日本の死因の究明制度の問題点について、過去に書いた記事をまとめてみました。
目次
日本の死因究明制度の問題点
葬儀屋さんをやっている人なら
「日本て結構殺人事件を見逃してんじゃないの?」
と思ったことがあるのではないでしょうか。
例えばこっそり毒殺されたにもかかわらず、病気で急死したと判定されると、その犯罪は闇に葬られてしまいますよね。
それを防ぐ仕組みは、ざっくり以下のようになっています。
病院でケガや病気で亡くなった場合は、医者が死因をあらためて死亡診断書を書きます。
それ以外のケース、たとえば自宅で亡くなっているのを発見された場合、もしくは病院に運ばれたのだけど24時間以内に亡くなってしまった場合は、まず警察が遺体をあらためます。(これを検視といいます。一方医者が遺体をあらためることを検死もしくは検案といいます。)
警察が見て、明らかに事件性がある場合、例えばお腹にナイフが刺さっている状況であれば、大学病院などで司法解剖が行われます。そして捜査に必要な情報として死因や死亡時間が特定されます。
警察が見て、一件事件性は無いようだが、ちゃんと解剖して調べる必要があると判断された場合は、行政解剖が行われます。これは民間の医者や大学病院に委託される場合もあれば、東京都のように監察医務院という専門の機関を持っている場合もあります。
行政解剖を行ってみたら、やっぱり殺されているというケースもたまにあります。
東京都のように専門の機関を持っている場合は、比較的「ちゃんと」死因の究明が行われます。ただし地方では予算や人手の問題で、極々一部の遺体しか解剖ができないため、結構殺人を見逃しているのではないかと言われています。
殺人を見逃す?
今日のおすすめ本はコレ
「死因不明社会」
これはあの「チームバチスタの栄光」がベストセラーになった
医学博士の海堂尊氏の著作です。
保土ヶ谷事件(横浜の監察医が遺体をちゃんと調べてなかったことが発覚した事件)が起こったとき、私の知り合いの横浜市の葬儀屋さんは
「いつかこういうことが起きると思ってた」
と言いました。
もちろん海堂尊氏はこの監察医を訪れたことは無いと思いますが、
データを見て横浜市の監察医制度がおかしいと思ったのはさすがです。
(90ページ)
もちろん保土ヶ谷事件の真相は私にも分かりません。
ただ「さもありなん」と感じさせるものがあるということです。
またこの本の後半ではAi(遺体に対してCTやMRIを用いて画像を保存しておく)の導入をとなえています。
最近になって、どうやらAiも導入され始めたようです。
将来は検視と検死の形も変わるかもしれませんね。
(ちなみに警察官が遺体を検(あらた)めるのが検視、医師が検めるのが検死です)
というわけで、この本は日本における検視と検死の仕組みとその問題点をほぼ完全に網羅していると言えます。
(特に都市部の)葬儀屋さんは前半の1章から4章まで必読です。
死因究明制度改革から葬儀屋さんの労働環境を予測する
2009年12月9日の日経新聞に下記の記事が載りました。
「中井治国家公安委員長は9日、日本経済新聞の取材に応じ、
犯罪の見逃しを防ぐため死因究明制度を抜本的に見直す法案を
2011年の通常国会に提出したいとの考えを示した。(以下略)」
今後はAiも
積極的に導入していくとのこと。
Aiとは、CT(X線)やMRI(磁気)を用いて遺体を透過した画像を保存しておくことです。
いいことだと思います。
それにしても、世の中の仕組みって変わるんですね。
何事もあきらめてはいけませんね。
でもまだ実現には紆余曲折(うよきょくせつ)がありそう。
さて制度改革は我々の生活に影響を与えてきたわけですが
この検視制度改革が実現すると、
葬儀屋さんの業務内容にどのような影響を与えていくでしょうか。
現状では監察医制度が無い地方ではほとんど解剖が行われていません。
監察医制度がもっとも機能している東京23区でも解剖にいたるのは25%ほどです。
Aiが導入されると、解剖の比率は同じか低下すると思うのですが
(今後解剖医の人件費に税金をたくさん投入するとは思えないため)、
ご遺体を病院まで連れて行ってCTやMRIの検査を行う
というケースは増えてくると思います。
検視を行う場合は全てAiを行うということも考えられます。
この作業を行政が全てやるとは、とても思えません。
予算カットのご時世ですからね。
そうなると、この業務を行うのは、葬儀屋さんの仕事ってことになります。
本来
死亡場所訪問→検視待ち→検視終了→安置先へ
って流れで終わっていたのが
死亡場所訪問→検視待ち→病院でAI→検視終了→安置先へ
という流れになるでしょう。
葬儀屋さんにとっては1件あたりの労働時間が増えるわけです。
それに今後、検死が必要な独居老人の変死はどんどん増加していくことが予想されます。
その結果さらに葬儀屋さんの労働量が増えていくことになるのではないでしょうか。
特に人手の少ない家族経営的な葬儀屋さんにとっては
キツイ時代になるでしょうね。
増えた労働量をその分、価格に転嫁できればいいのですが、
葬儀費用が低下し続けているこの状況では難しいでしょう。
社会正義の観点からはAiの導入は
間違いなく良いことなのですが
葬儀屋さんにとっては
かならずしも朗報ではないようです。
2013年4月から地方の葬儀屋さんが忙しくなる?
