横浜市民は病院で亡くならないと10万円以上かかってしまうので、それを避ける方法を考えてみた

横浜市民は病院以外の場所で亡くなると(厳密に言うと「医師によって明確に病死や自然死であると判断されず、かつ、死亡が犯罪によるものであるという疑いのある死に方をすると」)10万円以上かかる可能性が高いです。
今回はこれを避ける方法を考えてみました。
(若干精度を欠いた釣り気味のタイトルで申し訳ありません。いわゆる思考実験です。
もし間違っている箇所がございましたら、お手数ですが専門家の方にご指摘をいただければ幸いです)

横浜市で変死するとお金がかかる

先日こんな記事がリリースされました。
年3800遺体を解剖 法医学会も問題視する横浜の「研究所」(NEWS ポストセブン) – Yahoo!ニュース

日本の検視制度(変死者の死因を究明する制度)は多くの問題点を抱えており、過去何度かこのブログでも言及しています。

日本で殺人が見逃される理由

 

記事の趣旨は、
「横浜市では自宅や路上で亡くなっているのが発見されると死亡原因の究明のために解剖されることが多い。
しかし解剖を担当する医者と横浜県警が結託して、どさくさに紛れて解剖費用として市民から不当に金を巻き上げて、医者は私服を肥やしているのでは?」
ということですね。

病院以外の場所で亡くなると、死因を調べるために、解剖が行われる場合があります。
東京23区は監察医務院という解剖を行う公営の専門機関があり無料なのですが、横浜市は民間の医者に委託しており有料です。
横浜市の解剖がいい加減でボッタクリなのは、横浜エリアで活動する葬儀屋さんの間ではよく知られた話です。法医学者や作家で医師の海堂尊氏も著作で同様の指摘を行っています。

一度の解剖が88,000円で、年間3,800体の解剖を行うと、年間3億3440万円の「売上げ」が発生することになります。

横浜市の解剖はいい加減なのを表すものとして、
葬儀屋さんの間で「毒殺するなら東京ではなく横浜で」というブラックジョークがあるくらいです。

このいい加減さは「保土ケ谷事件」と呼ばれる裁判で、よく世間に知られることになりました。

この裁判において、故人の解剖を担当した伊藤医師が「保存していた遺体の一部」として証拠提出したものが、全く別人のものだったのです。これにより、実際には解剖が行われていなかったことが明らかになりました。

実は、伊藤氏が解剖を行っていないことは、葬儀関係者や警察の間では公然の秘密でした。実際の作業は脊髄に注射をして体液を抜くだけだったのです。私も何度か目撃したことがあります。

こんなことは言いたくありませんが人格にも問題があると評判で、私は初めて会って3秒後に罵声を浴びせられた経験があります。
私が「葬儀屋である」という理由だけで。
そういうキャラの人だと事前に先輩から聞いていたので、別に腹も立ちませんでしたが。

この不祥事にもかかわらず、神奈川県警はこの後も、伊藤氏が亡くなるまで横浜市の解剖を依頼し続けました。

東京23区なら行政解剖の途中で司法解剖に切り替わることがあるという話を聞いたことがあります。
つまり急に亡くなった死因を調べる予定だったのが、良く調べてみると、あれこれもしかして殺されてる?という展開です。
横浜市の解剖でそんな事例があったという話は聞いたことがありません。

神奈川県警は、結構な数の殺人事件を見逃していると思います。

興味のある人は「保土ケ谷事件 解剖」で検索してみてください。

実はもっとお金がかかる

さてこの記事では「解剖には8万8000円かかった」と書かれていますが、実際は10万円以上かかります。
なぜなら解剖施設へのご遺体の移動も行わねばならず、その費用も遺族負担だからです。
東京23区は解剖代や移動代全て無料です。

神奈川県警はこのあたりの説明をちゃんとしないので、葬儀屋さんから遺族に対して「10万円以上かかる」と説明しなければならないケースがよくあります。
その結果、葬儀屋さんが遺族からぼったくりと非難されるという理不尽な状況も起きやすいのです。

