日本人の葬儀の服装は間違っている?




日本人の葬儀の服装ルールは世界標準と異なった変化をしていますが、それは許されるべきという話です。

日本人の葬儀の服装は間違っている?

日本人の葬儀の服装(特に男性用)は世界基準(プロトコル)と異なった変化をしている
つまり、間違っている
という意見をたまに耳にします。

例えばこれらの本の著者の方々(仕立て屋さんや服飾評論家)も
同様のことをおっしゃってます。

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その結果、雑誌や書籍によって、書かれている葬儀の服装のルールがまちまちで
読者を混乱させているように思います。

葬儀の服装の世界基準を再確認してみる

そこでこの問題を一度整理し
私の見解を述べてみます。

まず最初に
慶事(祝い事)と弔事(とむらい事)を含んだ
フォーマルウェア全般の世界基準
を確認します。

ルールは

  1. 昼か夜か(18時を超えるかどうかが目安)
  2. 慶事(祝い事)か弔事(とむらい事)か
  3. フォーマル度の違い (正礼服>準礼服>略礼服)

の組み合わせによって異なります。

一覧にするとこんな感じです。

フォーマルウェア
(下線を引いた部分が欧米の弔事、つまりお葬式でも着用できるフォーマルウェアです。
個々の画像は下記のリンクを参照ください)

ざっくりした解説をつけると

燕尾服・・・指揮者が着ているやつ。
ジャケット裾が文字通りツバメの尾に似ています。

タキシード・・・ジェームスボンドがパーティで着ているやつ

モーニング・・・結婚式で花嫁のお父さんが着ているやつ。
燕尾服のような裾の切れ込みがない。

ディレクターズスーツ・・・これは日本ではほとんど見かけない。
5年ほど前セレクトショップのシップスで売っているのを見かけました。
めったに見かけないので買おうかどうか迷ったのですが、結局「着ていくところがない」という結論に達し断念。

ダークラウンジスーツ・・・濃紺か墨黒(いわゆるチャコールグレイ。黒に近いグレー)の地味なスーツ

このような分類に至るまで長い服飾の歴史があるのですが
ボリュームが多くなるので割愛します。
参考図書を挙げておきます。
興味のある方はお読みください。

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日本の葬儀の服装

一方日本で着用されるのは
黒の略礼服
という名のブラックスーツがほとんどです。
スーツというより、
「略礼服」というジャンルの衣服。
ネクタイを慶事は白、弔事は黒に替えるだけ。

例外的な事例としては
特に社葬の時に、喪主・葬儀委員長クラスがモーニングを着ることがありますが
(まれに通夜の時も着ている人がいますが、これは間違い。モーニングは昼間の服なので)
遺族・参列者の99%は黒い略礼服です。

この状況にいたる日本国内の経緯は、調べたところこんな感じ。

戦前

庶民の葬儀の正装は羽織袴か、白い和服

皇族が洋装を取り入れ始める

敗戦

和装から洋装へシフトする
白い服は汚れやすいので、困窮している国民にとっては負担になる

国内の衣服メーカーがネクタイを変えれば慶弔両方に使えるということで、
黒い「略礼服」というものを販売し始める。

定着する。
おまけにシングルよりダブルの方がよりフォーマルという誤った認識のため
ダブルの略礼服が多くなった。

こんな経緯です。

そもそも弔事のルールっていうのは、

ルールが存在することは一般の人も知っている
→でもお葬式の体験頻度が少ないのでどんなルールかは知らない
→ミスリード(間違った方向への誘導)を起こしやすい
構造を持っています。

そんなわけで、
日本の葬儀の服装は
衣服メーカーにミスリードされてしまったというのが実態。
(ただし、階級社会でもなく、戦後困窮していた日本人に上記の世界基準を押しつけても、おそらく全ての服を用意するのはムリだったと思いますが。)

売り手主導で日本だけの習慣ができあがったところは
バレンタインデーのチョコレートに似てますね。

そんなわけで、
日本独自のこのような状況に批判的な方がいます。
(ブログ記事:バブル期が再現される葬儀式場
また世界基準を御存じで「日本人の無知」に苦言を呈する人々、たとえば
前出の服飾評論家故落合正勝氏は
「葬儀には紺のスーツで参列することにしている」
とおっしゃっていました。
仕立て屋の高橋純氏は
「ディレクターズスーツかチャコールグレイのラウンジスーツを着て参列したら」
という主張をされています。

それでも葬儀の時は黒い略礼服でいい

さて、
以上のような状況を理解した上で
私の結論を申し上げると
「いや、それでも、葬儀の時は黒い略礼服でいい」
ということです。

理由は以下の2点。

理由その1 礼節が大事

そもそもなんでこんな服装の決まり事が存在するか
ということを考えてみましょう。

それは
相手に対する「礼節」を重んじているから
です。
「礼節」とは礼儀と節度のことです。

では、重んじるその相手とは?

