私はNHKで葬儀のマナーを解説したことがある葬儀屋さんです。
インターネット上では「センスのいいおしゃれな喪服」をお探しの方がたくさんいらっしゃるようです。
気持ちはよくわかりますが、ちょっと待ってください。
葬儀の現場の人間から言わせてもらうと、その考え方は間違っています。
もっと強い言葉で表現をするなら、「マナー違反」ですらあります。
ここからはその理由と、どのような喪服を着れば正解なのかについても解説します。
目次
お葬式の服にセンスとおしゃれはいりません
お葬式の服にセンスとおしゃれはいりません。というよりむしろ邪魔です。
「センスがいい」「おしゃれ」の言葉の定義を調べてみると…
センスがいい・・・人の外見や好み、もののコンセプトなどが優れているさま
おしゃれ・・・身なりを飾ること
たしかにセンスのいいおしゃれな洋服を身にまとって他人からよく見られたいという気持ちは理解できます。
しかしお葬式の場合これはいけません。2つ例をあげます。
三浦瑠麗さんの場合
2022年9月7日に行われた故 安倍元総理の国葬に参列した三浦瑠麗さんの喪服がネット上で炎上しました。
どうやらアレキサンダーマックイーンのドレスのようです。
「正喪服・準喪服・略喪服の違いなど無い!ことを葬儀屋さんが解説します 」という記事に書いたように、日本人は洋装のお葬式のドレスコードを勝手に変えてしまったため、アンサンブル(ジャケット+ワンピース)の装いが主流です。しかし欧米ではワンピースドレスが最もフォーマルなお葬式の服装なのです。
その意味では国際基準に則った装いです。洋服のサイズもあっています。
炎上した理由は、シースルーの面積が広い、つまり肌の露出が多すぎた、ということです。
日本のお葬式の服装のマナーとして、セックスアピールを抑える、つまりできるだけ肌を露出させないというルールがあります。
このドレスは胸元を強調しており、長袖のロングドレスではありますが腕や足元もかなりシースルーになっています。
海外のファッションショーでは半裸のモデルがランウェイを歩くことがありますが、欧米人のモデルはそれほどでもなくても、東洋人のモデルはかなり生々しく感じることがあります。
多分見ている側の我々の東洋人の感覚も影響しているでしょう。三浦さんの場合、顔立ちは和風の美人で、色の白さも相まって必要以上に艶っぽく見えています。
また三浦氏が被っている帽子はトークハットと呼ばれるもので、キリスト教の葬式で女性が被っているものです。
日本人が着用するとどうしても、コスプレ感がでてしまいます。
これまで私は1000件以上のお葬式を担当してきましたが、実際に被っていた人は一人だけでした。
日本では、仏式はおろか、キリスト教のお葬式でも被っている方はいないのです。
さらにその写真をInstagramに載せる行為は、言外に「私の容姿を見て」というメッセージを発しています。
彼女の中には「センスのいいおしゃれな喪服」を見て!という気持ちがあったのでしょう。
その自己顕示欲も、世間の反発を買ってしまいました。
葬式の服装で「センスがいい」「おしゃれな私」で失敗した事例です。
外資系の某高級メゾンのスタッフの場合
「別に私は三浦瑠麗さんみたいに目立つデザインの服を来たいわけじゃない」という方には
私が担当したお葬式での経験をお話しします。
10年前の話になりますが、私が担当したお葬式に、Pの文字で始まる外資系某高級メゾンのスタッフが男女含めて10名ほど参列されたことがありました。
男性が着ていたのはブラックのスーツ、女性が着ていたのは黒いアンサンブルです。
皆さん服装のプロなので、お葬式のドレスコードは全く間違っておらず、高級感のある素材を使用したシンプルな洋服のサイジングは完璧でした。
にもかかわらずこの方々はかなり周りから浮いていたのです。
皆さんモデル体型の美男美女でした。
そして日頃店頭に立って、顧客の視線を浴びているためか、とても華があるのです。
オーラがあるとも言い換えてもいいでしょう。
ショップでは当然必要な武器なのですが、お葬式の場ではとても浮いていました。
加えて亡くなったのが若い方だったのでさらに微妙な空気になっていました。
彼ら彼女が何者か全く知らなくても周りの人は違和感があったようです。
彼ら彼女らには何の落ち度もありません。それにもかかわらず大変場違いな存在になっていたのは気の毒でした。
このように、実際は、おしゃれでセンスがいいと周りに受け取るお葬式の服装で参列したなら、それ自体がマナー違反になりかねないのです。
お葬式に参列されたことがない方のために例えるなら、結婚式で新郎新婦よりも派手で美しい格好している参加者がいると、本人に全く悪気がなくてもちょっと浮いてしまって微妙な空気になりますよね。
それと同じです。
確かに日頃の服装は自己表現ですから自分を美しくよく見せたいというのは当然の気持ちです。
この場合、最優先されるのは自分自身です。
遺族に与える印象が最優先
ではお葬式の場合、最優先されるのはあなたでしょうか?
