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葬儀のアマとプロ




最近こんな本を読みました。

 

札幌のNPO法人「葬送を考える市民の会」の活動をまとめた本。
この本を通してこういった活動について考えてみたいと思います。

(前書きより抜粋)
市民の会は女性たちの感覚・考え方と丹念な努力の積み重ねをもとにして作られ、
15年にもわたって維持されてきました。
後で詳しく触れますが、女たちにして初めて可能になった市民の会であると言えます。
彼女たちが納得のいく葬儀のやり方を突き詰めていくなかで、
これまでの葬儀社主導の葬儀と異なるものを新しく生み出してしまいました。
従来の葬儀についての常識や決まり事(習俗)は概して男たちが主導して
作ってきたものです。(中略)しかも、葬祭費用を遺族に

とって適正なものにしてしまうことは、
市民の会の活動に強い説得力をもたらすものです。

なぜ、女たちが「納得のいく、心のこもった、自分らしい」お葬式を求めて考え始め、
そういう葬儀の実現をどのように可能にしていったのか。
その大きな意味を少しずつ見ていきます。

(抜粋終わり)

ちょっとサヨク的でフェミニズムの香りを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが
(「もちろん男性の誰もがマザコンというわけではなく」等の記述あり)
事前に葬儀のことを考える試み自体は素晴らしいと思います。
今後もがんばっていただきたいです。

ただ私は人の悪い葬儀屋さんなので(^^;)
そこで終わらずこのような葬儀に関する市民活動について考えてみたいと思います。

まず彼女らが生み出したという葬儀のスタイルっていうのは
当時からフツーに我々葬儀社もやっていたのですが・・・
(札幌の状況はまた違ったのかもしれませんね。)
そのため見出しに書いてあるように「衝撃」っていうのは
ちょっと無いかな。

彼女らは葬儀の勉強をし、
葬儀屋さんとの打合せに立ち会い
「葬儀屋主導」のスタイルを変えてきたのだそうです。

葬儀を取り仕切るから葬儀屋と呼ばれているわけで
葬儀を葬儀屋が主導するのがなぜ悪い、
という業界の意見もあるかもしれません。

しかしブライダル業界がブライダル業界主導、という文脈で批判されていないことを
考えると葬儀屋の信頼の無さという点に対して、葬儀業界全体として謙虚に
反省する必要があると思います。

さて以上の考えを表明した上で。

似たような活動をしているボランティア団体系や市民活動系の方々が
葬儀の打合せに立ち会われたケースを私は何度か経験したことがあります。
(断っておきますが上記の「葬送を考える市民の会」ではありません)

その時葬儀屋として感じた立ち会い者の「問題点」は三つ

1.コスト意識が薄い

コスト意識が薄い、言い換えるとボランティアの論理を持ち込まれることが多いのです。

上記で紹介した本の中にも
「会場費や人件費を別にして祭壇は○万円で作ることができた」
という表現があります。

サービス業は人件費にかかるコストが一番大きいので、
実際の人件費を無視した考え方はあまり意味が無いと思うのです。
(参考記事:お葬式では大きい祭壇を買え?!

コスト意識が無いままひたすら高いと言って値切ろうとするのは正直困ります(^^;)
自分たちで全部(訃報の電話待ちを含む)やってみればわかります。

2.葬儀のリスクを理解していない

ちなみにこの本では無宗教葬を一押しなんですが
たとえば無宗教葬をやるなら、
葬儀屋さんはいろいろなリスクの発生率を下げなければいけません。

菩提寺がいる場合とか、周囲の承諾とか。

無宗教のケースに限らず葬儀を行うときには「地雷」がたくさん埋まっています。
それを注意深く避けていくのがプロの葬儀屋さんの責任です。

立ち会い者には地雷が見えていない事が多い。
葬儀の担当者はパレートの法則をうまく生かせない
という記事でも書きましたが、
勉強して2割を理解したからそれで葬儀について語れると
思っていただきたくないです。

3.立ち会い者の価値観や嗜好の押しつけ

市民運動というのは目的を達成するための手段のはずなのですが
手段自体に生き甲斐ややりがいを求め始めると
次第にだんだんずれが生じることがあります。

当たり前の話ですが、葬儀は遺族の意向が一番大事です。

もちろんそう考えている立ち会い者は多いのですが
なかには自分たちの生み出したスタイルが一番だと思っているのか
遺族の意向はそっちのけで
自分の価値観や嗜好を押しつけてくる立ち会い者がいます。
プロの葬儀屋さんというのは自分の価値観や嗜好を持ち込みません。

とこのように苦言を呈してみました。

とはいえ私は(そう呼んでいいのなら)アマチュアリズムに対して肯定的です。
ロックバンドにたとえると
「楽しい~」ってはしゃいで少し音程の外れた音を出しているアマチュアバンドの存在意義を自分は認めています。

一方で自分自身は
楽譜を初見で最高の演奏ができるように練習を黙々と続ける
スタジオミュージシャンのようなプロでありたいと思います。

アマとプロ、お互いが影響を与えて、
消費者にとって葬儀がより良いものになっていくことを
願ってやみません。

(追記)
再度断っておきますが、
上記の苦言は「葬送を考える市民の会」に対してではありません。
私の経験上のお話です。











4 件のコメント

  • 自分の価値観や嗜好を押しつけてくる立ち会い者がいます。
    ↑共感(≧▽≦)ゞ
    うちの葬儀の時も親戚が五月蝿くて(>_<)素人は黙ってろよっ!と思いました。他の葬儀社はこうだったとか。うちは違う会社ですけど(>_<) 散々口を出して、香典これだけ?(-"-;)月命日には朝早く来るし、とっても迷惑なんですけど(>_<)

  • サービス業は人件費の比重が大きいことは承知ですが、
    消費者から「祭壇料」への不満があるなら是正するのが筋です。
    そもそも社員は販管費、人材派遣は委託費と、人件費といっても一概ではありません。
    この点消費者との齟齬の解消から「サービス料」名義に変更しようと試みている葬儀社もあります。
    ただ、名称に苦慮しているようですけどねw。

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