葬儀業界と葬式仏教界の競争原理の違い

こないだ某大学の経済学部の社会経済学系ゼミに呼ばれました。
ベタな文化論で良かったみたいなんですが
ちょっと経済学ネタを取り入れて話してみた内容の抜粋です。
興味のある方はどうぞ。
あと抜粋なんで、ちょっと説明不足のところがあるかもしれません。
すいません。
講義

葬儀業界の問題

なぜ1万円の棺が10万円で売れるのか

お葬式の際の出費に関して
葬儀屋さんへ支払う葬儀費用とお坊さんへの御布施は
高すぎると非難の対象となりがちです。
確かに消費者にとっては同じ出費でしかありません。
しかし一緒くたにされてはいるものの、
その構造は異なるというのが今日の話のテーマです。

かつて
1万円の棺が10万円で売れたのは
なぜでしょうか?

葬儀屋が悪い奴だから?

違います。

もちろん悪い葬儀屋はわんさかおります。
しかしそれは原因ではありません。むしろ結果です。
(参考記事:葬儀は高いという問題と葬儀屋は嫌われるという問題を深く考えてみる3/3

葬儀業界は良くも悪くも自由競争の社会。
エネルギー産業や農業政策でたまに見られる自由競争をゆがめる公的な規制は
ほとんどありません。(良くも悪くも)

1万円の棺が10万円で売れるのは
「10万円で買う人がいる」から
です。

「葬儀屋のモラル」はもちろん絶対必要です。
でも需要曲線と供給曲線を描くまでもなく
10万円というプライシング(値付け)で買い手が付くなら、10万円で売るというのは
経済学上は極々当たり前の行為です。

ほとんどの消費者が正しい知識を取得して
同じ棺を10万円ではなく3万円で売っている葬儀屋さんと取引をするようになれば
棺の相場は3万円になります。
全く何の学習もしなければ相場は10万円のままです。

なぜ情報の非対称性は改善されなかったのか?

つまり消費者が出費を抑えたいなら
情報の非対称性を解消する、つまり正しい知識を取得し、
まっとうな費用を提示する葬儀社を選択する必要があります。

ではなぜ情報の非対称性は改善されなかったのか?
それは消費者側に情報、時間、ストレスの問題があるからです。
詳しくはこちら↓
(参考記事:葬儀という商品を購入するとき、消費者はなぜ不利なのか

これまでは情報の非対称性は
劣悪な葬儀社に有利に働いていました。
普通、市場に劣悪な商品がはびこると、
情報を持たない消費者は最終的に取引から下りようとします。
つまり市場の失敗が起きます。
でも葬儀業界では、
行きすぎたレモン市場が引き起こす市場の失敗は起こりえません。
なぜなら消費者は(たとえ直葬でも)
必ず葬儀屋さんの役務を購入しなければならない、
つまり取引を下りることができません。
そして情報の非対称性のもとでは、良い葬儀社対して「逆選抜」が、
不利に働いていました。
消費者が情報を持たない(目利きができない)状況下では
たとえ社員採用や教育にコストをかけても、
良い葬儀社のクオリティは評価されないのです。

逆選抜を防げない

この逆選抜の状態を防ぐには
①公的権力によって規制するか
②(ゲーム理論上は)複数回の取引によって取引内容を最適化させる
③ネット上の評価市場を利用する
という手段が考えられます。

でも以下の体たらくなので・・・
①・・・葬儀業界には法的規制がほとんど無い。誰でも参加可能。
(もちろん「生き残り」は大変ですが)
②・・・「複数回の取引によって取引内容を最適化させる」っていうのを
もう少し詳しく説明します。
初回で相手をだます取引を行うと
初回は大幅な利益を得ることことができます。
しかし取引が多回数行われる状況(普通の市場取引はそういう場合が多い)で、
初回にだますと2回目以降は取引をしてもらえなくなるので、
長期的には不利となります。
そのため複数回の取引が行われる状況では
誠実な取引をさせる強制力が働くということです。
でも御存じの通り、葬儀は2回目以降の依頼機会が発生しなかったり、
数十年のスパンが空いてしまったりすることが多々あります。

