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永江さんのブログ記事について葬儀屋さんが考えてみた




永江一石さんというサイト集客を専門としている方がいらっしゃいまして、この方のブログが面白くて勉強になるので毎回楽しみにしています。
以前ツィッターのリプライもいただいたことがあります。

先日その永江さんが葬儀業界に関して記事を書いていらっしゃいました。
先行きがヤバい葬儀屋さんはどうしたら生き残れるか。 – More Access! More Fun! %
さすが頭脳明晰な永江さん、葬儀業界の外部の人にも関わらずかなり的を射ています

葬儀業界となると雑な提案をする大前研一氏とは大違い(笑)
(参考記事:やっぱり大前研一氏の葬儀業界分析は相変わらずヘン | 考える葬儀屋さんのブログ

今回はその永江さんの記事に対するアンサーです。

デキる葬儀屋さんは始めている

永江さんは葬儀後の相続などの死後手続きに関して需要があり
弁護士事務所に(葬儀屋を)M&Aしてもらう
という案を提案しています。
永江さんも

もしかしたらどこかでやってるかもしれませんが

とおっしゃっているように
「弁護士事務所にM&A」されている葬儀社は無いものの(理由は後述します)
ちゃんと考えている葬儀屋さんは死後手続き業務に手を伸ばしています。

たとえば葬儀屋さん最大手のサイトを見てみると
各種手続き(相続相談・遺産・遺品整理)|葬儀後のサポート|葬儀・お葬式なら【公益社】
行政書士や税理士を紹介しています。

私の勤める葬儀社も行政書士と提携しています。
今でもたまに行政書士事務所の方がいっしょにやりませんかと、売り込みにきます。士業の方にとっては、この分野は魅力的なようで、葬儀屋さんとの提携に活路を見出しているようです。
相続税なら税理士の出番ですが、葬儀後の手続きはある程度までなら、行政書士が活躍しています。

よって能力と費用などオーバースペック気味な弁護士を無理に使う必要は無いと思います。
行政書士で十分ではないかと。

大きな案件に、亡くなってから絡むのは難しい

それから本当の資産家の場合、「亡くなってから」弁護士案件の受注は難しいのではないでしょうか。

経験上いわゆる資産家の方は生前から弁護士や信託銀行がついているケースがほとんどだからです。
よく資産家の方に呼ばれて、財産の管理人を務めている弁護士と同席して、葬儀の予算は〇〇万円で、という取り決めをすることがあります。
資産家ほど終活を完璧にやっています。

よって死後に、利益の大きい案件(手数料は相続額に比例することが多い)の受注は難しいです。
そのため葬儀後からの死後手続きのニーズは、いわゆる中流の家庭の方が対象になります。

とはいえ、中流の家庭は手数料利益は少なくとも件数が多いです。相続でもめるのは、相続税が発生しない家庭の方が多いのです。
よって大きな収入源になります。

前述した葬儀社のIR情報見ても、私が勤める葬儀社も単価は落ちていないので、永江さんの「葬儀後の相続などの死後手続きに関して需要があり」という見立ては見事です。

余談ですが、死後手続き分野で最近ニーズが急上昇しているのが普通の資産を持つ「おひとりさま」の死後事務委任。血縁者に任せる、ということができないので。
資産家の「おひとりさま」は弁護士に死後事務や財産管理を頼みます。一方普通~お金のない「おひとりさま」は行政書士に、と言いたいところですが、行政書士に言わせると「手間とコストに見合う料金はいただけない」らしく、参入するところは少ないです。NPO法人も活動していますが、使い込みで潰れたりでうまくいっていません。
(参考記事:日本ライフ協会問題とおひとりさま問題を考える | 考える葬儀屋さんのブログ
そのため社会的ニーズはあるのにビジネスとして参入者が少ない状態です。

「弁護士事務所にM&A」が難しい理由

さて、「弁護士事務所にM&A」は実際難しいと思います。
その理由は以下の通りです。

ビジネスとしては大手葬儀社が強い。でもM&Aにお金がかかる

死後手続きの仕事が来る確率は大手葬儀社の方が高いです。しかしM&Aしようとすると大手葬儀社ほど買収金額が大きくなってしまいます。

死後手続きの仕事が来る確率は大手葬儀社の方が高いという根拠について
私も結構な件数のご遺族に頼まれて行政書士を紹介しているので、その経験から申し上げます。

死後手続き依頼を遺族の方からいただくには以下の3点が求められます。
A良い葬儀を行うこと
B葬儀屋さんに営業能力がある
C死後手続き以外もワンストップで頼めること
です。

A良い葬儀を行う

良い葬儀を行えば、遺族と信頼関係が築けます。
「この葬儀屋さんが紹介してくれるところなら安心」と思っていただくことが必要なのですね。

B葬儀屋さんに営業能力がある

葬儀屋さんは御喪家のインサイドに入り込むので、家族構成や誰と誰が仲が良い悪い、大まかな資産(たとえば不動産をもっているとか、葬儀にお金をかける方はそれなりの資産があるとか)が把握できる立場にあります
死後手続きの受注につなげるには、お葬式が終わった時にそのご家庭の死後手続きの問題提起ができるかどうかがポイントです。
たとえば「相続税が必ず発生しますよね、知り合いの税理士さんはいますか?」「法定相続人が多そうですが、遺産分割協議書に必要な戸籍を追える人はいますか?」など。
「だったらプロの士業の方を紹介しますよ」という流れですね。

