葬儀屋20年1,000件限界説

葬儀屋さんが担当者として働ける寿命(≒現場での勤続年数)は「20年もしくは担当件数で1,000件限界説」を唱えたいと思います。
これを超えてバーンアウト(燃え尽き)を起こさず葬儀屋さんを続けられる人はまれです。
たとえ本人に葬祭業としての適性が十分あったとしても20年で1,000件は一つの指標になると思います。

統計データはありません。
あくまで私の経験上の定性的な話です。

活動期間に限度がある職業

かつてギャグ漫画家4年寿命説ということが言われました。
締め切りに追いまくられて、睡眠時間削って、キツイ精神状態なのに面白いことを考えなければいけないという地獄のような状況を続けられるのは4年が限界だから
というのがその根拠でした。

これは特殊な事例ですが、超ハードな仕事がいつまでも続かないのは当然のことでしょう。
スポーツ選手は言うに及ばず、長時間労働が前提の外資系コンサルタントの平均勤続年数は3年~5年らしいですし(これはハードさに加えて独立しやすいという要素もありますが)、為替ディーラーやプログラマーは40才までと言われています。

葬儀屋さんの限界

自分が葬儀業界に20年以上在籍してきて、最近葬儀屋さんの限界って20年担当1,000件ぐらいじゃないかなということを、最近考えるようになりました。
葬儀屋さんの中にも、分業制で司会だけしかやらないとか、打ち合わせだけしかやらないとか、通夜と告別式で担当者が変わるとか、女性は夜勤をしないとかいろんな勤務体系があります。
私が1,000件と言っているのは、マルチタスクで病院対応から当直から葬式の後の手伝いまで全てやる場合を1件としてカウントしています。

これまで活動期間が意識されなかった理由

これまであまり葬儀屋さんの活動期間が意識されてこなかったのは、かつて葬儀屋さんという職業が堅気ではなく、底辺の人が勤めて数年でやめていくケースが多かったからです。

定年を考えることに意味のない世界でした。

しかし、大手葬儀社が20年ほど前から大学の新卒採用を始めて、現在では新卒採用は珍しくなくなりました。
そういう人達の中には、人生には不確定要素が多いものの、葬儀屋さんで定年を迎えるというライフプランを立てている人もいるでしょう。

限界を迎える理由

新卒採用が始まった20年前の黎明期にこの業界に入ってきて、ずっと葬儀屋さんで働き続け、最近バーンアウト(燃え尽き)を起こし始めた人が増えてきたように思います。

葬祭業は当直業務もあり時間に不規則で長時間労働です。
精神状態が不安定な遺族がお客様です。
精神的肉体的に辛い仕事です。
文字通り、心身を削る仕事なので、バーンアウトが起きることは当然と言えば当然と言えるかもしれません。
そして40才を超えてくると加齢によって精神と肉体がさらに弱ってきます。
気づかないうちにライフゲージがどんどん減っていっているのです。

とはいえ他の職業にくらべて人の役に立っているというやりがいがとてもあるので、
やりがい>ハードな労働環境
が成立していました。
それでこれまで小さな波を迎えつつも、なんとかなっていたのです。

私が「延命」している理由

私は20年以上1000件以上のお葬式を担当しています。
葬儀業界の新卒プロパーとしてはかなりの高齢(笑)です。
なんとか持ちこたえられているのは、おそらくキャリア戦略を多少意識してきたことと、ゼネラリストの能力があったからです。
葬儀担当以外にもいろいろやらされていたので、それが今振り返ってみると良かったのでしょう。こういうことを言うと自慢と受け取る人がいるかもしれませんが、葬儀屋さんは教養のない人が多いので、そんな組織の中で大卒の教養と処理能力があればいろいろできることはあります。

ああ、それからこのブログもリフレッシュになっているのかもしれないです。

人によってはサポート部門に配属になるという環境の変化によって、「延命」に成功しているケースもあるかもしれません。

家業が葬儀屋さんの人で、活動期間が長い人はいますが、それは軸足が経営者に乗っていることも大きいでしょう。
実際は続けることができなくなって廃業するところが増えています。
またマスコミに登場する葬儀屋さんのなかには「これまで担当数千件」と宣(のたま)う人もいますが、大抵活動期間と整合性が取れていないので、担当件数を盛っているケースがほとんどです。

