正喪服・準喪服・略喪服の本当の違いを葬儀屋さんが解説します




皆さんはお葬式の服装マナーを調べていて

「お葬式の服装には正喪服・準喪服・略喪服という序列があって、使い分けましょう」

という文章を読んだことはありませんか?
フォーマル度の順位を表したもので、儀式や故人との血縁関係によって使い分けるのがマナーとされています。
例えば「喪主は正喪服を着るべきで、略喪服は着てはダメ」というように。

現在のお葬式では、そんなルールはほとんど存在しません。

  • ちまたで言われる正喪服・準喪服・略喪服とは何なのか
  • 存在しないのに、なぜ延々言われ続けるのか

について解説します。

正喪服・準喪服・略喪服とは何なのか

「正喪服・準喪服・略喪服」というワードで検索をかけると、いろんな記事が出てきます。
アパレル(衣服)メーカーや紳士服量販店のサイトが多いですね。

少し調べていただければ分かりますが、正喪服・準喪服・略喪服がそれぞれどんな服を指すか、サイトによって言っていることがバラバラです。
つまり、そもそもはっきりとした定義がないのです。

とはいえ、最大公約数的にまとめてみたのが下記の表です。

分類 服装 着用対象者 着用する状況
正喪服 男性 和装(紋付き袴) 喪主、遺族 お通夜・お葬式・法事
モーニングコート
女性 和装(紋付き着物)
ブラックフォーマル
準喪服 男性 礼服、ブラックスーツ 喪主、遺族、親戚、参列者 お通夜・お葬式・法事
女性 ブラックフォーマル
略喪服 男性 黒、紺、グレーなどのダークスーツ 参列者、 弔問・お通夜・お葬式・法事
女性 黒のワンピース、スーツ、アンサンブル

しかしこの区分は意味がないと私は考えます。
理由は以下の文章をお読みください。

男性(メンズ)の場合

まず男性の場合から、正喪服・準喪服・略喪服をくわしく解説していきます。

正喪服とは

和装の場合は、紋付き袴

男女ともに和装が正喪服として選ばれています。お葬式の和装と言えば、男性なら黒の付き袴(はかま)です。

たしかに日本人としてフォーマル度が一番高いのはその通りです。
しかし都市部のお葬式で和装の人はほとんどいないのです。

成人男性の99.9%は黒いスーツ、和装の人はほぼいません。

私が過去に見た唯一の和装の人はヤ○ザでした。
報道ではまれに歌舞伎関係など伝統芸能の人が着ているのを見かけるくらいです。

洋装の場合はモーニング

それから男性の洋装の正喪服はモーニングコートですが、現在は社葬(役員クラスが亡くなった時に会社が行うお葬式)で
葬儀委員長(社長であることが多い)がたまに着るくらいです。
個人葬ではほぼありません。

またモーニングコートは(morning dress)のモーニングのつづりからわかるように、日中お葬式で着用するものです。
「お通夜の時には何を着るの?」と思われたかもしれませんが、お通夜という儀式はキリスト教文化圏にはありませんので、そもそも洋装にはお通夜に着ていく服装のルールは存在しません。

つまり、いわゆる正喪服を着ている男性はほとんどいないのです。

準喪服とは

準喪服は男性の場合、礼服もしくはブラックスーツとなっています。
一方で略喪服にも「黒のスーツ」とあって、何が違うの?って混乱しますよね。

結論から言うと、同じです。準喪服と略喪服には違いがありません。
ブラックスーツと黒いスーツは同じです。

「紳士服量販店で売られている礼服は違う」という人もいるのですが、同じです。
このカラクリは次の章で説明します。

略喪服とは

ちなみに略喪服に「紺やグレーなどのダークスーツ」とありますが、最近では100人中1人か2人くらいしか見かけません。

以前は、遺体の保全処置方法も限られており、火葬場も空いていたので、亡くなったその日に通夜ということもありました。
そのため会社に出勤して訃報(亡くなったという知らせ)を受取り、当日勤務終了後すぐ通夜に参列と言うことがあったので、勤務中と同じ紺やグレーのスーツでも許されたのです。
しかし最近は、遺体の処置方法も発達し、火葬場も混雑しており、海外にいる親戚の帰りも待たなければいけない、というような要因で、亡くなってから2~3日後にお通夜というのが常態化しています。
その結果、「用意する時間があるんだから、ちゃんとブラックスーツ着てくるのがマナー」という状況に変わりつつあります。

