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もうお葬式の担当を持ちたくない、と思ったときに 3




葬儀屋の仕事を始めたとき以来、私は月に1回はこの詩を読み返します。
多分、この仕事を辞めるときまで読み返し続けると思います。

全ての新人葬儀屋さんへ。

宮沢賢治 「告別」

おまえのバスの三連音が
どんなぐあいに鳴っていたかを
おそらくおまえはわかっていまい
その純朴さ希みに充ちたたのしさは
ほとんどおれを草葉のようにふるわせた
もしもおまえがそれらの音の特性や
立派な無数の順列を
はっきり知って自由にいつでも使えるならば
おまえは辛くてそしてかがやく天の仕事もするだろう
泰西(たいせい)著名の楽人たちが
幼齢弦(ようれいげん)や鍵器(けんき)をとって
すでに一家をなしたがように
おまえはそのころ
この国にある皮革の鼓器(こき)と
竹でつくった管とをとった

けれどもいまごろちょうどおまえの年ごろで
おまえの素質と力をもっているものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだろう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあいだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけずられたり
自分でそれをなくすのだ
すべての才や材というものは
ひとにとどまるものでない
(ひとさえひとにとどまらぬ)

云わなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけわしいみちをあるくだろう
そのあとでおまえのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまえをもうもう見ない

なぜならおれは
すこしぐらいの仕事ができて
そいつに腰をかけてるような
そんな多数をいちばんいやにおもうのだ

もしもおまえが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもうようになるそのとき
おまえに無数の影と光りの像があらわれる
おまえはそれを音にするのだ

みんなが町で暮したり
一日あそんでいるときに
おまえはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまえは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌うのだ

もし楽器がなかったら
いいかおまえはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいい

 











2 件のコメント

  • 以前コメントした、元葬儀社の者です。
    最新の更新から辿り、再びこちらの記事を読ませていただきました。
    葬祭業から身を引いた人間が今更ですけどね。
    私は今も業界には関わってはおりますので、物理教師様のような葬儀屋さんが業界を占有してくれるような時代を心待ちにしております。
    今後ともよろしくお願いいたします。

  • ベニー様、
    コメントありがとうございます。
    >葬祭業から身を引いた人間が今更ですけどね
    いえ、一歩離れたところからしか見えない景色もあると思いますので
    こちらこそよろしくお願いいたします。

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