お葬式で
常識と思われているが、実は非常識な間違ったマナー
について解説します。
お葬式のマナーについてネットで調べてみたものの、サイトによって言っていることがバラバラで混乱されている方は多いと思います。
原因は、アパレルメーカーが必要以上に服を買わせようとしていたり、お葬式のことをよく知らないマナー講師やライターが、デタラメなことを書いたりしているからです。
「喪服の非常識」というテーマを掲げながら、そういう記事を書いているお前が非常識だよ、というケースは多々あります。
このブログの他の記事を読んでいただければわかるように、私は葬儀業界で25年以上働いている葬儀屋さんです。
NHKで葬儀のマナーを解説したこともあります。
これから実際の葬儀現場の、本当の「常識」をお伝えします。
もしかするとこれまであなたが聞いてきたことと、全く逆のことを申し上げるかもしれません。
理由と併せて読んでいただければ、何が本当か、最終的にご理解いただけるでしょう。
お葬式の服装について基本的な知識は
男性の方は↓この記事を
女性の方は↓この記事を
とりあえずすぐにお葬式の服を購入したいという方は↓この記事を参考にしてください。
基礎編
ではまず男女に共通する話題ということで、基礎編からです。
ダイジェストで解説していますので、くわしく知りたい方はリンク先の記事も併せてお読みください。
✘ 通夜は平服でもいい ✘通夜は喪服でなくてもいい
通夜はブラックフォーマル(お葬式用の服装)でなくても良い、という意見ですが、現在は違います。
ちゃんとお葬式用の服装で参列してください。
お葬式にふさわしい服装とは、男性で言えば上下黒のスーツです。
平服とは紺やグレーのスーツのことで、昔は通夜の場合、これでも良かったのですね。
なぜかというと、昭和の頃は亡くなったその日に通夜を行うということも多かったため、会社に出勤して亡くなったという知らせを受け、その日の夕方参列しなければいけないケースがあったためです。
そのため、「むしろ通夜には平服で参列しなさい、なぜなら事前に亡くなることを見越して葬儀の服を準備していたと思われるから」と書いているマナー本までありました。
しかし最近は、
- 遺体の処置方法の発達(エンバーミングを行えば数週間遺体を保全できます)
- 火葬場の混雑(特に横浜市がひどくなっています)
- 海外にいる親戚の帰りも待たなければいけない、
というような要因で、亡くなってから2~3日後にお通夜というのが常態化しています。
その結果、「用意する時間があるんだから、通勤と同じ紺やグレーのスーツを着ていくのはマナー違反」という状況に変わりつつあります。
おそらく都市部の通夜で平服で参列している人は、現在ほぼいません。
✘ 喪服には正喪服・準喪服・略喪服がある
フォーマルである喪服にも、フォーマル度の序列がある、という意見ですが、これはほとんどウソです。
↑こちらの記事に書きましたが、実際の葬儀現場では正喪服・準喪服・略喪服という区別は、行われていません。
男性は黒のスーツ、女性はアンサンブル(ワンピース+ジャケット)で問題ありません。
アパレルメーカーが自分たちの商品を売りたいがために、アレも買いさないコレも買いなさい、と言っているだけです。
✘ 紳士服量販店で購入する
男女ともに、お葬式の服が必要というときに思いつくのは、青山やAOKIなどの紳士服量販店だと思います。
確かに男女ともに品揃えは豊富なのですが、いかんせん、ネットで購入するのに比べて高すぎます。同じクオリティで2倍近い値付けが行われています。
なぜこんなことになるかというと
- ネットで事前に金額を調べていない情報弱者か
- 今日どうしてもお葬式の服を用意しないといけない人
が買いにくるので、強気の値付けが可能だから、です。
そのため紳士服量販店での購入は、これからお葬式に参列しないといけない、という状況を除いておすすめしません。
時間があるなら、男性はユニクロで、女性はしまむらで、
時間がないならAmazonを利用することをおすすめします。
Amazon レディースブラックフォーマル の 売れ筋ランキング
✘ 革を使ったバッグや靴を使ってはいけない
「革製品は殺生(生き物を殺すこと)をイメージさせるので、お葬式の時は身につけてはいけない」という意見を聞いたことがあるかもしれませんが、これは間違いです。
洋装の世界基準として、革はフォーマルな素材です。
たとえば、紳士の足元が合皮の靴だったらどう思いますか?安っぽいですよね。
実際、ほとんどの男性のお葬式の参列者は革の靴を履いています。
また現在はお通夜お葬式で、普通に肉や魚が振る舞われます。
精進料理(全て植物系の素材)の方が珍しいです。
こんな状況で「殺生をイメージするから・・・」と言ったところで意味がありません
というわけで革製品を気にせず、身につけてください。
とはいえ、この間違った考え方が広まったせいで、女性のバッグはポリエステル、靴は合皮の商品が多いです。
女性の場合は結果的に、革製品が少なくなっています。
GUではコスパの高いパンプスが販売されているので、女性の方におすすめです。
男性には、アシックスのから出ているテクシーリュクスが安くてコスパが高いので、おすすめです。