結局正喪服・準喪服・略喪服の区別などない

つまり、
紋付き袴の人はいない
モーニングの人もほとんどいない。
ダークスーツの人もほとんどいない。

結局現代の男性のお葬式の服には正喪服・準喪服・略喪服の区別など必要なく、
通夜だろうとお葬式だろうと法事だろうと、遺族だろうと一般参列者だろうと、ブラックスーツ一択で良い、ということです。

では紳士服量販店が推している「礼服」はどう違うの?という疑問に対しては後述します

女性(レディース)の場合

次は女性の場合です。

正喪服とは

男女ともに和装が正喪服として選ばれています。お葬式の和装と言えば、女性なら家紋入りの黒い着物です。

女性の黒い和装は、喪服と言われます。
本来男女問わずお葬式に着用する服は「喪服」と呼ばれていたのですが、男性が戦後早い段階から洋装に移ったのに比べて、1970年頃まで女性はほとんど和装だったため、「喪服≒女性の和装」を指すようになったものと思われます。

たしかに日本人としてフォーマル度が一番高くなるのは分かるのですが、
男性と同じく都市部のお葬式で和装の人はほとんどいないのです。

現在成人女性の90%はアンサンブル、9%がパンツスーツ、和服は1%です。

女性の場合、2010年頃までは「せっかく喪服を持っているのだから」という理由で、遺族で喪服を着る人はちらほらいました。
しかし最近は

  • 着付けができないので、一人で着られない。
  • 着付けを頼むと1万円×2日分かかる。
  • 髪をアップにセットするのに時間と手間がかかる
  • 和服を着慣れていないと、帯の締め付けで気分が悪くなる
  • 身内だけで行う家族葬が増えたので、対外的なことは考えなくていい

という理由で、めっきり和装の人はいなくなってしまいました。

準喪服とは

女性の正喪服は「ブラックフォーマル」であり、準喪服も「ブラックフォーマル」と解説しているサイトが多いです。
直訳すると「黒い儀礼的な服」となりますが、具体的にどんな服なのか分かりませんし、
正喪服と準喪服で何がちがうの?と思いますよね。

実はネットで調べる限りその違いは明らかにされていません。画像も貼られているのですが、違いがわかりません。
このあたりが多くの読者を混乱させていると思われます。

いくつか文献にも当たってみました。

著者は、イギリスに在住歴があり、日本のブラックフォーマルメーカー東京ソワールの元役員の方。

この本で正喪服の説明は以下の通り。

詰まった襟元や長袖にデザインされたワンピース、ツーピース、アンサンブルなど、いずれも黒色で落ち着いた感じの無地や、変わり織りなどで、シンプルなデザインのもの。
着丈はノーマル丈より短くならないこと。アクセサリー、小物、ストッキング、パンプスタイプの靴など、すべて黒色で統一します

準喪服の説明は以下の通り。

流行を適度に取り入れた黒い色のワンピース、ツーピース、アンサンブル。襟元が大きく開いたデザイン、光る素材や肌が透けて見える素材は控えます。
アクセサリーやハンドバック、靴、小物は正喪服に準じます。

結局、どちらも「黒のワンピース、ツーピース、アンサンブル」と言っていて、何が違うか分かりません。
解説のイラストもついているのですが、正喪服も準喪服もほぼ同じに見えます。

略喪服とは

さらに冒頭の表に書いているように、略喪服も「黒のワンピース、スーツ、アンサンブル」と解説しているところが多く、
結局、正喪服や準喪服と略喪服は何が違うの?
って混乱するのではないでしょうか。

結論としては、男性と同じく現在洋装の正喪服・準喪服・略喪服という区別は実質ないのです。

あえてフォーマル度の序列をつけるなら、以下の順番になります。
実際はアンサンブルが主流で、パンツスーツはややフォーマル度が落ちるが、喪主や遺族が着てはいけないというルールはない、
というのが葬儀現場の実態です。

.喪服(和服)

.アンサンブル(ジャケット+ワンピース)

.ツーピース(ジャケット+ブラウス+スカート)

.パンツスーツ(ジャケット+ブラウス+パンツ)

基本的にアンサンブルを着ておけば、間違いはないでしょう。

ではなぜ「正喪服・準喪服・略喪服という区別」が言われる続けるのか、その背景を、次から説明していきます。

正喪服・準喪服・略喪服と、区別をつけるアパレルメーカーの思わく

では、なぜ実際は存在しない正喪服・準喪服・略喪服が、あるようなふりをして区別をつけたがるのか?ということですが、
アパレルメーカーがよりたくさんの服を買わせいがため、です。

さきほど、準喪服は男性の場合、
「礼服」「ブラックスーツ」となっていて、一方で略喪服にも「黒のスーツ」とあって、何が違うの?って混乱する
と言う話をしましたよね。