本来故人に対してという考え方もありますが、故人がすでにいないとなると
相手は目の前の遺族ですよね。

たとえば国内の葬儀に参列者としてディレクターズスーツを着ていけば、
遺族は「なにその服?」と思います。
それに対して「?」と思う遺族の方が無知で自分が正しい、という考え方は
目の前の遺族に対して礼節を欠いています。

弔事の場では参列者の個性やおしゃれやポリシーは
求められていません。

求められているのは遺族に対する礼節、葬儀の場合言い換えるなら「弔意」であり、
それを表現するためには
遺族の状況や心情を慮(おもんぱか)りつつ
同様に自分も心を痛めているという気持ちを表す服装である必要があります。

あくまで「遺族の感じ方」が服装の絶対基準になります。
遺族が「葬式では黒い略礼服が正解」と思っているなら
それが正解なのです。

もちろん
フォーマルウェアを生み出したイギリスの服飾文化への敬意も大事ですが、
(イギリスで行われるイギリス人の葬儀に参列するというシチュエーションでは
何が何でもモーニングかディレクターズスーツを着ていくべきでしょう。)
目の前の遺族への礼節と比較した場合、
後者の方が大切であると私は思います。

理由その2 郷に入っては郷に従え

そもそもタキシードはアメリカ人が流行らせたそうです。
(シャツに胸ポケットをつけたのもアメリカ人)
他国に伝わったことで服装が独自の変化をするのは良くあることです。

じゃあ、日本独自の変化も認められるのでは。

さらにこういう事例はどうでしょうか?

地方によっては参列者が額に天冠(通常故人が額に付ける三角の白い布)を
つけなければいけないところがあるそうです。
この土地では「額に天冠」をつけていくのが
参列者のフォーマルなスタイルなのです。

また
欧米のお葬式はキリスト教形式が多いですよね。
さて日本のキリスト教では「前夜式」という、
仏教でいう通夜に相当する儀式を行うことが多いです。
でも、欧米には「前夜式」というものはないそうです。
(欧米の夜の弔事用の服の選択肢に、正式なものがなくダークラウンジスーツしかないのも、
このことが一因だと思います)

神学部の教授になぜ国内では前夜式を行うか聞いたところ、
試行錯誤の中でキリスト教の儀式を日本流にアレンジした経緯があるとのこと。

儀式ですら日本流にアレンジされているのに、
それに付随する儀式の服装には欧米流を厳格に適用するって
バランスとしておかしくないですか?

原型から派生したその変化も、
(たとえ無知から生じたものでも)
一つの文化として尊重すべきだと私は考えます。

when in Japan, do as the Japanese do、ですよね。

以上が
「日本での葬儀の時は黒い略礼服でいい」
と私が考える理由です。

ポケットチーフはどうなのか

ちょっと話がわきにそれますが
前述の高橋純氏は弔事の時にもポケットチーフをすべし、
とおっしゃっています。
たしかにジャケットの胸ポケット自体が
ハンカチを挿すために付けられたらしいので
おっしゃりたいことは分かります。

しかし私が以前
お葬式のポケットチーフは許されるか?
という記事で述べたように
ポケットチーフは挿すべきはないと考えています。

火葬場で死神博士を見た!

唐突にすいません。
ここからは(特に40代以上の男性向け?の)葬儀の服装に関する余談です。
代々幡斎場(都内の火葬場)で、今は亡き俳優の天本英世氏を
お見かけしたことがあります。

天本氏って世間では
仮面ライダーの「死神博士」
のイメージが強いから、こういうところに来づらいのでは
と 思いきや、

マントを着用してました・・・

<http://onyomugan3.tumblr.com/post/17311507675/%E6%AD%BB%E7%A5%9E%E5%8D%9A%E5%A3%AB%E5%A4%A9%E6%9C%AC%E8%8B%B1%E4%B8%96%EF%BC%92-%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC>

本当です。
同僚も信じてくれなかったですけど。

ただしシャーロックホームズみたいなショートタイプでしたけどね。

お葬式であの服装が許されるのは天本氏だけかと。











23 件のコメント

  • 海外や日本に在留している外国人(在日は除く)から、よく聞かれる事が2点あります。

    1.葬式と結婚式で同じ洋服(参列者)を着るのはおかしい?
    2. 悲しみの葬式と喜びの結婚式を、同じ会社(互助会等)が行うのはおかしい?
    葬式を行う会社での結婚式は「縁起が悪い」との由。

    1への回答、「合理的だろ」
    2への回答、「ワイルドだろ」

  • 2.を聞く人は結婚式は教会で、葬式は寺でやるのだろうか。

    キリスト教会も結婚式と葬式両方するのと似たようなもの、とか。

  • 物理教師さんをさいおいて、すみませんが、

    外国人から見て日本人の不思議な事は、「結婚式はキリスト教式で行い、葬式は仏式で行う事」です。
    日本は信仰心が薄い国ですが、社会主義国家(東欧やアフリカ、中南米は別)を除くと宗教信仰は強く、自らが信仰する宗教に基づき儀式(結婚式や葬式)を行っています。
    葬儀社は世界各国にあり、また結婚式に関しても結婚式のプロデュースやサポートをする会社は各国にありますが、結婚式だけの教会等を保有する結婚式専門会社は、日本以外では殆どありません。