そのためにはお葬式の後にどんな手続きが必要になるかを葬儀屋さんが勉強していないといけません。

しかし葬儀屋さんは勉強が苦手。
たとえば
葬儀費用は相続税控除の対象になることは知っていても
・お坊さんの御布施は相続税控除の対象になるか
・お墓は?
・仏具は?
・香典返しをお葬式の当日に渡したら?
・そもそも相続税控除額の計算式知ってる?
この辺りが答えられない葬儀屋さんの方が多いでしょう。

低学歴と喫煙率の高さに相関関係があることを私は永江さんのブログで知りました。
葬儀屋さんの喫煙率はとても高い、つまり・・・
(参考記事:ダメな葬儀屋さんはタバコを吸う
最近の大手葬儀屋さんは大学の新卒採用が戦力の中心のため、大手葬儀屋さんの方が「お勉強」に強く、営業力があります。

C死後手続き以外もワンストップで頼める

相続や手続き系をやる以上、どうせなら墓仏壇販売・香典返し・法事・介護施設紹介・遺品整理と売却など他の死後発生事項もワンストップで対応できる葬儀屋さんが、遺族にとって便利でニーズがあります。しかしそれができるのはやはりある程度規模が大きい大手葬儀社。
この点でも有利なのでやっぱり大手葬儀屋さんの方がビジネスチャンスがあります。

このようにビジネスをうまくやるなら大手葬儀社をM&Aしたい、でもお金がかかる、のトレードオフが発生します。

葬儀屋のデューディリジェンスが難しいのでハイリスク

大手でなくても、探せば小さくてもデキル葬儀社があるかもしれません。
そうすれば安く買収できる・・・はずですが、葬儀屋のデューディリジェンス(価値算定)は結構難しいのです。
固有名詞は出せないのですが、葬儀屋さんが葬儀屋さんをM&Aするケースが耳に入ってくるものの、ことごとく失敗しています。
財務面では先行投資していた葬儀会館が焦げ付いているとか、実際は債務超過だったとか。
大手葬儀社が買い手の事案には当然会計士やら銀行やらがついているはずなのですが、失敗していますね。
(参考記事:葬儀社のM&Aは難しい
それから葬儀屋さんはサービス業なのですが、一方で職人気質の人が多いので、教育で矯正するのが難しいです。

弁護士さんだったとしても、不良物件つかまされるリスクが高いのではないでしょうか。

あと業務分野は異なるとは言え、インテリである弁護士さんと、本を年に1冊も読まない葬儀屋さんと、同じ会社でうまくいくのかどうか・・・

補足

永江さんの文章の中で訂正をひとつ

葬式の単価はどんどん下がり、葬儀屋さんたちはどんどん厳しくなっていくものと考えられます。だから中にはぼったくり始めるところがあるんですよ。

これは逆で、ぼったくりは昔はあったけど、今はかなり減っています。
葬儀単価が下がると、そもそもぼったくる余地がなくなってしまいます。
それに永江さんがかつて書いていたように、貧乏人ほど文句が多くなるので、無理にぼったくるのは割にあいません。

次に消費者が賢くなりました。病院の出入りの葬儀社に頼む人はもうほとんどいません。葬儀の事前相談の比率は年々上がっています。

消費者が賢くなって、ぼったくりする余地が少なったので、悪徳業者の淘汰は進んでいます。
だから今の方が昔より、ずっと消費者にとって良い環境なんです。
今葬儀業界でぼったくれるのは一部のお寺くらいです。

というわけで永江さん、今後もよろしくお願いいたします。











8 件のコメント

  • 10数年前に弁護士や税理士にこの類の話をしたことがありますが、彼らは身一つで商売しているためか、大きな資産を持ちたくないようです。
    顧問会社の社外取締役という選択肢もありますから尚更です。
    また、大手法律事務所といえども個の集合体ですから、一般企業ほど金融資産を有していないという事情もあります。

    しかし、昨今、過払金返還請求絡みで法人格が増えてきましたから、少し事情が異なるかもしれません。

    • 七八 様
      >大きな資産を持ちたくないようです。顧問会社の社外取締役という選択肢もありますから尚更です。
      なるほど、確かに言われてみればその通りですね。

  • 「葬儀屋さんはサービス業なのですが、一方で職人気質の人が多いので」
    ここが変わらなければ、いつまでも葬儀屋なんですよね。「我が社は葬祭サービス業です!」と大きな声で言えるようになるのはいつのことやら

  • ちょうど義父の葬儀を終えたところですが、火葬の待ち時間に今後の手続きについて説明がありました。複数の会館を持つ葬儀社ですので、規模が大きい方になるんですかね?式後のサポート専門スタッフがいるそうです。

  • 永江さんに甘いのでは?
    至って普通のコラムで大前と比べてちょっと良いだけだと思う。
    てか、日本消費者協会の資料を使っていたりと、もっと批判していただかないと・・・。

    最近やる気ないの?

    • 田舎の葬儀は高すぎる さん
      は、日頃私のブログを読んでいただいているのですね。
      ありがとうございます。
      いつもわたしのブログを読んで頂いてる方はそう思われるのはよくわかりますが、
      さっと調べた範囲であの記事は、なかなか書けないと思うのです。

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