これは、
「お葬式に、ビジネススーツとして売られている黒いスーツをきていくのはマナー違反。より黒い色の礼服を買いなさい」
というアパレルメーカー(礼服を売っている紳士服量販店)のセールストークためなのです。

↓以前こういう記事を書きましたが、「礼服が売りにしている黒の濃さ」なんて本当はどうでもいいのです。

略礼服とブラックスーツの「黒」は違うのか

↓礼服はノーベント(後ろの切れ込みが無い)だからお葬式向きという話も、どうでもいいです。

礼服・喪服のベント(切れ込み)は気にしなくていい

女性の場合も、ほぼアンサンブルの一択で良いのです。

デザインはほぼ同じなのに、
生地の素材が違うとか、細部のデザインが凝っているとか、いろんな理由をつけて高価な「正喪服」というラインナップを作り出し
「将来喪主を務めるときのために、こっちの正喪服も、そろえないとね」
とより高い服を買うように消費者にせまるのです。

同じ文脈で、「パンツスーツなんてフォーマルじゃないから、お葬式に着ていくのはダメ。持ってない人はアンサンブルを買え」
とやるのです。

喪服にパンツスーツがダメな理由を葬儀屋さんが教えます


↑この記事にも書いたように、フォーマル度は落ちるもののパンツスーツはマナー違反ではありません。
たとえ遺族だろうと、パンツスーツで構いません。

戦後日本のアパレルメーカーは、欧米のフォーマルウェアのドレスコードを勝手に日本流に変えてしまったという前科があります。

そもそも欧米の女性の正喪服にあたるのは、ドレスです。
正式にはワンピースドレスと言います。
でも日本にはドレス文化がありませんでした。
欧米人に比べて寸胴の貧相な体型だったため、立体的な肉体に着せることを前提としたジャケット無しのワンピースドレスは、似合わなかったのでしょう。
また関西では母方の家紋の入った喪服を嫁入り道具で持っていく文化があったため、1970年ごろまで和装が主流だったのも一因でしょう。

その後、東京ソワールがアンサンブル(ワンピース+ジャケット)を売り出したことで、和服からアンサンブルへの変化が1970年以降起こったのです。

ワンピースドレスを導入できなかった時点で、正喪服うんぬんという「フォーマル度の序列の議論」は終わっているのです。
このあたりのくわしい経緯は↓この記事を参照してください。

女性の葬儀の服装で最もフォーマルなのはワンピースではない

さきほど紹介した東京ソワールの元役員も、自社の戦略で洋装の本場である欧米のドレスコードをねじ曲げて定着させてしまった手前、正喪服と準喪服の違いがないというヘンな説明をせざるをえなくなったのでしょう。

この欧米のドレスコードのねじ曲げは、男性でも起こっています。
本来欧米には準喪服としてディレクターズスーツというのがあるのです。
モーニングコートのパンツと、ブラックスーツのジャケットを組み合わせたようなデザインです。

↓くわしい解説はこちら

日本人の葬儀の服装は間違っている?

しかし戦後ディレクターズスーツは導入せずに
カインドウェアというメンズアパレルメーカーが「ネクタイを変えれば結婚式にも葬式にも使える礼服」という日本独自の服を売り出してしまったのです。
そのため単なる「黒いスーツではない」という建前の、紳士服量販店で売られている「黒さを売りにする礼服」というヘンテコなものが定着してしまったのです。

↓そのあたりの歴史的経緯はこちらの記事を参考にしてください。

葬儀の服装の歴史

つまりアパレル業界の商売の都合でアンサンブルや礼服を売り出して、欧米のドレスコードをねじ曲げておきながら、
正喪服・準喪服・略喪服という自分たちの都合のいいドレスコードを語り出すので消費者が混乱するのです。

そしてそんなアパレルメーカーのセールストークを、お葬式のことなんて何も知らない三流ライターがうのみにして記事を書いています。
もしくはアパレルメーカーから金をもらって、提灯記事を書いています。

「正喪服・準喪服・略喪服」のワードで検索をかければ分かりますが、多くがアパレルメーカーの息がかかったサイトです。
そうして今日もありもしない正喪服・準喪服・略喪服の解説が、ネット上で垂れ流されているのです。

最後にもう一度繰り返しますが、
正喪服・準喪服・略喪服の区分など気にしなくていいです.
男性は黒いスーツ、女性はアンサンブルで問題ありません。

国内アパレル業界は存在しないお葬式のドレスコード(服装の決まり)を言い続けるのをいい加減止めるべきです。

 

以上のことを理解した上で、お葬式の服をお探しの方は↓こちらの記事を参考にしてください。

急ぎで喪服や礼服が必要なときは・・・葬儀屋さんが教えます











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