✘ 夏はジャケットを脱いでもよい
男女限らず、夏場でも暑いからと言って、お葬式の最中にジャケットを脱ぐのはマナー違反です。
お葬式は、故人を弔う場なのでフォーマルな装いが求められます。
アンサンブルのジャケットを脱いでも、ワンピースを着ているのだから、問題ない、という考え方も間違いです。
日本人がワンピース姿でいるのはカジュアルなので、お葬式の場では適切ではありません。
男女ともお葬式の最中は、ジャケットを着用してください。
男性編
次に男性編です。
✘ 黒いスーツは本当の黒ではないので専用の礼服を買う
「リクルート活動のときに着た黒いスーツを持っているから、それをお葬式に着ていけばいい」と思っている男性に対して、アパレルメーカーの人はこう言います。
「黒いスーツでは、ダメ。紳士服量販店で略礼服を買いなさい。なぜなら紳士服量販店の略礼服の生地は、本当の黒を使っているから」
確かに紳士服量販店の略礼服は、市販の黒のビジネススーツよりもきつめの黒を使っています。
ただそんなものは葬儀会館の照明の下では、誤差を範囲です。
たいして違いは分かりません。
欧米でタキシードを仕立てるときには、むしろミッドナイトブルーという色を使います。その方が、照明の下では、一番黒く見えるからです。照明の下で一番黒く見えるのは漆黒の黒ではないのです。
アパレルメーカーは、一着でも多く服を売りたいので、「うちで売っている黒は違う」と言うわけですね。
セールストークには乗らないようにしましょう。
✘ ポケットチーフはしてはいけない
これは半分当たっていて、半分間違いです。
洋装の世界基準では、お葬式のポケットチーフは間違いではありません。
海外の王族のお葬式で、ポケットチーフをして参列している人の画像を目にすることがあるはずです。
そもそも胸ポケットはポケットチーフを入れるためにつけられたという説が有力です。
では、ポケットチーフをしていっても良さそうなものですが、実際日本人にはポケットチーフの習慣は根付いていません。
ビジネスシーンで、まだポケットチーフをしている人は珍しいでしょう。
お葬式のマナーは、遺族がどう受け取るかが全てです。
そのためお葬式にポケットチーフをしていくと、過剰なおしゃれで自己主張していると取られる可能性があります。
ポケットチーフは世界基準ではOKだが、日本ではダメだと認識してください。
✘ ネクタイにディンプル(くぼみ)を入れてはいけない。
これも、たまにネット上で見かけますが、ウソです。
ネクタイのディンプルは、ネクタイの結びを立体的に見せるテクニックです。
日頃からされている方も多いでしょう。
どうやら、お葬式でネクタイにディンプルを作るのは、お葬式の装いで自己主張しているかのように受け取られるから止めたほうがいいという理屈らしいです。
しかしスーツは元々軍服を起源としています。和装の着物と異なり、着ている人の肉体を立体的に見せる設計思想で作られているのです。
ネクタイだけ、立体的に見せることを避けるという行為に意味はありません。
日本国内のトンデモマナー講師だけが、言っていることです。
普段していないのにわざわざディンプルを入れる必要もありませんが、ディンプルを作るのはマナー違反ではありません。
✘ ジャケットはノーベント(後ろの切れ込みがない)でなくてはいけない。
これもブラックフォーマルを作っているアパレルメーカーがよく言いますが、ウソです。
ベントとは服の後ろの切れ込みで、両側に入っているのがサイドベンツ、真ん中に入っているのがセンターベント、全く入っていないのがノーベントと呼ばれます。
↑くわしくはこの記事で説明していますが、もともとスーツは、ラウンジスーツという19世紀に生まれた衣服が原型になっています。
これはラウンジでおしゃべりするときに着ていた服で、当時はノーベントでした。
それが馬に乗るようになって乗りやすいようにセンターベントができ、剣を刺したときに邪魔にならないようにサイドベンツができました。
つまり機能重視でベントが入れられるようになったのです。
フォーマルな服装は機能を求められませんから、たしかにノーベントのデザインが多いのですが、だからといってセンターベントやサイドベンツがダメというわけではありません。
アパレルメーカーの言うことを真に受けて、新しいノーベントの服を買いに行く必要はありません。
✘ 靴は黒のビジネスシューズで
もちろん黒のビジネスシューズで正解なのですが、ふさわしいデザインというものがあります。
男性の黒いスーツの足元は黒い靴ならどんなデザインでもいいと思っている方が多いです。
しかし実は内羽根のストレートチップというデザインがもっともフォーマルなのでお葬式に適しています。
このように、つま先よりの箇所に横一文字にステッチ(縫い目)が走っているのがストレートチップです。
そして靴ひもを通す穴の部分が、甲の部分と一体化している作りを内羽根と言います。
カジュアル靴に多い、靴紐を通す部分が別に外側に作られているのが外羽根です。
安くお葬式の靴を買いたい人は、アシックスのテクシーリュクスがおすすめです。
✘ お葬式の服はユニクロで
これは半分合っていて半分間違っています。
