葬儀費用が消費者物価指数に登録された本当の理由

あの消費者物価指数に、「葬儀料」が登録されました!

消費者物価指数の対象項目は582品目があるのですが、5年ごとに対象項目が見直されます。
今回2021年の改変で28品目が外されて、30品目が新規に登録されたのですが、その中に「葬儀料」が。

消費者物価指数 5年ぶり見直し タブレット端末など調査対象に | NHKニュース

今回はこの背景を探りつつ、考察を加えます。

(こういうアクセスが集まりそうにない、地味な記事も書いております、ハイ。)

消費者物価指数とは

さてこの消費者物価指数、ニュースでは良く耳にします。定義は

消費者物価指数は、全国の世帯が購入する各種の財・サービスの価格の平均的な変動を測定するものです。
統計局ホームページ/消費者物価指数に関するQ&A(回答)

物価が上がっているのか、下がっているのか、国(総務省統計局)が調査した統計、ということです。
よくインフレ・デフレと言われますが、消費者物価指数も判断材料になっています。

品目は時代の変化に合わせて登録されます。近年ではタブレット端末や電動アシスト自転車が登録されて、固定電話機やお子様ランチが外されるとか。
今回は葬儀料以外にドライブレコーダーやサラダチキンが追加されました。

葬儀料が導入された背景

他の新規登録商品は最近登場したものなのに、百年前から存在した「葬儀料」がなぜ今頃登録されたのか、調べてみました。

官公庁サイトにあるレポートを確認しました。

レポートから葬儀料を登録するに至った理由を抜粋し、私の考察を付け加えました。

存在感

高齢化・死亡者数増加により葬儀件数が増えている。
世帯の消費⽀出に占める葬儀関係費の割合は、今後拡⼤が予想(2018年︓世帯消費の1万分の53)

消費者の間で、商品としての存在感が高まっている、ということですね。

「火葬のみ(直葬)」も葬儀とカウントすると、死亡者数≒葬儀件数です。
昨年の死亡者は約138万人でしたが、ピークを迎える2038年には168万人に達する予定です。(ただしコロナ禍への衛生対策が功を奏したのか、2020年は予想値を3万人下回りました。そのため人口予測が若干修整される可能性有りです。)
世帯消費の1万分の53という数値は、数十年に一度、施主が負担する葬儀の出費を、1年単位で国民全員で割って均(なら)した数値だと思われます。

共通化

地域特性が反映されて葬儀価格の地域差が大きかったが、最近は全国的に⼩規模化し、葬儀サービスの構成要素(納棺、祭壇、供花等)はほぼ共通化

これは言い替えると
儀式の合理化ミニマム化が進み、
ローカル色が消えたということでしょう。

首都圏の

  • 初七日法要を葬儀に行う
  • 通夜を省く
  • 食事を省く

というスタイルは今後波紋状に、地方に広がっていくはずです。

特別で、それゆえ高価だった葬儀はさらに小規模化・低価格化し、コモディティ化していく(ありふれた均質化された存在になる)、と。

その背景としては

  • 長期の景気低迷・終末医療費の増加による、葬儀費用の削減
  • 地縁・血縁・社縁の解体による、しきたりやしがらみの消失
  • 葬儀施行の主体が宗教者・地域コミュニティから葬儀社に移り、供給過多の葬儀会館で行われることによる合理化の促進
  • 信仰心の希薄化に迎合する葬式仏教

などが挙げられるでしょう。

測定可能

葬儀料の内訳や規模を適切に設定することで、価格調査が可能になった

これはかつての丼ぶり勘定やぼったくりが影をひそめ、葬儀費用の透明化・明瞭化が進んだことを示しています。

ただし香典返しと火葬場控室は、下記の表に書かれた理由で外されたようです。

地方では火葬場控室が、無料のことも多いですしね。
香典返しもいずれなくなるのでしょう。

一方結婚式は、

  • ニーズ減少
  • 構成要素が共通化しておらず個々の価格差が大きい
  • 季節や六曜など開催時期の価格差が大きい

という理由で登録は見送られたようです。

私の考察

上記の「存在感」の項目を見ると、総務省は「まだ葬儀業界の成長期」と見ているようです。

しかし事実は逆で、むしろ衰退期です。
(総務省の方は、互助会の監督官庁である経産省に尋ねてみてはいかがでしょうか。)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000640560.pd

これは上記の総務省のレポートで取り上げられた矢野経済研究所のデータです。

よく見ると2020年から2021年にかけて、市場の伸びは鈍化しています。
昨年は例外的に年間死亡者が減少した影響(139万人→138万人)・・・ともっともらしく原因分析はできますが
感覚値としてはもっと伸び悩んでいる印象です。

長引く景気の低迷、上昇しない賃金、社会保障の将来不安、高額な終末医療費等により
葬儀にかける費用の総量が増えることはないでしょう。

マーケットは大きくならず、葬儀件数だけ増えていくのです。

葬儀社サイドから見ると、葬儀単価が下がり、件数増加で人件費が上がり、利益を圧迫しています。

葬儀業界が衰退していく過程でコモディティ化が起こり、特別な存在から普通の商品に成り下がることで、「葬儀」が国から「商品」としてお墨付きが与えられたというのは皮肉なことです。

おまけ

余談ですが、「葬儀料」という言い方をする人はほとんどおらず、「葬儀費用」の方が一般的だと思います。

役所はなぜか新しい言葉を創り出すことがあって、経済産業省の特定サービス産業動態統計調査では、「葬祭業」のことを「葬儀業」と呼びます。
同じく総務省の日本標準職業分類上、「葬儀屋」は「葬儀師」と呼ばれます。
どうも○○屋という言い方は蔑称なので良くないという意識が役所にはあるようです。

ネット上で公的統計を検索するとき、これらの特殊ワードで絞り込みやすいという利点はあるのですが、何か腑に落ちません。

 

それから今後少なくとも5年は、役所が葬儀費用の統計を取ってくれるわけです。日本消費者協会の「葬儀についてのアンケート調査」は役割を終えました。
そろそろ12回目のアンケート募集の時期ですが、やらんでいいです。

第11回「葬儀についてのアンケート調査」の結果が報道されない理由

あと消費者物価指数が家計負担を把握するものなのであれば、本当は御布施まで切り込まないといけないんじゃないでしょうか(笑)

お寺が税金を払わず、お布施の金額を言わないのには理由がある




2件のコメント

葬儀費用に関連して気になっていることがあったので、久々に質問コメントさせてください。
最近、よりそうがテレビCMを流しています。
しかし、よりそうが公開してる財務状況を見ると、いつ倒産してもおかしくないような感じに見えます。
https://cdn.yoriso.com/corp/wp-content/uploads/2021/06/04135348/00162a1033628516ab93c31de752ccf1.pdf

これは私の数字の読み方が悪いのでしょうか?
もし、年間何億も赤字でキャッシュが尽きそうな会社に何十万もの葬儀の依頼をして倒産した場合を考えると、とても恐ろしいのですが、このあたり、どう思われますか?

www 様
コメントありがとうございます。
確かにこの数字おもしろいですね。
債務超過になっては、都度ファンドから増資を引き受けてもらっているようです。
もうちょっと詳しく調べてみます。
ありがとうございました。

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