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旅館陣屋さんのV字回復を葬儀業界の参考にしてみた




最近鶴巻温泉にある旅館陣屋さんが奇蹟のV字回復例としてマスコミで採り上げられることが多くなりました。

先進事例1 鶴巻温泉 元湯陣屋 (代表取締役社長 宮﨑富夫氏)|サービス産業の「新しい働き方」 ~宿泊業の「働き方改革」を題材に
ITの力で老舗旅館が再生!売上2倍を実現した、Salesforceの活用と働き方改革とは | SELECK [セレック]
借金10億円、倒産まであと半年――創業100年の老舗旅館「陣屋」をたった3年でV字回復させた方法 (1/5) – ITmedia エンタープライズ

旅館という伝統的、悪く言うと前近代的であり、箱とチームプレイを前提としたサービス業という点で葬儀屋さんと共通点が多くあります。そのため葬儀屋さんにとっても示唆に富む内容だと思います。さらに陣屋さんは30人程度の組織なので、葬儀業界には中小企業が多いため、その点でも参考になるでしょう。
あー、これあるあると心の中で、何度も思いながら読み進めました。

書籍としてはハーバードビジネスレビューでも採り上げられています。

上記のテキストを読んでいただいているという前提で
陣屋さんの方法論を葬儀屋さんの場合、どう使えるか、どう活かすかを併記しつつ議論を進めたいと思います。

コスト削減

多能工(マルチタスク)化・・・これは葬儀屋さんにもあてはまります。司会しかできない、打合せしかできない、設営しかできない、トラックの運転ができない、パソコンが使えない、ではなく、できるだけなんでもできるようになるべきです。陣屋さんの例では、シフトが組みやすくなるという効果の他に、他の人がやっていた業務内容を理解できるようになるので、人間関係も良好化するというのは確かにその通りだと思いました。

ただ何でもできる人に仕事が集中して負荷がかかるという傾向が葬儀屋さんにはあります。ハイスペックな人材の採用(難しいですが)、教育による標準化、報酬やポジションでちゃんと報いるという人事機能を並行して使わないとできる人のバーンアウト(燃え尽き)が起こるので注意。

働き方改革

陣屋さんでは毎日営業できる旅館であるにもかかわらず休館日を導入しました。
その結果休日を確保でき、従業員のリフレッシュ→離職率の低減にもつながっています。

葬儀業界に応用するなら「仕事断れ」ということでしょう。
施行能力を超えた葬儀依頼は断れということです。

葬儀依頼のタイミングはアトランダムなので、仕事が集中したときに負荷がかかりすぎる事があります。
葬祭業は精神面肉体面ともに過酷なのでバーンアウト(燃え尽き)を起こして辞める従業員が多くいます。
これは入った仕事は無条件に引き受ける(断るという選択肢がない)という業界体質によるところが大きいです。
でもそれは外的要素にただ振り回されているわけで、経営としては無策だと思います。
(参考記事:葬儀屋さんの残業をなくす方法 | 考える葬儀屋さんのブログ )

IT化

陣屋さんはIT化によるコスト削減と経営の見える化スピード化を行っています。
顧客情報の共有や社内情報の共有ができます。陣屋さんでは売上やコストがスタッフ全員にオープンになっているそうです。

葬儀屋さんはITスキルが低いのですが、これは旅館業界も同じはず。
陣屋さんがIT化に成功したのは、トップが旗を振った(HONDAのエンジニア出身)ということと、IT使えない奴は去れという姿勢でしょう。
いくら苦手と言っても本当は必死になれば使えるはずなんですけどね。
そこは葬儀業界が甘えているところでしょう。特に経営者自身がPCを使えない葬儀社にその傾向が顕著です。

選択と集中

陣屋さんは厨房を1箇所にまとめたり、食事はこちらから出向くのではなく客に来てもらうという作業効率化を行っています。
これをどう葬儀業界に当てはめるかは、この記事(「ハーバード・ビジネススクールが教える 顧客サービス戦略」を葬儀業界に当てはめたら | 考える葬儀屋さんのブログ)で触れています。