葬儀屋さんに言わせれば、解剖費用の一時的な立替、解剖遺体の処置の協力や、変死遺体を扱う際の肉体的心理的負担を考えると、むしろやりたくない仕事をやって非難されてしまうわけで
やりきれません。

解剖の種類

これからお話する理解の一助になるよう、国内の解剖の種類一覧を掲載しておきます。

種類目的法的根拠遺族の同意実施条件実施主体
司法解剖死因を刑事事件の観点で究明刑事訴訟法不要犯罪性が強く疑われる場合。検察官または裁判所の命令で行われる。法医学者殺人や事故死など刑事事件として捜査が必要な場合。
行政解剖死因の行政的調査死体解剖保存法不要(※注1)
(監察医務院がある東京・大阪・神戸で行われる)
犯罪性が否定されるが、死因不明の場合。行政機関の要請で行われる。法医学者高齢者が自宅で亡くなり、自然死か判断がつかない場合。
調査法解剖行政的に死因を明らかにする死因・身元調査法(2013年施行)不要犯罪性がなく、不自然な死因が疑われる場合。警察署長の指示で行われる。法医学者孤独死や突然死など犯罪性がない不審死の場合。
承諾解剖医学的に死因を究明する死体解剖保存法 第5条必要遺族が死因に納得していない場合や、医学的調査が必要な場合(病院内外を問わず)。病理医病院で死亡し死因に疑問がある場合、または病院外での不自然な死亡に遺族が同意した場合。
病理解剖疾患の診断や治療の正確性を検証死体解剖保存法 第6条必要病院で死亡し、疾患や治療の正確性を確認する必要がある場合。病理医病院での死亡患者について、病理学的な死因の確認が必要な場合。

(注1:監察医が行う行政解剖は遺族の同意が不要。しかし、監察医制度がない多くの地域では、警察が統計上「承諾解剖」を「行政解剖」として計上するようになった。その結果、「行政解剖には同意が必要」と記載する書物もあるが、これは法律の定義としては正確ではない。)

遺族は「説明」され「承諾」しているのか

これまでは、こんなにお金を取られるのに、遺族は解剖を拒否することが出来ませんでした。
なぜなら横浜市には監察医制度といって、遺族の同意なしに監察医が検死、つまり遺体を解剖できる制度があったからです。

しかし横浜市は、2014年末に監察医制度(遺族の承諾無しに解剖が可能)を廃止したのです。
その結果、監察医制度によって遺族の承諾なしに解剖するということは、現在できなくなっているのです。
それにもかかわらず、横浜市内の変死体処置に関する実務は何一つ全く変わっていません。
病院以外の変死は、横浜市の解剖現場に毎日のように運び込まれています。

そのため私の周囲の葬儀屋さんは、横浜市の監察医制度が廃止されたことに気づいていない人がほとんどでした。

現在は、監察医制度廃止の代わりに死因・身元調査法(警察署長の判断で解剖を可能とする法律)が2013年から施行されているので、警察署長が望めば、遺族が解剖を承諾しなくても調査法解剖という解剖を行うことができます。

さて最近の資料によると神奈川県全域の解剖の約2割が死因・身元調査法にもとづく調査法解剖が行われています。
司法解剖も2割なので、残りの6割の遺体はどういう根拠で解剖されたのでしょうか?

承諾解剖といって、6割の遺族は解剖の申し出をすんなり「承諾」したという建前で、解剖が行われているのです。

しかし10万円以上支払わされた上に、さらに故人を切り刻まれるという選択を、遺族はすんなり承諾するものでしょうか?
ちなみに私は横浜市に変死体を何度も引き取りに行ったことがありますが、神奈川県警の刑事が解剖の種類や法的根拠について、遺族に説明しているところを見たことがありません。

また、死因・身元調査法の第6条第2項には

警察署長は、前項の規定により解剖を実施するに当たっては、あらかじめ、遺族に対して解剖が必要である旨を説明しなければならない。

とあるのですが、これが現場で行われているという話は聞きません。
調査法解剖の場合、警察は説明責任を遺族に果たしているのでしょうか

結局、監察医制度時代と同じく、解剖するのは当然という流れで

  • なし崩し的に承諾解剖を行なっている可能性
  • もしくは説明無しに調査法解剖を行っている可能性

はないでしょうか?

