安彦良和「イエス」を読む

今回紹介するのはあの安彦良和氏が書いた「イエス」 です。
主人公(聖書では名前の出てこないイエスの隣ではりつけ)られる人)は当然アムロに似ていますし、その妹はララァに似ています。

新約聖書のエピソードを踏まえながら安彦良和氏の解釈によるイエス・キリストの生涯が綴られます。

この話では、イエスは欲深い人々の神輿(みこし)として担がれる人物という描かれ方をしており、神格化されていません。
マグダラのマリアを抱擁する描写がでてきますし、ローマ政府からはテロリストのような扱われ方です。
何よりイエスの死後、復活は起きなかったという描かれ方をしています。
キリスト教原理主義の人は、「人間イエス」の描写にきっと腹を立てるでしょう。

しかしこの一連の流れで最後に復活が起きなかったことによって、イエスが十字架にはりつけ)られて叫んだ有名な言葉
「我が神、なにゆえ私を捨てられるのですか」
を、聖書の描写の何倍も悲痛に響かせています。

安彦氏は伝奇ものとして聖書の記述を押さえた上で、そこに描かれていないところにいかに表現者として創作を持ち込むかという試みに成功しています。
キリスト教徒以外の人は、むしろ人間臭いイエスに好感を持つ人のではないでしょうか。
だから逆にラザロを復活させた描写はむしろいらなかったのでは、と思います。
神の奇跡は全く起こらなかったとしたほうが、人間イエスという物語のテーマに一貫性が出たのではないでしょうか。

この本を漫画だからといって新約聖書の入門書として読むことはお勧めしません。
むしろ基本的な新約聖書の内容を押さえた上で読んだ方が、より著者の創造性を楽しむことができるでしょう。