従業員モチベーションの維持向上

まず賃金の削減を行わないことをめざしたということ。

この本でも電化製品量販店のコジマがリストラと従業員給与の引き下げを同時に行って失敗した事例が紹介されています。
葬儀業界でいうと互助会の〇〇〇〇〇かな。
リストラと賃下げは同時にやると、当たり前ですが従業員のモチベーションは一気に下がります。
しかし解雇はしないが、去る者は追わないという姿勢も貫いています。
改革の時は自然淘汰に任せた方がいいのでしょう。もちろん改革が理にかなっている場合ですが。

単価アップ

陣屋さんはまず料理から手をつけて単価アップを目指しました。
最初に小さな成功体験を積み重ねて従業員をやる気にさせるというのは、V字回復の鉄則です。
葬儀業界も単価下落を嘆くだけではなく、新商品を導入するなどして単価アップを図るべきです。
葬儀業界にもエンバーミングなど新商品で単価を上げている事例があります。

サービス品質の向上

おかみさんがマニュアル化を行っています。マニュアル化は鉄則ですが、記事を読む限りそれほど高度なことはやっていないようです。ナレッジをオープンにするという仕組みを組み込んだというのが一つ。次に30人程度の組織にスリム化したことで情報でノウハウが伝わりやすくなったというのもあるでしょう。

スペシャリストの育成に関しては、葬儀業界でも目指している企業はあります。
うまくいっていないケースも散見されますが。

現在ではオープンな人事考課を導入し、給与の引きあげ(平均給与300万円から400万円へ)が行われたそうです。
採用は新卒中心にシフトしているということです。
このブログでも何度か触れていますが、長期的に人を育てるという戦略と余裕がある葬儀社は新卒採用を行います。

採用したフロントスタッフが元エンジニアだったため、セールスフォースをシステムを自社開発できたことは運でしょう。
成功した企業をみるとやっぱり運もありますよね。

結論

こうして見てくると施策が有機的につながっていて、見事です。
私は三枝匡 氏の本は全部読んでいますが、かなり共通する箇所がありました。
そういう意味では、ウルトラCはなく、実は教科書通りでこうするしかないというオーソドックスな施策なのです。

陣屋が他の企業と異なり圧倒的に優れていたのは、全体の最適化という経営者がやるべきことを徹底的にやりきったということが一番大きいのではないでしょうか。

改革前に120人いたスタッフのうち、現在も十数人が残ってくれているという話がでてきます。これはつまり9割の人間が辞めてしまうこともやむなしと考えていたということです。「声を荒げたり涙を流したりする人もいたが徹底的に進めた」という記述もあります。

そういう意味では、ゴーイングコンサーン(企業の存続)に徹していてかなり非情です。
従業員に報いるということを誠実に行っていますが、それすら愛ではなくゴーイングコンサーン(企業の永続)を目的とした冷徹な戦術ではないか、と疑ってしまうほど。

普通の人間はここまではできません。
創業者なら情やしがらみがある、雇われ経営者ならそこまでのモチベーションが保てない。
これは経営者が急遽運営を任された新参者で、かつ保証人という運命共同体(会社潰れたら恐らく自己破産)だからできたのでしょう。

自分にはここまでできそうにないです。

 











2 件のコメント

  • 最近コメント数が全然無いですね・・・
    考える葬儀屋さんが本を出版したにもかかわらず。
    本は何部売れたのでしょうか?

    • 考えすぎる葬儀人様
      ご心配いただきありがとうございます。
      >最近コメント数が全然無いですね
      ええ、ユニークユーザー数はあまり変わっていないのですが
      今年からワードプレスを導入したため、コメント入力時にメールアドレス入力も求められるのが原因だと自己分析しています。
      正直コメントが書きこまれると早く気の利いた返信返さなきゃ、というプレッシャーがかつてはあったので
      個人的には今のコメント分量がちょうどいいと思っています。

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