最近M&Aを行うファンドのサイトで興味深い記事を発見しました。
ちなみにM&Aとは企業の買収や合併のことです。
意外と葬儀業界でもM&Aが行われているんですね。
さてここでウィキペディアのM&Aの記述から。
「日本の中小企業のM&Aの譲渡側の動機として多いのは
「後継者問題」および「事業の将来性の不安」の二つともされる。
(中略)
非上場会社の経営者が事業の継承を考えた時、選択肢としては
「親族または社員への継承」「株式上場(IPO)」「清算」「M&A」
という4つがありはするものの、
実際は最初の2つは諸条件をクリアして実現できることは稀で、
「清算・廃業」は従業員にとって最悪の選択肢で、
結果としてM&Aという選択肢が浮上してくるという。」
圧倒的に中小が多く「後継者問題」および「事業の将来性の不安」という点では
葬儀業界は、まさにそのとおりだと思います。
ただ葬儀屋さんの従業員は料理人と同じで、
自分のスキルをそのまま別の葬儀社で生かすことが可能なので、
全体の多くを占める家族経営レベルの葬儀社なら
経営を譲渡するより清算してしまうケースが多いのかも。
葬儀会館の借金が残っているならまた話も違ってくると思いますが。
さてファンドのサイト記事を読み始めると・・・
「葬儀業界は、業務内容により以下の業種に分類されます。
* 斎場運営
* 葬祭互助会
* 葬儀会社紹介サービス」
MECE(漏れなし・ダブりなし)って言葉を持ち出す以前に、これヘンでしょ。
数で言えば最大勢力の互助会以外の専門葬儀社、
というカテゴリーがまるまる抜けてますけど・・・
さて次です。
(引用開始)
「売り手のメリット
* 従業員の雇用を維持できる
* 互助会会員からの前受金を保全できる
* 創業者利潤を確定できる
* 有力な葬儀グループの傘下で、安定的・効率的な事業経営ができる
買い手のメリット
* 業界経験のある人材を一括で確保できる
* 事業基盤の拡大によりスケールメリットを享受できる
* 新設が容易でない葬祭施設を取得できる」
(引用終わり)
まず売り手のメリットについて
「従業員の雇用を維持できる」については前述したように
そこそこの規模の関連会社を持っているケースを除いては、
清算した方がよいかもしれません。
「互助会会員からの前受金を保全できる」のは果たしてどうなんでしょう。
法律では会員に対して半額しか返済の義務を負わないので、
身売りを考えなければいけない状態なら、
すでに半額は投資していて、焦げ付いている可能性が高い。
半額以上残っているなら(モラルの問題を置いとけば)
潰しちゃった方が経営者側としては合理的な気もします。
「有力な葬儀グループの傘下で、安定的・効率的な事業経営ができる」
これは良いところに拾ってもらえればその通りだと思います。
次に買い手のメリットについて
「業界経験のある人材を一括で確保できる」
は、
葬儀社のクオリティ=人材
と個人的に思っているので
身売りをしなければいけないところの人材はあまり優秀ではない可能性は高い気がします。
「事業基盤の拡大によりスケールメリットを享受できる」に関しては
・1件の葬儀施行は3人程度のスタッフがいればできること、
・人手がたくさん必要な社葬は減少傾向にあること
・葬儀施行部門から関連分野(料理・返礼品・供花)などに多角化するほど利益率は落ちていく
という傾向があるので、「選択と集中」を考えれば
「スケールメリット」はケースバイケースでしょうか。
「新設が容易でない葬祭施設を取得できる」
たぶん買い手のメリットとしてはこれが一番魅力的ではないでしょうか。
・現在葬儀会館は飽和状態にあること、
・新規に建築すると住民の反対運動が起きやすいこと
などがその理由としてあげられます。
さて、もし私がハゲタカファンドのマネージャーだったら。
この会社をねらいます。
ん?なんで出版社?と思われる方も多いと思いますが
ここの連結子会社は23区内で6つの火葬場を経営しています。
多分金額ベースでは(公営火葬場の税金の補助を除いて)9割以上のシェアではないでしょうか?
IR情報を読むと出版部門の不振を火葬場部門が支えているようです。
毎年出版部門の不振が原因で赤字を繰り返しているため、株価はどんどん落ちています(株価チャート)
最近時価総額は20億を割り込むこともあったようですね。
今やかなり「お買い得」。
ここを買収して、出版部門は清算、火葬場経営に集中させる、
っていうのはいかがでしょうか。
葬儀の件数は約30年先まで右肩上がりですが、
市場原理に基づいた裁定が行われますから(つまり単価が下がる)
1件あたりの葬儀屋さんの収入は下落する一方です。
一方、火葬業務は競争相手がおらずほぼ独占状態ですし、
(23区内には公営の火葬場は2箇所しかなく不便な場所にあります。
また東京都に今後民間の新しい火葬場を作ることはできません)
直葬がどれだけ増えても単価に影響がないので
売上げは伸びていくだけです。
死亡人口がピークを迎える2040年頃まで
売上げが伸びていきます。
火葬料の価格を値上げしても消費者は火葬場を使わざるを得ないので価格弾力性自体存在しません。
仮に今の倍の値段にしても「売れる」ということです。
現に今年の4月1日から48,000円の火葬料が59,000円に値上げされました。
他のインフラ(電気・ガス事業など)と違って、販売価格の許認可も無いようです。
(余談ですが、上記の火葬場と府中にある民間火葬場と谷塚にある民間火葬場が、同じ日にち・同じ価格で火葬料金を値上げしました。これってカルテルにはならないんでしょうか?)
