葬祭業を描いた本

今回は新刊の紹介です。

葬儀業 (平凡社新書1059)

筆者は社会学者の玉川貴子氏。

経歴は以下の通り。

Amazon著者紹介より

1971年生まれ。名古屋学院大学現代社会学部准教授。専修大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程修了。2016年より現職。専門は死の社会学、家族社会学。単著に『葬儀業界の戦後史――葬祭事業から見える死のリアリティ』(青弓社)共著に『いのちとライフコースの社会学』(弘文堂)、『喪失と生存の社会学――大震災のライフ・ヒストリー』(有信堂高文社)『サバイバーの社会学――喪のある景色を読み解く』(ミネルヴァ書房)など。

2018年にも一般書籍を出版されており

その際、紹介記事を書きました。

葬儀業界の戦後史

内容は葬祭業、特に戦後の葬祭業の変化について書かれた本です。

葬儀について民俗学的見地から本を書く学者は多いのですが
現在の葬祭業について考察している人は私の知る限り、彼女を除くと他には山田慎也教授か、田中大介教授くらいではないでしょうか。
業界にとって貴重な人材です。

これどこから資料を引っ張ってきたのだろうとページをめくる手が何度か止まったほど、戦後の葬祭業の歴史と背景がとても緻密に調べ上げられています。
おそらく誠実でまじめな人柄なのでしょう、
この本では一般的な呼称と思われる「葬業」ではなく、

(経済産業省の)統計調査との整合性をはかるため、産業分類にある「葬儀業」で呼称を統一しておきたいと思います。

ということで、「葬業」という言葉が使われています。

で、本のタイトルも「葬儀業」。

平凡社の新書だからといって一般読者に一切迎合しないタイトルです。キャッチー要素ゼロです。
タイトルを初めて見たとき、「岩波か!」とツッコミました(笑)

近所の本屋に平積みされていましたが、ちょうどとなりにトイアンナさんの「弱者男性1500万人時代」も平積みされてあって、同じ社会学的なテーマでありながら、センセーショナルなタイトルに加えて帯が「たぬかな」でブラ見せしていて、もう元P&Gのマーケティング部の面目躍如です。

玉川さんのほうは、Kindle版がでているとはいえ、書店の棚争いは激しく次々に出る新書に埋もれてしまうのはあまりにももったいない力作なので、これはいかん、と今回急いで取り上げた次第です。

この本で初めて知ったことがたくさんあり、以下、一部抜粋します。

この資格ができる前に全互協側にも全葬連側にもそれぞれ資格制度がありました。全互協は「葬祭士」、全葬連側は「一般葬祭専門士」という団体内の任意資格でした。

葬祭ディレクター制度ができる前には、全互協全葬連それぞれに資格があったのですね。今ではあるのが当たり前ですが、こうして振り返るとよく足並みそろったなと思います。

「葬式税」を徴収し、埋葬や葬儀費用にあてているスウェーデン

え、そうなの、ということで以下調べてみました。

名称は埋葬税(Begravningsavgift)。税率は地域ごとに異なるが、一般的には0.2%から0.3%の範囲。具体的な税率は、各地方自治体によって決定される。

集められた資金は、

  • 墓地の管理と維持
  • 火葬場の運営
  • 公共の埋葬サービスの提供
  • 死亡届やその他の行政手続きのサポート

などに使われる。

この制度がいいのかは分かりませんが、さすが福祉国家ですね。

資格は3年ごとに更新されますが、更新手続きを行わないと資格が失効します。

全葬連が始めた「葬儀事前相談員資格」、3年ごとの更新とは、本気度高いですね。

以上、一部抜粋しましたが、葬儀業界にいる方であれば、現在の葬儀業界とそこに至る流れがこの本だけで把握できます。

おすすめです!