています。
    主にホームページや広告、営業担当をしています。

    記事を読みながら「福祉葬祭だろうなぁ」と思ったら案の定でした(笑)
    ここのチラシ、すっごい強気なんですよね。これ読んだお客さんが勘違いしてしまわないか心配になってしまいます。

    私も広告作成者のはしくれ。
    ミスリードのない正々堂々としたチラシ作りを心がけたい所存です。

    とはいえ、福祉葬祭さんは地元じゃかなり力持ってるんで…。あんま関わりたくないですね(笑)

  • Tell A Rai様、
    情報提供ありがとうございます。

    >福祉葬祭さんは地元じゃかなり力持ってるんで
    なるほど。
    私のような一葬儀屋が噛みついても影響なしですね(^^;)

  • そんなに目くじらをたてる事ではないでしょう。葬儀社としては家族葬をうたった方が世間的なウケがいい時代に、敢えて反対な主張をするのは大変な事だと思います。
    あまり批判しすぎるとかえってあなたの考えが浅はかに聞こえてしまいます。もう少し冷静になられて、大きな視点で葬儀業界をご覧になられてはいかがですか?
    私にはあなたがストレスの溜まっている葬儀屋さんにしかみえないです。

  • ある葬儀屋様、
    お気を悪くさせてしまったようで申し訳ありません。
    >大きな視点で葬儀業界をご覧になられては
    このブログは葬儀屋側の理屈だけを斟酌することなく
    消費者の方に多面的な見方を示すことを目的の一つとしております。
    ご理解いただけると有り難いです。
    もちろんこの記事は書籍の評論に過ぎませんが
    私の主張に間違っている箇所があり
    福祉葬祭さんからご指摘を頂くことがありましたら
    訂正したいと考えております。

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