そのため②の方法も効きません。
③・・・ネット上の評価市場っていうのは、
例えば楽天市場のホテル評価なんかをイメージしてもらえば分かりやすいと思います。
(私はここを見てスーパーホテルをよく使うようになりました。)
葬儀業界もそんなふうになればいいのですが、
・購買層の年齢が高くまだネットを使いこなせる状況ではない
・公平な評価市場が無い、状態です。
楽天トラベル的なところはありますが、
ポジショントークしか言わないブローカーレベルのところがほとんどです。
仮に公表しても
参加企業数、公平性、透明性などの点で
評価機関として楽天トラベルのレベルに全く達していないので、
おそらく消費者に信用してもらえないでしょう。

結局ネット上では葬儀社に対して
ステルスマーケティングや誹謗中傷がほとんどっていう状況です。

お金

情報の非対称性の解消は葬儀屋さんにとって悪いことばかりじゃない

というわけで
いままでずっとそんな状況であったのですが
消費者が選択判断の時間軸を前倒しすることにより
(っていうと難しいけど、要は事前相談やセミナーに行くようになったってことね)
時間と情報の問題を軽減するようになりました。
消費者が知恵をつける、っていう極めてまっとうな手段で
徐々にこの情報の非対称性の問題は改善されつつあります。

情報の非対称性の解消によって、葬儀価格は下落しました。
葬儀価格の下落っていうのは業界全体にはマイナスだけど
葬儀屋さんはちょっとこの点ばかりにこだわりすぎだと思うのです。
良い葬儀社にとっては逆選抜が少しだけ解消された状態、
つまり自社の優位性が顧客に伝わるようになったって事だから
必ずしもマイナスばかりじゃないですよね。
まだ不完全だけど、良い葬儀屋さんにはありがたいことなのです。
悪い葬儀社の市場からの退場、を促進してくれるしね。

仏教界の問題

さて一方で葬式仏教界。
(念のため断っておきますと、私は葬式仏教という言葉をネガティブな意味で使用していません。
参考記事:お坊さんについて

葬儀業界同様の情報の非対称性の問題も確かに存在しますが
スィッチングコスト(心理的な物も含む)が大きいため「ホールドアップ問題」が発生し
競争原理が働きにくいのが葬式仏教界の問題の一つ。

スイッチングコストとホールドアップ問題

もしあなたが法外な御布施をふっかけるなどの理由で今の菩提寺の住職が大嫌いで
別の僧侶に葬儀のお勤めを頼みたいと思ったとしますね。
そうすると、菩提寺は納骨(お墓に遺骨を納めること)を断る、
などの報復行為をちらつかせるでしょう。
それに対してあなたが断固NOを貫き通そうとするなら、
菩提寺と檀家の関係を解消し
現在の墓を更地にして返し、
先祖のお骨を収める墓を新たに探さなければいけません。
ここで、「時間」と「手間」と「お金」というコストが発生します。

それが先祖代々続いている墓ならば
その歴史の積み重ねの重みを断ち切る精神的なパワーが必要で
さらにストレス、つまり「心理的なコスト」が発生します。

つまりこれら四重苦というべきスイッチングコストの負担が大きすぎるために
他の選択肢を選べないホールドアップ問題が生じている、
というのが
葬式仏教界に競争原理が働かない一つの理由。
(葬儀社が葬儀費用の打合せの段階で強気に出れるのは、
故人の病院からの搬送が終了している、
つまり役務の提供がすでに一部行われているので、
半ば「ホールドアップ」状態だから、とも言えます。
しかしこれは消費者の思い込みで、
ホールドアップの途中解除はそれほど難しくありません)
木魚

需給バランスの崩壊

一方で檀家が少ない、もしくは持っていない僧侶は、
お葬式での読経依頼を受けて
そこからのお布施が主要な収入源になっています。
しかしこれは明らかに供給過多です。
この崩れた需給バランスにより僧侶らの賃金=御布施(←この表現もお叱りを受けるんでしょうが、あくまで経済活動の一つとしてとらえます)は下落しつつあります。
(参考記事: お経はバズワードである