対策

私は「葬祭業は男子(女子もです)一生の仕事に値する」ということを申し上げてきました。
基本的にその考え方に今も変わりはありません。
しかし大卒葬儀屋のキャリアモデルの先頭を走ってきた者の責任として、後進に対してはもう少し多様なキャリアモデルを示すのが誠実だと考えるようになりました。

新卒で葬儀業界に入社した場合は、バーンアウトを起こして潰れないよう、転職の上限年齢と言われる35才前に別の職種に移る、という選択肢を提示したいです。

最近就職市場が流動化して以前より転職は珍しくなくなってきています。
今後日本社会はさらに転職がしやすくなっていくでしょう。現在転職のリミットは35才と言われていますが、このラインが若年化することはないでしょう。
ならば40過ぎてバーンアウトを起こすという悲劇を避けるためにも、葬儀屋の次にセカンドキャリアを目指す選択肢も頭の隅に置いてもらいたいのです。

セカンドキャリアについてはこの本が参考になります。

また以前メモリード(大手互助会)の代表の吉田茂視氏が中谷彰宏氏との対談で「葬儀屋を経験した人はどこの会社にいってもやっていける」と言っていました。
この二人の言動には同意できないところも多々ありますが、この発言に関しては同意します。

葬儀社の人事制度

「個人商店では難しいかもしれないが、会社の体をなしている大手葬儀社なら、バーンアウトを迎える前に、現場と距離を置いて管理職やさらに経営を目指せばよいのでは?」と思うかもしれません。

しかし葬儀社は「年齢」序列のシステムのところが多いのです。
「年功」序列ですらありません。

大学の新卒入社で15年務めた37才のスタッフより、中途入社で10年しか務めていない高卒の45才の方が先に管理職になる可能性が高いです。
なぜなら現場の生産性は体力と相関があり、体力は若さと相関があります。そのため人事は、ハードな現場仕事ができるギリギリの年齢まで、若いスタッフを現場で使い続けようとするのです。
そのスタッフが管理職の適性を持っていても、十分現場仕事ができているうちは、管理職のポジションに上げるということはしません。
ロートルから上に上がっていくのです。
たとえ高学歴であってもこの構造は変わらず、優遇されることはありません。

一見不公平に見えるこの人事が問題化しないのは、現場の人間には出世よりも現場が好きというメンタリティの持ち主が多いからです。

燃え尽きるその前に

とはいえ新卒採用組は、管理職に「ふさわしい年齢」を迎える前にバーンアウト(燃え尽き)を迎えてしまうという可能性が高まります。
バーンアウトを迎えたときに、ちょうど管理職のポジションが空いていればよいのですが、なかなかそううまくはいきません。
中年でのバーンアウトという最悪の状況を回避するためには、リスクの分散として「最初から35才での転職の可能性をキャリアプランに組み込む」ことがやはり必要だと思うのです。

今回の記事の内容が、いま葬儀社への就職を考えている就活生に二の足を踏ませてしまうことは自覚しています。
でも黙っておくべきではないと判断しました。

以上は当然社風や個体差がある話です。
30年現場をやっても全然平気という人もいるでしょう。

しかし新卒で若くして葬儀業界に入って、10年前後働いている人は私の言ったことを頭の隅に置いといてください。
そして担当できる件数は有限であり、いつか終わり来るかもしれないことを知っておいてください。
それゆえに1件1件のお葬式の担当を大切にしてほしい、というのがまだ「大丈夫な人」に対する私のアドバイスです。




6件のコメント

20年燃え尽きというより、時代についていけなくなるというのが正しいのでは?
ソフトとハード面の移り変わりはだいぶ変わり、20年前と同じように葬儀社を続けていれば潰れます。
これはどの業種にも言えることでしょう。
あと、葬儀社の人間は新卒入社で20代で他業種に転職なら大いにやっていけると思いますが、40才過ぎれば難しいと思います。
考える葬儀屋さんも今更と業種に移るなんて出来ないでしょ?いいところ葬儀評論家ぐらいでは?

燃え尽きた後は経験で仕事をこなすのが大人と言うもんだと思います。

マルチで働いて15年目です。冒頭から、一人うなづきながら拝読しました。全く仰る通りです(笑)
都内斎場には、60-70代と思われるレディさん(⁈)も闊歩しておられます。個人的には、この仕事は天職と思いますが、今と同じ状況で働けるのは50代までだろうと感じています。
個人的にの尊厳先どうするか悩ましいところです。

本当に仰る通りだと思います。考える葬儀屋さんも体調に気をつけて、この冬も乗り越えて下さい。いつも応援しております!

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