違いますよね。
故人もしくは遺族です。
特にあなたの服装が遺族に与える印象が重要になります。
おしゃれ意識の高い女性はどうしても何か足そうと工夫してしまいがちです。
さらにお葬式の服を売りたいがために、「おしゃれ」「センスがいい」という言葉を連呼するアパレルメーカーにも問題があります。
もちろんアパレルメーカー全てではありませんが、商売のためにお葬式のマナーをねじ曲げて発信する傾向があります。
お葬式の服装は、アンダーステイトメント(控えめ)な調和を目指すべきです。
お葬式の服装は「あら、素敵」と思われるのではなく、「あの人、どんな服装だったっけ?」と後で思い出してもらえないのが正解です。
遺族があなたの服装に違和感を感じてしまえば、あなた自身がどう思っていようが、その服装は間違いです。
どのような喪服を選べばいいのか
以上のように、葬式の服装にはおしゃれもセンスも必要ありません。というか邪魔になることさえあります。
必要なのは2点です。
- ドレスコード(装いのルール)を守る
- サイズを合わせる。
です。
↑くわしくはこちらの記事に書いていますが、これからダイジェストで解説します。
ドレスコード(装いのルール)を守る
まず世間でよく言われているドレスコードの間違いを訂正しておきます。
- ワンピースが最もフォーマルというのは間違い
- パンツスーツをお葬式に着て行ってはいけないというのも間違い
- 正喪服・準喪服・略喪服という区別はありません
それぞれ以下の記事にくわしく解説しています。
アンサンブルが選ばれる理由
日本では女性の9割がアンサンブル(ワンピース+ジャケット)1割がパンツスーツです。
アンサンブルの着用率が高いのは以下の理由です。
- 女性らしい落ち着いたフォーマル装い
- パンツスーツと異なりインナーのコーディネートに悩む必要がない
- パンツスーツに比べて体型を選ばない。妊娠中や出産直後の方でも着られるタイプがあります
- 世代を選ばない。体型を選ばないので、40代以上でも問題ありません。
デザインはベーシックなものを
お葬式の服は、頻繁に着るものではないので、長く着られるよう、極力装飾やデザイン性をそぎ落としたベーシックなデザインにしておいた方が無難です。
丈の短いボレロ風やリボン付きは、30代を超えてくるときびしくなります。
ワンピースの胸元が見えやすい襟ぐりのゆるいデザインではないかも注意してください。
価格と素材
女性のアンサンブルは別に安いものでかまいません。
というよりも安くならざるを得ません。
なぜならほとんど全てが安い化学繊維(ポリエステル)の素材でできているからです。
ポリエステル100%がほとんどなので、素材の良し悪しは見ただけでは分かりません。
百貨店の売り場に並んでいるアンサンブルを見ていただければ分かりますが、パッと見てその服の金額を当てるのは我々プロでも至難の業です。
あまりに安すぎるものは心配ですが、アマゾンで1万円以上のものなら問題ないでしょう。
Amazon レディースブラックフォーマル の 売れ筋ランキング
夏専用やジャケット無しはおすすめしない
基本的に1着でオールシーズンの着用を想定したものが多いのですが
夏専用というのもあります。
薄手の生地で作られていて、ジャケットはないことも多く(ワンピースのみ)、袖も短めのデザインです。
しかし夏専用のものはおすすめしません。
なぜなら、
- 現在のお葬式は葬儀会館で行われることが多く、夏の冷房の温度はジャケットを着た男性基準で設定されています。夏用だと温度調整ができないので、寒いときがあります。
- マナーとして肌の露出はできるだけ控えた方が良いから
- オールシーズンと夏用2着そろえるのはお金がかかる。
以上の理由で夏専用はおすすめしません。
同様の理由で、夏なので暑いからアンサンブルのジャケットを着ていかないワンピーススタイルというのもおすすめしません。
移動中は小脇に抱えてでもいいのでちゃんとジャケットを持参して、式場に到着したら羽織ってください
デザインについていろいろ述べてきましたが、ちまたに流通しているお葬式用のアンサンブルの99%はルールを守ったちゃんとしたデザインです。