2013年2月7日の日経新聞WEB版から
変死のケースの問題点をより詳しく知りたい方は
海堂尊氏の本2冊を参考にしていただければと思います。
さて、日経新聞の記事について。
臨場(出動)率の上昇って書かれていますが、
これは警察のがんばっているアピールであり、
解剖率が低調なままってことは
死因不明社会の問題は全然改善されていない、ってことですね。
さて我々葬儀社の立場として気になるのは
今年4月から施行される
死因・身元調査法(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律)
です。
現在
監察医制度がある地域(東京・大阪・横浜・神戸)では遺族は行政解剖を拒否できない、
でも監察医制度がない地方では遺族は拒否できる、
というダブルスタンダードがまかり通っているのが現実。
で、この死因・身元調査法という法律が施行されると
日本のどこでも警察の権限で解剖ができるようになる、
ということです。
東京や神奈川の葬儀屋さんの場合、
変死の際は検死が終わるまで葬儀屋さんが拘束されてしまうという状況には
慣れていると思います。
この法律が施行されると
今後おそらく地方の葬儀屋さんも同じように拘束される時間が長くなることが
予想されます。
とはいえ、解剖医の人数が全然追いついていないので
実際はそれほど解剖が増えないんじゃないか、という見方もありますし、
一方で警察サイドが殺人見逃し批判を回避するため、
解剖医のスケジュールが空くまで長期間ずっと待っているのでは、
という(葬儀屋さんにとっては最悪の状況も)予想もできます。
その対策として解剖医増やそうっていうのも
近い将来Aiが一般化しちゃったらどうすんの
っていうのもありますし。
ちなみに葬儀屋さんの拘束時間が長い順に挙げると
①(4月から)死亡場所訪問→検視待ち→検視→解剖→検死終了→安置先へ
②(将来)死亡場所訪問→検視待ち→検視→病院でAi→検死終了→安置先へ
③(現在)死亡場所訪問→検視待ち→検視終了→安置先へ
といったところでしょうか。
果たして死因・身元調査法の施行で地方の葬儀屋さんの
労働時間は長期化するのでしょうか?
(追記)
まれに御遺体の扱いや御遺族に対する扱いがぞんざいな警察の人っていますよね。
今後は
「死因・身元調査法の第2条と第3条に抵触してるぞ!」
と言ってやりましょう。
出入り禁止覚悟で(>_<)
以下、死因・身元調査法から引用
(礼意の保持)
第二条 警察官は、死体の取扱いに当たっては、礼意を失わないように注意しなければならない。
(遺族等への配慮)
第三条 警察官は、死体の取扱いに当たっては、遺族等の心身の状況、その置かれている環境等について適切な配慮をしなければならない。
日経新聞の報道から
今朝(2014年1月22日)の日経新聞にこんな記事が載っていました。
大阪大学が法医学の専門家を養成を始めるという内容です。
引用したのはネット上の記事ですが、朝刊の社会面に結構大きく出てましたね。
しかしこの記事読んでまず思ったのは
「じゃ、いままで法医学って何やってたのさ?