解剖を避ける試み

そこでこの記事のタイトル「横浜市民は病院で亡くならないと10万円以上かかってしまうので、それを避ける方法を考えてみた」になるわけです。

  1. もし遺族が警察から解剖の話を持ち出されたときには、「承諾解剖ならば解剖を承諾しません(同意しません)」と言う。
  2. それでもそれでも死因身元調査法に基づく調査法解剖をすると言われたら、「死因・身元調査法の第6条2項に基づいて警察署長が説明してくれ」と要求する

という態度を取ったら神奈川県警はどういう対応をするのでしょうか。

1の承諾解剖の拒否は法的に成立するでしょう。
そこで2の調査法解剖に切り替えられると遺族の同意無しに解剖が可能になりますが、そのためには警察署長に説明責任が生じます。

実務的にそのつど警察署長が呼ばれるのは大変そうです。
ましてや現場から要請となれば「なにめんどくさい話にしてんだ!」と現場の刑事が上層部から叱責をうける羽目にもなりかねません。
あの神奈川県警のことなら、じゃあ解剖は止めとこうか、という展開もあり得るんじゃないでしょうか。
その結果、解剖と、解剖の費用を払うことが避けられる可能性があるのではないか、というのが私の考えです。

これは、法律上こういう方法があるよ、というだけで成功を保証するものではありませんので結果に責任は負えません。ただ私ならダメ元で試して見るという話です。
注意してください。。

警察の事情

誤解のないように申し上げますが、私は決して警察に対する嫌がらせをしたいわけではありません。

警察のフォローをしておくと、検視の問題点は順法精神や法整備ではなくて、金なのです。
行政の予算がつかないから、そもそもちゃんとした解剖が行われない。
活躍する場が与えられないから解剖医の後継者も育たない、という悪循環の構造です。

手抜き解剖を行う解剖医が儲かる仕組みに協力しているのも
横浜の監察医がちゃんと検死を行っていないことが明るみになった保土ケ谷事件で解剖医をかばったのも
清濁併せ飲んだ結果、不完全でも解剖制度の存続の方をとったということなのではないかと私は考えています。

とはいえ、この状態は不健全です。

高齢化によって、一人暮らしの変死体が増え且つ財政が圧迫される世の中になることで
どんどん殺人がバレにくい世の中になっていくのでしょう。

(追記)Yahoo!の記事の補足

追記として上記のYahoo!記事中のいくつかの箇所を補足しておきます。

胸から腹にかけて大きな縫い目があり、痛々しいものでした。

これは監察医がどうこうというより、

葬儀社は、「日本のどこでも同じように必要な費用ですから」と説明したという。実は、この葬儀社の説明は正しくない。

この葬儀屋のデタラメな説明から分かるとおり、ダメな葬儀屋が雑にご遺体の処置をしたということでしょう。
通常はちゃんと専用のテープで傷口は隠すはず。以前亡くなった子供の頭部のコーティングにコンビニの袋を使っていたという事件がありました。
最近葬儀屋もブラック化していて、質の低いアルバイトを教育もせず現場に放り出すということをやっている弊害だと思います。

次に

葬儀社のスタッフが解剖を手伝うこともあるという。

これ厳密には違法ですよね。医療従事者しか行ってはいけないはず。
警察も見て見ぬふりなのか・・・といっても、死因究明につながらない適当な解剖を黙認するくらいですから、この程度のことは見逃しているのでしょう。




10件のコメント

価格はその時だけではありません
都監察医務院では検案、行政解剖、遺体搬送迎、行政手続きに必要な死体検案書が全て無料(都立機関ですので)

神奈川県は民間企業ですので、料金は全て自社設定
解剖後に生命保険等で死体検案書が必要な場合は、1通で15,000円位
都監察医務院では1通で900円

強く説明を求めると警察官から、「検案と解剖をしなければ死体検案書が貰えませんよ、葬儀も出来ませんよ」と言われて終わり
警察医または監察医でなければ死体検案書を書かず、これらは警察経由であるので、国内で警察権力と対峙する事は事実上は不可能です