ユニクロのメンズのスーツは、ストレッチウールのシリーズと、感動シリーズの2種類があります。
セミオーダーのストレッチウールのセットアップスーツは、大変良いのです。
セミオーダーのジャケット17,900円+パンツ7,990円で合計25,890円(+補正料2,000円)と、お葬式に着ていく服としては、コストパフォーマンス最高です。
しかし感動シリーズは、ジャケット6,990円でパンツが3,990円と大変安いのですが、化学繊維素材が安っぽいためお葬式にはふさわしくありません。
いずれ技術が向上して、化学繊維でもウールっぽく見えるものが作れる時代が来るのかも知れませんが、いまのところまだそのレベルには達していません。
間違って感動シリーズには手を出さないようにしてください。
ユニクロの最大の欠点は、オーダーしてから届くまで最大10日ほどかかってしまうこと。
以前は3日ほどで届いたので、訃報を受けてからオーダーしても間に合うことがあったのですが、現在は難しい状態です。
もし明日お通夜というように、お急ぎで喪服が必要な方は、Amazonでの購入をおすすめします。
Amazon primeなら、翌日届きます。サイズが合わないと困るので、何点かサイズ違いで注文して、合わなかった服は無料で返品できます。
女性編
最後に女性編です。
✘ ワンピースがもっともフォーマル。
ネットや本で、「お葬式の洋装で最もフォーマルなのはワンピース」という文章を目にしたことがあるかもしれません。
和服(喪服)を除くと
フォーマルは以下の順位だという主張です。
- ワンピース
- アンサンブル(ジャケット+ワンピース)
- ツーピーススーツ(ジャケット+ブラウス+スカート)
- パンツスーツ(ジャケット+パンツ)
しかしアンサンブルのジャケットを脱ぐとフォーマル度が上がるというのはおかしいです。
欧米ではドレスが最もフォーマルな服装で、正式にはワンピースドレスと言います。
これが日本に伝わった際、日本にはドレス文化が無かったため、「ドレス」という単語の方を省いてしまった結果
ワンピース>アンサンブル
という誤った解釈が日本のルールとして定着した
というのが実態です。https://kangaerusougiyasan.com/archives/%e5%a5%b3%e6%80%a7%e3%81%ae%e8%91%ac%e5%84%80%e3%81%ae%e6%9c%8d%e8%a3%85%e3%81%a7%e6%9c%80%e3%82%82%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%bc%e3%83%9e%e3%83%ab%e3%81%aa%e3%81%ae%e3%81%af%e3%83%af%e3%83%b3%e3%83%94.html
つまりフォーマル度順位の正解は
- アンサンブル(ジャケット+ワンピース)
- ツーピーススーツ(ジャケット+ブラウス+スカート)
- パンツスーツ(ジャケット+パンツ)
- ワンピース
です。アンサンブルのジャケットを脱いだ状態では、ワンピースは最下位です。
現在日本の洋装で最もフォーマルなのは、アンサンブルです。
実際お葬式の女性の参列者の9割はアンサンブルを着ています。
たまにブラックフォーマルコーナーで、黒いワンピースが売られていることがありますが
アンサンブルを購入するようにしてください。
✘ お葬式にパンツスーツはマナー違反
パンツスーツとは、女性が着用しているジャケット+パンツの組み合わせのことです。
「パンツスーツはフォーマル度が低いので、お葬式にはふさわしくない」という記事を目にした方は多いでしょう。
でも、コレは間違っています。お葬式にパンツスーツを着ていってもかまいません。
さきほど述べたようにフォーマル度のランキングは
- アンサンブル(ジャケット+ワンピース)
- ツーピーススーツ(ジャケット+ブラウス+スカート)
- パンツスーツ(ジャケット+パンツ)
- ワンピース
なので確かにフォーマル度は、アンサンブルより下がります。
でもワンピースよりは上なので、パンツスーツを着ていったからといって、マナー違反というわけでもありません。
アパレル業界は、たくさん服を売りたいので、
「パンツスーツはマナー違反。アンサンブルも買いなさい。」
と言いますが、すでにパンツスーツを持っている人は、この口車に乗る必要はありません。
ただしまだブラックフォーマルを全く持っていない女性は、アンサンブルを買ってもおくのが無難でしょう。
以上、喪服の非常識の解説でした。
いつも興味深く読ませていただいています。
いつかぜひ髪型(髪色や縛り方、使っていい髪留めやゴムの種類など)についてまとめた記事も読んでみたいです。
今の若い子はピンクや緑などカラフルな髪に染めている人やデザイン性の高いショートヘアの人が多く、おしゃれで可愛いなと思うのですが
葬儀のときはどうしていいか迷うだろうな…と要らぬ心配をしてしまいます。
caramelchan様
コメントありがとうございます。
髪型のお題、挑戦したいのですが、当方アラフィフの、ずっと黒髪のおじさんなので、ハードル高いです(笑)