死因の究明はやってなかったの?」
ってことです。
そんなわけないですよね。
>海外と比べて低い解剖率の上昇を狙う
そもそも低い解剖率の最大の原因は
死因究明に関して予算が割り当てられていないことではないでしょうか?
そのため解剖医になっても活躍の場が無いってわかってるから
なり手が少なくなってるのでは?
これで人材養成しても
司法試験制度の改悪の二の舞になるような気がするんですが。
深読みすると
国のがんばっているアピールのプロパガンダに
日経が素直に乗ったっていう記事なんでしょうか。
脱「死因不明社会」へ?
こんな記事を見つけました。
変死臨場86・8%全国4位(徳島県)
(↑うまくリンク貼れなかったんで、文末に引用記事を載せました)
臨場(検視官が立ち会うこと)の機会が増えているという記事です。
そりゃ臨場は少ないより多い方がいいと思いますけど
結局解剖しないんなら、死因解明の精度も限度があり
世間に対するただのアピール目的ではないかと。
この読売徳島版の記事もその文脈に、まんま乗っているわけですが・・・
(この記事「進まぬ新法解剖 人材難で思惑外れ」によると
徳島の解剖件数はたったの9件ってことになっているんだけど)
べつにこれ警察が悪いんじゃなくて
予算はあてがわれないわ解剖医はいないわ、
でも殺人を見逃すなって言われたら
とりあえず検視官が立ち会うってアピールをやっとくしかないんじゃなかろうか。
昨年施行された
警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律
によりますと
第十四条 政府は、警察等が取り扱う死体の死因又は
身元を明らかにするための措置が円滑に実施されるようにするため、
必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
そう言われても罰則のない法律って、自主目標みたいなもんですからね。
死因解明の将来はあんまり明るいとは言えないですよね。
次善の策として解剖ほどの精度はなくても
Aiやったらどう、と言う話が出ているわけです。
この点で新しい動きが。
NPO法人が全国初の死亡時画像診断
Ai普及センター
どうやら、りすシステムを中心に民間のAiシステムが立ち上がるようです。
本業(事前に葬儀費用を預かって施行する)とはあまりリンクしそうにないですね。
かといって慈善事業ってわけでもないでしょうし・・・
このサイトを見てよく分からないのが
顧客は誰?
ということ。
(予算の問題を置いとけば)やりたがっているのは行政なんだろうけど
いまのターゲットは
死因を知りたい遺族、
らしい。
でも病死なら病理解剖だし、(病院不信でセカンドオピニオンってことか?)
遺族が死因に疑問持ってるような状況なら
東京都監察医務院が無料で行政解剖コースだしなぁ・・・
てことは、これ、神奈川県に作るべきじゃないかな?
○○さんの検死よりずっと信頼度高いでしょ。
(参考記事:殺人を見逃す?)
<読売徳島版の記事より引用>
◇昨年の県警検視官、県外事件の見逃し教訓
2014年06月07日
変死体が発見された場合に県警の検視官が現場に行く「臨場率」が、高い割合で推移している。昨年は86・8%で、全国47都道府県警で4位。今年3月末現在では、前年同期比11・8ポイント増の94・6%となっている。遺体や現場の状況から事件性の有無を判断する役割を担うとともに、遺族の「なぜ死んだのか」という問いに答える検視官。笠井祥資上席検視官は「犯罪を見逃さないためにも、今後も怠ることなく取り組んでいきたい」と話す。(苅谷俊岐)検視官になるには、検視の実務経験を積んだ警部以上で、警察大学校(東京)で法医学の専門的な研修を受けることが必要。県警の検視官3人は捜査1課に所属し、昨年は変死体1030体のうち894体、今年は3月末までに、298体のうち282体を扱った。
全国でもトップクラスの臨場率を誇るが、10年前の2004年は45・3%で、07年には31・7%にまで落ち込んだ。現場に到着した所轄捜査員らから電話で連絡を受けて現場の状況などを聞き取り、事件性が低いと判断した場合は現場には行かなかったためだ。
