葬儀社の病院安置室業務はもうかるのか計算してみた




この記事を書いてから、もう12年が経ちました。

病院と契約している葬儀社に頼んではいけない理由

多くの葬儀社が病院と契約(結託?)し、葬儀社が安置室業務を手伝っています。
安置室業務は院内搬送業務や病院営業とも言われます。病室から安置室へのご遺体の移動、死亡退院の見送り、病理解剖後の処置などを指します。

そうすることで肉親が亡くなったばかりの遺族に対し、安置室で営業して、葬儀の依頼を受注するという構造です。

大きな病院だと、亡くなった方は病室から地下(にあることが多い)の安置室に一旦安置されます。そこで「葬儀社がお決まりでないならウチに」と切り出すわけですね。

病院側としても保険の点数がつかない安置室業務は、葬儀社にやってもらえれば楽だし、win-winの関係でした。

いまでも「葬儀屋の裏側暴きます」的なテレビ番組や雑誌特集のなかでは、誇張して取り扱われることがあります。

でもそのビジネスモデル?はもうムリなんじゃないか、という内容の記事を12年前に書いたのです。

今回はもう少しくわしい計算を行ってみます。

安置室業務の利益が悪化する背景

近年、安置室業務は特殊なケースを除いて、ほとんど利益が出ていないのではないでしょうか。

そうなった理由は
1.受注率の低下
2.葬儀単価の下落
が加速したためです。

1.受注率が低下した背景には、
・消費者が葬儀の事前相談を行うことが一般化し、死亡した段階で他の葬儀社に決めている
・病院契約の葬儀社にはぼったくられるから頼んではいけない、というマスコミ発の知識が浸透した
ことがあります。

これは好ましい健全な改善です。

2.葬儀単価の下落の背景にはいろいろな要素があるのですが、近年の傾向で言えば
コロナ禍によって
・会葬者数が減少し、会葬者数に連動する料理や返礼品の売上げが減った
・通夜をやめて、その延長で葬儀もやめるという人が増えた→火葬のみの増加
という背景があります。

現在都内では 火葬のみが4割・通夜をしない一日葬が4割・通夜葬儀を2日間行うのが2割というのが現状です。
葬儀告別式を行うことは、今や贅沢なのです。

受注率は病院の形態によって違う

病院で亡くなったケースに対し、葬儀屋さんの受注率はどれくらいでしょうか。

イヤな話になりますが、それは病院の救急指定に影響を受けます。

1次救急病院もしくは病床のある普通の病院で1割
2次救急病院で2割
3次救急病院で3割
くらいでしょう。
(上記の成約率は、葬儀社の営業力、特に近隣に会館や営業所を持っているかどうかによっても左右されるところですが、比較的地元の葬儀社が安置室業務をやっていることが多いです。)

1次救急病院・・・入院の必要がなく帰宅可能な軽症患者に対して救急医療を行える病院
2次救急病院・・・命の危険はないが、入院を必要とする程度の重い症状を扱う病院
3次救急病院・・・一次救急や二次救急では対応できない重症・重篤患者に対応できる病院
(出典:知っておこう!救急指定の一次救急、二次救急、三次救急の違いとは? | なるほどジョブメドレー一次救急や二次救急では対応できない重症・重篤患者に対して

1次→3次にいくにつれて受注率が高くなるのは、
・事故や急病で突然亡くなるケースが多いため、事前に葬儀屋さんを全く決めていないことと
・動転している遺族が多くなるから
です。

葬儀社は安置室業務でいくら儲かるのか

では仮に3次救急病院の場合、葬儀社はどれくらいの売上と利益が見込めるのでしょうか。(今回はビジネス視点での記事とはいえ、自分で書いていてイヤな言い方だと思います。)

例えば病床500から700規模の3次救急病院なら、死亡退院が年間800人くらい、そのうち葬儀社の受注件数は250件くらいでしょう。
現在 火葬のみ:通夜無し:通夜葬儀有り の比率は 4:4:2 くらいなので
火葬のみ100件
葬儀有り150件
になるでしょう。
通夜の有無はそれほど葬儀費用に影響を与えないので、火葬のみ以外は、一つにまとめます)

火葬のみ@25万円×100件=2,500万円の売上
葬儀有り@100万円×150件=1億5,000万円の売上

売上合計 1億7,500万円 これで営業利益率が10%とすると

営業利益 1億7,500万円×10%=1,750万円 が発生します。

これを多いととるか、少ないととるかは、いくらコストがかかっているかによります。

安置室業務にいくらかかるのか

では安置室業務を引き受けたことによって、発生するコストはどれくらいでしょうか。

年間死亡退院者が800人だと安置室業務(病室から安置室への移動、死亡退院の見送り、そして自社営業)が、1日2件ほど発生します。
そういう病院は、すぐに呼べるよう、院内に葬儀社スタッフを24時間常駐させるルールであることが多いです。

この対応に新たに必要スタッフ数を割くとして
8時間3交代制の場合
3交替×30日÷22日(公休を除いた月間出勤日)≒4名
つまり担当スタッフが4名必要になります。

1人当たりの年間コスト 支払い給与+社会保険料等で 400万円 として
400万円×4名=1,600万円

このようにスタッフ1名を24時間常駐させると1,600万円かかるわけですが
大体安置室業務は2名で行います。

2名を院内常駐させると倍のコストがかかるので、常駐は1名にして、院内業務が発生したときだけ近隣の営業所から手の空いているスタッフ+1名の応援を頼むとします。
1回の応援業務 3時間 × 1時間のコスト2,000円 × 800件 =480万円