正直アンサンブルならドレスコードに関して神経質になる必要はありません。
サイズを合わせる。
デザインがシンプルなので、サイズが合っていないと目立ちます。
サイズはちゃんと合わせましょう。
以下をチェックしてください。
- ワンピースのウエストのサイズは合っているか確認しましょう。葬儀は座っている時間が長いので、試着の時、一度イスに座って確認してください。
- またスカートは、座った状態で膝が出ない、ある程度の長さがあるものを選びましょう。
- ジャケットは肩がぴったりと収まっているかを確認しましょう。
加齢による体型の大きな変化が起こってタイトになったら、買い替えておくのが無難でしょう。
やめておいた方がいいデザイン
Amazon レディースブラックフォーマル の 売れ筋ランキングの中から、できればやめておいたほうがいいアイテムを紹介しておきます。
ワンピースが許されるのは10代までだと思います。
またこの服のスカート丈は膝上で少し短いと思われます。これも10代までしか許されない装いでしょう。
前述したように、パンツスタイルは1割ほどしかいませんが、マナー違反ではありません。
しかしジャケットの背面のデザインは凝りすぎですし、9分丈のフレアパンツは悪目立ちしすぎです。
おすすめしません。
妊婦の方はゆったり着られるかもしれませんが、他にも妊婦の方に合うアンサンブルはいくらでもあります。
これなら普通にアンサンブル(ジャケット+ワンピース)にしたほうが良いと思います。
それでも良く見せたい人へ
ここまで説明してきて、それでもなお、どうしても、センスがいい、もしくはおしゃれと思われたい方へ。
そこまでおっしゃるなら、仕方がありません。
高額なアンサンブルの紹介
高額なアンサンブルを紹介しておきます。
10万円オーバーのアンサンブルを扱っています。
素材もポリエステルだけでなく、トリアセテートやレーヨンなどを混合しています。
デザインも立体的です。
商品の紹介文に「上品な艶やかさ」「華やぎをプラス」などというワードが出てくるところが、個人的にいかがなものかと思いますが。
和服のすすめ
フォーマルなルールを守りつつ、アピールしたいのであれば和服(いわゆる喪服)を着るのは、いかがでしょう。
|
和服は日本人にとって最もフォーマルな服装です。
そして伝統的な衣服だけあって、日本人女性を美しく見せます。
何より、現代では、着ている人がほとんどいないので、目立てます。
喪主がアンサンブルなのに、参列者が和服を着ていっていいのかしら、とお考えの方、
ご心配には及びません。
1980年頃までは、女性の参列者の多くは和服でした。
関西では、嫁ぐときに母方の家紋が入った喪服を持参するのが普通であり、多くの女性が持っていたのです。
今でも地方に行けば、数は少ないものの、年配の参列者の中には和服をお召しの方がいます。
着付けができない方も大丈夫。
そのお葬式を取り仕切っている葬儀屋さんに電話すれば、着付けの方を紹介していただけます。
おそらく相場は1日1万円くらいかと思います。
そもそも和服を持ってないという方も大丈夫です。
着付けの方の紹介と同じく、葬儀屋さんに電話をして貸衣装屋さん(喪服のレンタル屋さん)を紹介してもらってください。
もしくは楽天で注文することもできます。
欠点は
- お金がかかる
長襦袢や草履などワンセットで1~2万円ほどかかります。 - 日数が必要
最近は貸衣装屋がどんどん廃業しているので、地元にないことも多いでしょう。楽天の場合、注文から到着まで1~3日ほどかかります。Amazonでは喪服のレンタルは扱っていません。
明日参列しないといけない、という状況なら間に合いません。 - 気分が悪くなるかもしれない
普段着物を着慣れていない人は、帯の締め付けがきつくて気分が悪くなる場合もあります。過去数名見かけました。着付けの人がプロでない場合、立ち姿用の締め方をすることがあるのですが、実際お葬式は座っている時間が長いのでどうしても締め付けが強くなってしまうのです。
これらの困難を乗り越えてでも、アピールしたいという方は、和服を着てみてください。
以上、センスのいいおしゃれな喪服がダメな理由でした。
コメントを残す