しかし同年、暴行を受けて死亡した大相撲の力士が病死扱いされ、09年には鳥取県と首都圏で連続不審死事件が表面化。いずれも検視官が現場に行かず、事件性を見逃していた。
このような状況を踏まえ、徳島県警は電話で判断するこれまでの方法を見直した。09年には臨場率が50・1%と、記録が残っている04年以降で初めて過半数になり、10年には全現場に行くことを原則として82・2%に上昇。11年度から2人だった検視官を3人に増やすなど体制を強化した結果、12年には87・7%になった。
笠井上席検視官は「検視官には、現場で初動捜査の指揮をとり、正しい方向性を示すことが求められる。経験を積んだ警察官しかなれず、若手の捜査能力を上げることにもつながる」と、臨場率向上の意義を強調する。
警察庁の有識者研究会は11年、「臨場率100%を長期的に目指し、当面は50%を目標とする」との提言を出した。県警の捜査関係者によると、臨場率100%にするには、離れた地域で同時間帯に変死体が見つかることを想定した場合、現在の倍以上の人員が必要になるという。
◇メモ 全国都道府県警の平均検視官臨場率は、2008年までは10%台前半の低水準で推移。警察庁の有識者研究会の提言を受けて増加し、13年は全都道府県警で50%を超え、平均は62・7%になった。同年で臨場率が一番高かったのは鳥取県警の97・8%。2位が沖縄県警の93%、3位が高知県警の89・9%と続き、最も低いのは広島県警の51・0%だった。
監察医を主人公にしたドラマが始まるらしいです。
監察医を主人公にした
『ゼロの真実~監察医・松本真央~』
というドラマが始まるらしいです。
武井咲が主演、新ドラマ『ゼロの真実~監察医・松本真央~』
上記のサイトであらすじを見てみると・・・
>3年飛び級で法医学を学んだという才女。
美人監察医というのは実際に見たことありますが・・・
監察医不足の昨今、かっこいいイメージがつけば
監察医希望者も増えるかも・・・
と言いたいところですが、
現状は予算不足が原因の需要不足。
残念ながらあんまり影響ないでしょうね。
慌ただしく一日が過ぎようとしていた夕方、
死因に納得できないという遺族が押し掛けてくる。
遺体は、建設現場の足場から落ちたらしい中年男性の三神忠勝(斎藤歩)。
真央は、一日の疲れなど微塵も見せることなく、
とりつかれたように死因を調べ始める。
(ヾノ・∀・`)ナイナイ
法律(死体解剖保存法?)飛び越えて
クレーマーの遺族の都合で動くって
どんだけアバウトな公的機関かと・・・
ドラマだから、と目をつぶりたいところですが
信じ込んでしまうリテラシーの低い視聴者が意外といるんじゃないでしょうか。
現実に弊害を及ぼしませんように。
それからでんでんを
おそらく解剖のシーンのあるドラマにキャスティングしてはいかんだろう。
どうしたって「冷たい熱帯魚」の殺人鬼を連想せざるを得ないですよね。
というわけで私は恐らく見ないと思います。
今まで全くこんなことがあったなんて、知りませんでした。
自分の無知を恥じます。。
と同時に、
>Ai(遺体に対してCTやMRIを用いて画像を保存しておく)の導入をとなえています。
こちらのリンク先も読んで、初めて知ることがほとんどでした。
シェアリング、感謝致します。
ありがとうございました。
コメントありがとうございます(^_^)
> 自分の無知を恥じます。
いえいえ、今のところ、このシステムの不備を隠そう、隠そうとしているので
ご存じないのが当たり前だと思います。
検視と検死って問題が多いんですね。ビックリしました。
そう言えば、アメリカなどではハッキリと自殺と思われる場合でも解剖して死因を特定するのに、日本では自殺と警察が判断してしまえば、何もしないで火葬してしまう、という話をTVで聞いたような記憶があります。
生禿 様、
新しい職場でのお仕事お忙しそうなのに
いつもコメントいただいてありがとうございます<(_ _)>
> 日本では自殺と警察が判断してしまえば、何もしないで火葬してしまう
そういえば、この間の報道でも殺人事件を検視で見落としていたっていう報道有りましたね。
闇に葬られたケースも多いのだと思います。