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父の声を探して




日本で一人ぐらい私と同じことを考えた人がいたなら、参考にしてくれるかもと思って、今回の記事をつらつらと書きました。
二十数年前の留守番電話の音声の中に、父の声を探し求めた顛末(てんまつ)です。

学生時代の留守番電話機を発見

終活、というわけではありませんが、持ち物を減らそうとして断捨離を行っていたある日、大学生時代(二十数年前)に使用していた電話機が、押入れのダンボールの中から出てきました。


当時は貧乏学生だったので大学1年生の時には電話機を持てず、2年生の時に生協でやっと買い求めた、シャープの据え置きタイプの電話機です。スマホがなければ就職活動もままならない今の学生さんには、ちょっと信じられない話かもしれません。

よくこんなの持ってたなと思いつつ、捨てようとしたところ、ふと、あることに気づきました。
この電話機の中に、メッセージを録音するための、留守番電話用マイクロカセットテープが残っています。

「もしかしてこのテープの中に父の声が残っているのでは」

私の父は、私が大学3年生の時に亡くなっています。写真は残っていますが、音声は残っていません。
もしかしたらこのテープの中に、父の声が残っているのではと考えたのです。

専用の再生機を買う

早速電話機の再生機能を使ってテープを再生しようとしましたが、当然というか壊れていて動きません。
標準タイプのカセットテープの再生機ならまだ持っているのですが、それより一回り小さいマイクロカセットテープのため、専用の再生機が必要です。

とはいえ、このマイクロカセットテープの再生機は、現在販売されていません。

「マイクロカセットテープ 再生機 中古」
で検索すると楽天のサイトがメインで出てきましたが、1万円近くします。

「う~ん、微妙な金額・・・」

そこで、「メルカリ」デビューすることにしました。
メルカリでは、1,000円くらいから売られていて、やけに安いなって思っていたら、壊れた機械も平気で売っているんですね。だまされるところだった、と言いたいところですが、どうも修理のパーツ供給用の重要があるようです。

いろいろ探してみて、オリンパス製の再生機を4,000円で買い求めました。

ドキドキしながら、再生。

が・・・なにも聞こえない。

正確に言うと本体のスピーカーからは「シャー」という大音量のノイズが聞こえるばかり。

しかし、ボリュームを最大にして耳を澄ますと、その中でなにか人の声のようなものが混じっています。

これは再生機のスピーカーの問題で、一度外部出力からデジタル録音して、イコライザーで調整すれば、声が聴けるのでは?

さらにPCに落として調整

ここでPC側のマイク入力プラグへマイク端子を、そのコードのもう一方の先にあるミニヘッドホンプラグを、再生機のヘッドホン端子に・・・と思ったら、超ミニヘッドホン端子という特殊な仕様になっていることが判明。

カセットもマイクロなら、端子もマイクロらしい・・・がその必要あるのか?

仕方なくミニヘッドホン→超ミニヘッドホン変換プラグを購入。これはAmazonで普通に売っていました。

ようやく、紆余曲折を経て、A面B面併せて60分のテープ音源を、PCにmp4形式で落とすことに成功。

声が聞き取りやすくなるように、ウインドウズメディアプレーヤーのイコライザーをいろいろ調整して、試行錯誤を繰り返します。
そして誰が何をしゃべっているのか、やっと聞き取れるようになりました。

結末

またもやドキドキしながら再生。

インド旅行のチケットを買った旅行代理店のスタッフの音声。
学生時代のアパートの大家さんの声。
バイト先(今は亡きコンビニの「サンクス」)の友人の連絡。

なつかしい声がたくさんありました。しかし、最後まで聞いても、父の声はありませんでした。

以前、父が亡くなった頃の話を書きましたが
父の葬儀の思い出とその周辺の記憶 | 考える葬儀屋さんのブログ
その中で、父の通夜の直前、私に
「おまえら兄弟飢え死にさせたろか!」
と怒鳴りつけた男のことを描きました。

その男の声が、父の声の代わりに、録音されていました。
父が亡くなった後の、取引の事後処理の話をしていました。

自分の記憶より、実際はずいぶん高い声でした。今となっては何の感情もわいてきません。時が経った、ということなのでしょう。

父の声はありませんでしたが、夭逝した友人Mの声が入っていました。
何に対してかはわかりませんが、「今日はありがとう」と言っていました。
少しだけ、この苦労が報われた気分です。











2 件のコメント

  • 素敵な試み、そのせつなさに涙しました。
    私も大切な人の声を探して右往左往したことがあります。結果、残っていませんでした。
    声というのは、写真以上に肉体的なものなのかもしれません。
    本文を読んで、夭折されたご友人の声が聞こえてくるような気がしました。

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