    キリスト教の例では、自らが信仰し、毎週の様に行ってい教会(当然ながら洗礼を受けて信者である事が多い)で結婚式を行い、死亡した場合はその教会で葬儀を行う事が多いと思います。(北米ではFHの礼拝堂に牧師や神父が来る事もある)

    その意味では、結婚式だけのキリスト教信仰や、結婚式だけの教会は宗教的には疑問が多々あり、信仰に基づき結婚式と葬式を行う教会(営利目的の部分は否定出来ないが)と、営利目的だけの企業が行う結婚式と葬式を一緒に考えるのは「似て非なり」かと。
    ただし、クリスマスを祝い、その1週間後には寺院や寺社に初詣に行く日本的考えとしては、「何でもあり」ですが。(クリスマスや初詣の宗教的意義が軽薄化し、セレモニーやイベント化してしまった)

  • そもそも服装よりも、日本の葬儀のあり方が世界基準からかけ離れていると思います。
    各法要や、仏壇仏具、お盆など日本独自のガラパゴス文化ですからね。
    いったい何の為にあるのか?
    故人や遺族の為?
    葬儀屋さんやお寺の為?
    誰の為のものなのかグレーゾーンだよね。

  • こんにちは

    遺族の感じ方が大事だという点に共感します。
    男性のことではないのですが、女性で今ネールアートが流行っているようで
    派手目なネールアートをしたまま 参列した方がいました。

    ネールを落す時間がなかったのか 手袋もせずに 派手なネールで焼香された時に
    違和感を感じました。

  • 岩崎様、
    コメントありがとうございます。
    ネールアートって結構な金額するらしいので
    決心付かなかったんでしょうかね。
    そういう問題ではない話ではありますが・・・

  • 自分は普段はジーパンにスニーカーで、改まった席では仕方なくボタンダウンにニットタイとコッパンの服装しますが、冠婚葬祭は和装が基本です。結婚式招待は一つ紋付き袴で、葬儀も紋付き袴、法事は御召しに袴で、洋装の礼服などは着たこともありません。
    成人式はスリーピースを作って参列したのですが、着たのはそのときだけでキモノを作れば無駄にならなかったのにと後悔しました。
    普段はラフな格好なので友人は冠婚葬祭で驚きます。クルマは持たないので電車の中でジロシロ見られますけど。
    弟の神前結婚式で婿側親族和装なのに、嫁側の父親だけがブラックスーツだったので花嫁は顔が引きつってました。せめてモーニングだったらまだしも。

    祝い事には和装出席が欠かせませんが、葬式や法事でモーニングやディレクタースーツで参列してみたいですね!

  • 豪太 様、
    >冠婚葬祭は和装が基本です。
    かっこいいっすねー。
    私も和装したいんですけど、着物業界ってなんで高級品ばっかり作りますかね。

  • そもそもの話ですがブラックスーツはダークスーツの一種にすぎません。
    勿論これを着て弔事に臨むことは間違っていないと思います。
    ただしルールの混乱は大問題。
    場合によっては大事な人間関係にひびが入りかねません。
    もし仕立て屋さんや評論家さん等しかるべき立場の者が敢えてこの無秩序を放置するならば怠慢混乱を助長するならば悪質と言ってもいいでしょう。
    例に挙げられている著者の方々が真っ当なルールを知らしめようとしているのだとしたら評価します。

  • メンインブラック様
    コメントありがとうございます。
    >真っ当なルールを知らしめようとしているのだとしたら評価します。
    どちらかというと本家イギリス人はこうだよ、というニュアンスだったと思います。

  •  はじめまして、gadohと申します。
    主に男性の服装について論じておられますが、時々、「黒なら何でもいいんでしょ」とばかりに、ミニスカートやキャミソールに透ける素材の上着をお召の方が来られたり、ブラウスのボタンを開け、スカートの上部をまくって短くしたまま喪服のお母様と参列する女子高生を見かけると、とがっかりします。我が家にも年頃の娘がおりますが、仕事柄、TPOにはうるさくなりました。
     小学生くらいのお子さん連れの参列者の場合、お子さんにも白シャツ・黒ズボンや紺のスカートをはかせるお宅とお子さんは普段着のお宅では、前者のほうがご一家でマナーを守って参列されているように思います。成長期のお子さんにスーツや黒靴までそろえる必要はないと思いますが、白シャツ・黒ズボンは用意しておくと、学校行事で使えることもあり、重宝しました。

  • gadoh様
    >お子さんにも白シャツ・黒ズボンや紺のスカートをはかせるお宅
    そうなんですよ、こういうご家庭の子供は躾が出来ていて
    騒がないんですよね。

    >白シャツ・黒ズボンは用意しておくと、学校行事で使えることもあり、
    親御さん視点のアドバイス、ありがとうございます!

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