ちまたではM&Aはうまくいかないことも多いようですし
あくまで、モラルをちょっと横に置いた与太話なんですけど
いかがでしょうか?
(私が所有している株式はほとんんどインデックス系なので、
個別株の分析はそれほど得意ではありません(^_^;)
内容におかしいところがあればご指摘ください)
追記:ここ数日この会社の株価が乱高下しているのでちょっとビビってるんですが(^_^;)
さらに追記:
上記の記事が、株式の購入を勧めているかのように受け取られるのではないか
とのご指摘を頂戴しました。
わたくしは、上記の株式を購入する気はなく
また投資の判断はくれぐれも自己責任で
ということをお断りしておきます。
いつも楽しく読ませていただいております。
苦言を呈するようでアレですが、
廣済堂の株価を見ましたが、このタイミングで、この手の仕手っぽい株を、
あたかも買うのを動機付けするかのように書かれるのは、いかがなものかと。
別に廣済堂を悪く思っているわけではありません。
勝手に私が悪くとっただけかもしれませんが、
株が絡んでくるのは、いけ好かないのです。
葬儀に関して信頼ある情報を提供しようとしているのなら、
慎重になった方が良いのではないでしょうか。
素人を信頼させて動機付けさせる情報提供は、
特に匿名のブログに多いように思うんですよ。
ちょっと気になったので、コメントさせてもらいました。
匿名ですが 様
適切なご指摘・アドバイスありがとうございます。
この記事の主眼は、株式を通しての業界分析だったのですが
おっしゃるとおりタイミングが良くなかったと思います。
私自身はこの会社の株を購入する気は全くなく、
まさかここ数日でここまで株価が動くとは予想していませんでした。
>葬儀に関して信頼ある情報を提供しようとしているのなら、
>慎重になった方が良いのではないでしょうか。
その通りだと思います。
今後とも是非当ブログをご愛読いただければ幸いです。
ありがとうございました。
いつも鋭い記事を楽しみにしています。
今回の記事も私にはとても参考になりました!
葬儀会館を新しく作るのは反対運動などを考えると時間がかかるので、M&Aは増えていくでしょうね。
M&Aだと葬儀会館と同時に会員組織も引き継げるので、ゼロからのオープンと比べると事業の立ち上がりが早いというメリットもあります。
廣済堂は以前から注目していますが、多角化しすぎていて葬祭事業の比率が低いので、ずっと様子見です。葬祭事業に特化したら高収益の成長企業になるんですけどね。
最近急上昇しているのは、東北の火葬場が被災して処理能力が足りないので、東京で火葬を受け入れるという報道があったからだと思います。
これからもブログを楽しみにしています。
私は震災以降、葬儀関連のブログは更新を自粛気味です。内容によっては批判されそうで、今までの様には書きにくいなと感じています。
Zaimaxさん、
きっと今回の記事にコメントいただけると思ってました(^_^)
> 東京で火葬を受け入れるという報道があったから
そうなんですか。確かに公営の瑞江斎場では受け入れを行っているのは確認済みなんですが、博善系が受けいれているのかは未確認です。
個人的には、仮に受けいれたとしても、特損扱いで、無料で火葬を行って欲しいと思います。
板橋の民間火葬場も「同日、同価格の値上げ」でありカルテル?と思われますが、公取委はカルテルとは考えていません。(3年ほど前に調査をしたことがありますが)
その理由は「葬儀業界だから」との訳が分からない結論でしたが、東京都等からの告発がない限りは公取委としては動けません。(民間依存率が高すぎる東京都は告発できる立場にないが)
匿名ですがさんが仰る通りに、株価の動きがキナ臭い時の企業情報は難しい部分がありますが、私見としてはTOBもありの条件だと思います。
実は昨年末から私の施設のバックも仕掛けられて、「ホワイトナイトと手を組みました」。
世界最大級の葬儀グループであるSCIも、M&Aで巨大化しましたが、中国、香港、台湾の葬儀現場ではM&Aは日常的に行われています。
そのために、資本提携や株持合い、社外役員の導入等で自己防衛はしていますが、自己保有率を高めなければ守れない(増資も同じ)部分があります。
私としては日本の葬儀社の生き残りは下剋上ではなく、SCI方式だと考えています。
prof 様、
> その理由は「葬儀業界だから」との訳が分からない結論でしたが、東京都等からの告発がない限りは公取委としては動けません。(民間依存率が高すぎる東京都は告発できる立場にないが)
なるほど、こういう事情ですか。
よく分かりました。ありがとうございます!