これが
墓を持たない人(=ホールドアップ問題が生じない人)が多い都市部で
御布施の値段が下がり始めている原因の一つ。

というわけで葬式仏教界全体から見れば御布施の金額は
葬儀費用ほどでないにしろ、ゆるやかに下がっています。
つまり
ホールドアップ問題と
需給バランスの崩壊という問題が存在しているのが
現在の葬式仏教界。

需給バランスの崩壊は、市場原理に任せておけば淘汰によって
いずれ適正化されるので、特に問題はないと私は考えています。
もちろん収入源を失う僧侶にとっては死活問題ですが、
資本主義経済の元で生きる以上仕方がありません。

一方で
遺骨を人質に取った「ホールドアップ問題」に関して
うまい解決策は、ちょっと思い浮かばないです(>_<)

消費者が仏舎利信仰や先祖供養信仰から
少し唯物論寄りになれば、解決するかなとも思いますが
私自分自身がそんなパラダイムシフトを受け入れられないんですよねー。
(参考記事:お墓の思い出




8件のコメント

ネットベンチャーの社長さんが、今だに棺の原価と売価について、その差額を批判的に述べています。

“この業界にきたての時から言っていたこと”を今だに述べているのは、経営者としての成長が伺えず残念ですね。(当初から面識があったもので…)

身近な所で缶コーヒーや車などの原価を考えたことがないのでしょうね。棺の差額なんぞ説明しきれていない納棺の人件費を含めずに計算しても、まだ適正なほうなのですが…。

葬儀の原価とか、ビジネス的にナンセンスですね。。。

広告でも中身を端折ってわかりやすさを演出するより、きちんとした情報を提供して、お客様に深い理解と最適な選択肢が届けられる方向になるといいなぁ。

業界人様、
> 経営者としての成長が伺えず残念ですね。
もしかするともう気付いているけど、
悪者作っておくと楽だから、っていう発想かもしれません。

まさしく!古典派経済学に当てはめるとその通り!
ただ、棺や祭壇に関してはギッフェン財、しっぺ返し理論に関しては相撲と野球の八百長のインセンティブが働くかと思います。

元教師様、
>ギッフェン財
ギッフェン財・・・
ああ、あれですよね、あれ。
え、ええ知ってますとも。
そうそう、ギッフェン財ですよ、うん(T_T)

あくまでも仮のお話ですが…原価五千円の棺を五万円、七千円の棺を十万円で販売してるとします。
価格構成は最高五十万円として、それぞれラインナップがあります。
さて、この価格構成に疑問を感じる経営者が、原価五千円の棺を一万と設定し、それぞれの価格を改定したとしても一万円の棺に需要が集まるでしょうか?
おそらく人気は集まらず、その価格以上の棺が売れると思います。
簡単に言うと、価格が下がっても需要が増えないのがギッフェン財ですね。
安ければ良いというのは小さなお葬式にお任せします。
何度か施行しましたが、あれは…

経済や経営は専門ではないのですが、よく使う話を

ラーメン屋に行くと最初に水が出てきます。
そして700円のラーメンを注文して、会計で700円を支払います。(水代金の請求はない)
ほとんどの日本人は「水は無料のサービス」と感じているはずですが、水やコップ、洗浄等のコストは700円のラーメン代金に含まれています。
客の観察をしてみると男性客で1~2杯、女性客で1杯が平均(二郎系は別)と思います。

ここで、700円のラーメンを650円に値下げをする代わりに、「水1杯で20円の料金設定」を行なったとすると、男性客で670~690円、女性客では670円となり、客にとっては有利な条件となります。
しかし、「水で金をとるのか」や「他の店では無料なのに」等の批判やネット書き込みが出ます。
女性客の賛同は得られますが、「飲食店の水は無料」と盲信している人達には受け入れられません。

会館(施設)使用料無料、祭壇使用料無料、搬送料無料は「ラーメン屋の水」と一緒です。
消費者は、ネットとグロスを充分に理解しておらず、企業側も「無料とのエサ」を使い過ぎています。

夜中なのに、花火(東京大爆発は販売禁止)がうるさくて(正月終わりの花火)

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