今回ご紹介する本はこちら
葬式仏教 死者と対話する日本人
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薄井秀夫(うすい ひでお)
株式会社寺院デザイン代表取締役。昭和41年、群馬県生まれ。東北大学文学部(宗教学)卒業。中外日報社、鎌倉新書を経て、平成19年にお寺の運営コンサルティング会社である株式会社寺院デザインを設立。檀家や地域に求められるお寺にするため、活動の再構築のサポートを行っている。
個人的には今後、碑文谷創氏的な活躍(業界のご意見番)をしていただきたいと思っている方です。
この著作ですが、もともとは朝日新聞社のサイトの連載だったものが、今回加筆修正されて産経新聞出版から発刊されました。結構珍しいケースなのではないでしょうか。内容はもちろん左でも右でもありませんが、なかなか尖っています。
タイトルから分かるように、薄井氏は「葬式仏教」を評価しています。
葬式仏教とは、日本の歴史的経緯から生まれた、日頃の布教活動よりも葬式を熱心に行う日本の仏教界を揶揄する言葉です。
薄井氏は葬式仏教を
「死者への優しさに満ちた、とても美しい信仰」と呼んでいます。
私も葬式仏教上等!と考えていて、日本仏教の本質は先祖供養教であるという立場なのでとても共感できます。
後半は
仏壇/お墓/お布施/戒名/檀家
などをトピックスとして取り上げています。
それぞれの消費者と仏教界の「意識のズレ」を指摘し、仏教界の「ここがヘン」を斬っていきます。
同時にこうした方がいい、という提案も行っています。
日本社会における仏教の機能を再定義する試みと言えるでしょう。
そして
社会が変質すれば、やはり仕組みも変えていかなくてはならない。その責任は仏教界にある。
と言い切ります。
基本的に薄井氏の意見にすべて同意です。
多分同意するのは私だけではなく、葬儀業界にいる仏教界「以外」の人はすべて同意してくれるのではないでしょうか。
なぜなら、葬儀業界にいる仏教界以外の人は、消費者に選んでもらうことをいつも考えているからです。そういう人たちにとっては、薄井氏の主張は至極当然で腑に落ちる話なのです。
仏教界から見るとこれは迎合になるのかもしれませんが、潜在的に葬儀は大衆のニーズに合わせて変化してきたのです。80年くらいの個々人の人生のスパンでは、数百年単位の変化がはっきりと理解できないだけです。
以前、村上隆氏を例に出しながら、仏教界にマーケティングの知見が無いことを指摘しました。
仏教界の人達だけが、見えていないのです。もしくは見えていないふりをしているのです。
あ、いや、例外がありました。
僧侶紹介機関に登録している僧侶です。
かつて僧侶紹介期間の僧侶の質が高いことに言及しました。
あの人達は、お客様に選ばれることを常に考えている、つまり市場原理にさらされているので、常に危機感があります。おそらく「こちら側」と同じ視点も持っているでしょう。
社会を見る目を失わせ、制度疲労を引き起こし、めぐりめぐって自分たちを苦しめているのである。風通しを良くすることは、一時的には活動の不安定化をもたらす可能性が高い。それでも、ここを変えていかなくては、お寺に未来はないだろう。
仏教界は、いわば薄井氏のクライアントでもあるわけで、そこに対してコンサルタントとはいえ、変われ!と耳の痛いことを言うのはなかなかの覚悟が必要だったでしょう。
それでも言わなければ、このままの仏教界ではもう後がないという相当の危機感を、薄井氏はお持ちなのでしょう。
しかし、私は仏教界が大きく変わることはないと思います。
そもそも日本人自体が、このままではなんともならないというのが分かっているのに、どうしようもない状態になるまで変わろうとしない民族です。
例えば国家財政を立て直すには社会保障を減らすしか方法が無いと分かっていながら、それを行いません。
ある意味日本の伝統文化のど真ん中である仏教界が、積極的に変わることはないでしょう。
多分誠実な薄井氏は、ノアの心境なのではないでしょうか。
「このままでは滅びるぞ」と叫びながら、それでもなんとかなるだろうと高をくくっている人々を、どうにかして方舟に載せて助けようとしているのです。
(仏教界の例えにノアの方舟を使うのは我ながらどうかと思うのですが)
一方でシニカルな私はこう考えます。
「宗教家なのですから、変わることなくどうぞこのままご自由に殉教してください。」
これまでのやり方を守り続けることによって、食えなくなって路頭に迷う自由が宗教家にはあります。
当然、それには覚悟も要求されるのですが。
私は、団塊の世代が死に絶えた2050年ごろを過ぎて、もう一度日本が貧しい国になってから復興が始まると思っています。
そのころには、おそらく3割の寺院が消滅しているでしょう。
そこからが、仏教の復興だと思います。
逆に言うと、その状況になるまで仏教界は変わらないでしょう。
タイトルに戻りますが、僧侶は全員「葬式仏教」を読んでください。
そして変わるのか、変わらないのか、好きな方を選んでください。
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