遺体縫合は法で定められた範囲内では、
医療に関する国家資格を持ち、旧厚生省医政局医事課通知に基づいた資格種、もしくは国家資格を持たない者では、解剖認定(医師でなくても可)が必要ですが、
これらに適合をしない葬儀従事者が遺体の縫合をしても、死体解剖保存方法や医師法等には抵触はしません
単に、霞ヶ関の通知に反しただけであり、処罰対象ではありません

また、神奈川県の方は定年退職後の受け入れ先であり、本部鑑識課員が事務員として雇用されますので、県警は擁護します

prof様
きっとコメントいただけると思っていました。
解説ありがとうございます。
よく分かりました。

しかしAiがやらないよりはやったほうがいい、程度のものだとすると
この状況は、悪くなる一方ですよね。

Aiに付いても少々

Aiは死因の特定には有効な方法です
しかし、実用性は難しい部分があります

死亡直後の患者への使用ではかなりの精度で診断の確定が可能です
しかし、変死遺体の大部分を占める
「死後経過時間が経った遺体では、画像診断上の問題が出てきます」
死後経過時間と共に死後変化が発生し、
Ai診断の精度は下がります
外表からは確認が出来ない腐敗であっても、画像上では腐敗空包が生じます

Aiの主導権も臨床医療の放射線医と放射線技師、社会医学の法医学医との凌ぎ合い
臨床医療側は死に立ての病院死亡遺体と死後短時間遺体、社会医学側は警察経由の死後経過時間が経った変死遺体なので、Aiに対する評価もかなり違います

変死の場合の正確な診断には、死亡直後からのクーリングが重要であり、これらの徹底が出来ない現状では普及は難しい
東京都観察医務院にはAiも入れましたが、検案による死因、Aiによる死因、解剖による死因の比較検証的意味合い
正確性では解剖に勝る物はありせん

追加

新しい放射線技師のレギュレーション
http://www.jart.jp/news/tclj8k0000000we0-att/Aiguideline_170310.pdf

警察依頼のAiでは警察が2万円を負担しますが、残りの3〜6万円は遺族負担
これに加えて医療機関までの搬送迎費用を葬儀社に支払いのために、神奈川県との差は大きくない

東京都監察医務院であれば検案費用、検案書費用、遺体搬送迎費用、Ai検査費用、行政解剖費用が全て無料

これが都民と県民の民度の違い

敢えて言えば、横浜市民はこの程度
どの自治体に暮らすかで民政は違う

prof様
>警察依頼のAiでは警察が2万円を負担しますが、残りの3〜6万円は遺族負担
うーん、どうも状況を画期的に変えるって程ではないみたいですね。

>「死因・身元調査法の第6条の2に基づいて警察署長が説明してくれ」と要求する

第六条第2項の但書に「遺族がないとき、遺族の所在が不明であるとき又は遺族への説明を終えてから解剖するのではその目的がほとんど達せられないことが明らかであるときは、この限りでない」とあります。
しっかり逃げ道を用意していますね。

亀レス失礼しました。

七八様
コメントありがとうございます。
これはほぼ身元不明遺体のケースですね。(故人がもし誰か分かっているなら警察のデータベースは容易に遺族との接触を可能にする)
自宅死亡を家族が発見した、というケースには適用されないと思います。

高齢の母が神奈川に一人暮らしなのですが、持病もなくもし万が一自宅で倒れたりしたらまさにこの解剖一直線で、なんとかできないものかと。例えばセコムとかの高齢者見守り契約でなんとか生存しているうちに病院に連れて行くことができても、その後死亡して原因わからないと同じ警察→解剖ルートなのでしょうか?

青百合様
コメントありがとうございます。
病院に緊急搬送されても24時間以内に亡くなってしまうと、警察が介入しているようです。
ただし持病があって日頃その病院にかかりつけの医者がいて、死亡診断書を書いてくれるなら、検視を回避できます。

実際はなかなかハードル高いですよね。

ありがとうございます、なんとかその時は24時間踏ん張って欲しいですね…病院はたまに健康診断とか行ってますけどどこも悪いところがなく…健康なほど大変になるって妙な話ですね。

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