つまり年間の人件費は 1,600万円+480万円=2,080万円

これに遺体処置用の備品など諸費用が年間 100万円くらいで、合計2,180万円

つまり安置室業務を行うためには、2,180万円が余分にかかります。

先ほど試算した営業利益1,750万円に対し2,180万円のコストがかかるので、
1,750万円-2,180万円=430万円の赤字です。

安置室業務で葬儀を受注しているなら、安置室業務のコストは広告宣伝費と同じと考えて、販売費の一科目として負担できると考えてみましょう。
広告宣伝費が売上の3%を占めていると仮定すると 1億7,500万円×3%=525万円

-430万円+525万円=95万円

これでなんとか収支をトントンにできるレベルです。

もっとも受注率の高い3次救急病院ですら、もはや利益を出せないのです。
受注率の落ちる2次救急で常駐が条件になると、さらに赤字がひどくなります。

安置室業務はやりません

自分のつとめている葬儀社は管理会計が徹底しているので、この20年間、ほぼ安置室業務の契約をしていません。

給与体系が他社よりも良いので、その給与体系を維持するためには人的リソースを利益率の高い受注チャネルに優先的に振り分けねばなりません。
そうなると安置室業務に手は出せません。

それにいくら自社のサービスの良さに自信があるといっても、動転して判断力を失っている遺族相手に営業活動をするのは後味が悪すぎる、というコスト以外の理由もあります。

病院側も認識を更新できていない

このように安置室業務はもうからないのです。

それにもかかわらず病院によっては、安置室業務の受注は「葬儀屋さんにとってはオイシイ」仕事だと未だに勘違いして
さらに葬儀社に「出費」を求めるケースがあります。

さすがに事務方が賄賂を要求したとか、病院に救急車を寄付させたとかいう話は今はないでしょうが、
スタッフを常駐させるタコ部屋の家賃として数十万円を払えという病院はまだあります。

以前、2次救急・常駐・家賃払えの条件で、「新規葬儀社選定のコンペに参加させてあげるけど」的な態度を取った事務方がいたのですが
「いや、ウチは無理ですね」と言い放って唖然とさせたときは、ちょっと痛快でしたね。

それでも葬儀社が安置室業務を続ける理由

それでも安置室業務を続けている葬儀社がいるのは、なぜでしょう。

考えられうる事情はこんな感じでしょうか。

売上アップで対応

売上ーコスト(人件費)=利益 なので
利益を上げるには売上を上げるか人件費を下げるかです。
件数を上げるというのもありますが、今後は難しいでしょう。

そうなると考えられる一つの施策は、ぼったくりによる売上アップです。
しかし2次救急、3次救急は国公立や大学病院が多いので、クレームが入るような無茶な営業をやっていると、契約を切られます。
それ以前に、今やぼったくり営業をやる葬儀社自体が稀少種です。

よって売上アップを狙うのは難しいですね。

コストカットで対応

そうなると労働法破り上等!ってことで「おまえずっと病院に居ろ!あと給料は最低賃金ね」というブラック環境。
こちらの方が、一般的?かもしれません。

絶妙なバランスが成立している?

よく分かりませんが、地方なら安置室業務は成立するんでしょうか。

元々人口減少気味の地方都市の大病院の仕事を、中小規模の葬儀社が受ける場合、他の受注チャネルよりはマシ
くらいのことが成立しているのかもしれません。
または救急指定無しの病院で常駐無しで、待たせても文句言われない関係にしておくとか。

ガチガチに菩提寺と葬儀社が結託している土地柄なら、新規チャネルの開拓は見込めないし、だったら安置室業務の方がいいか、みたいな感じです。

大都市に比べれば、火葬のみの比率は低く、ある程度お葬式にも参列者が来そうですし。

気づいていない

まさかとは思いますが、
とりあえず仕事が無くてスタッフを遊ばせるよりマシという件数至上主義で管理会計が出来ていない、とか。
営業所別の原価計算が行われていなくて、売上額でしか成果測定しない会社だと、営業所長が暴走して、仕事受けがち。

他にどうしようもないから

新しい受注チャネルの開拓のノウハウがなく、業界30年の二代目社長が昔のやり方を変えられず、惰性でやっているとか。

 

やっぱり私には分からないですね。

以上が安置室業務・安置室業務に対する考察です。

この状況が続けば、いずれ病院も葬儀社も安置室業務を維持できなくなって、コストカット目的で
韓国みたいに病院内に葬儀場併設という時代が来るかもしれません。











2 件のコメント

  • 記事を見てふと疑問がありましたので質問させて下さい。
    例えば肺がん等、死因が感染症でない場合、病院から自宅まで自分の車で搬送する(業者を使わない)のは違法なのでしょうか?
    また新型コロナウイルスで死亡した場合、病院から自宅まで自分の車で搬送する(業者を使わない)のは違法なのでしょうか?

    • g様
      コメントありがとうございます。
      >感染症でない場合、病院から自宅まで自分の車で搬送する(業者を使わない)のは違法なのでしょうか?
      物理的に大変だと思いますが、違法ではありません。 途中万一警察に止められるとやっかいなので、死亡診断書は所持しましょう。

      >新型コロナウイルスで死亡した場合、病院から自宅まで自分の車で搬送する(業者を使わない)のは違法
      2類(部分的に1類)感染症なので、これは認められないと思います。
      実務上は密封されたシートに入れられた状態で、納棺され、速やかに火葬が行われます。

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