「無葬社会」という著作の中で鵜飼秀徳氏が消費者に不利益を与えかねないデマを流しているので指摘しておきます。
無葬社会[Kindle版] 鵜飼 秀徳 日経BP社 2016-10-27
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Amazonの内容紹介から
「多死時代」に突入した日本。今後20年以上に渡って150万人規模の死者数が続く。
遺体や遺骨の「処理」を巡って、いま、“死の現場”では悩ましい問題が起きている。
首都圏の火葬場は混み合い「火葬10日待ち」状態。
「火葬10日待ち」状態という話は、デマです。
特殊なケースを除いてそんなことはありません。
年末に亡くなって年始の火葬場の営業を待つ場合には日にちは伸びますが、よほど特殊な条件(例えばどうしても人気のある火葬場併設式場で年明けにお葬式したい、など)を付けない限り10日待つようなことはありません。
過去に同様のデマを批判したことがあります。
(参考記事:火葬場は7日~10日間待たないと使えない?)
鵜飼氏は何を根拠に10日待ちといっているのでしょうか。
まず前書きから。
都会の火葬場では炉が一杯で、待機状態が一週間から一〇日にもなっているという。
「・・・という」?
なんか怪しい雲行きですね。
第一章は「火葬一〇日待ちの現実」という節から始まります。
冒頭に持ってきているということは、この部分を「売り」にしたいのでしょう。
先に種明かしをすると本書で火葬待ちに関する取材ソースは2箇所だけしかありません。
横浜市の火葬場を統括する市健康福祉局の担当者の発言
「今年の一月は大変、混み合いました。予約サイトは七日先までしか予約できないのですが、朝の早い時間帯を除いて、予約が一杯でした。」
早い時間でいいなら1週間すら待たなくていいってことですよね?
足立区の住職の発言
私は長年、火葬場に通っていますがね、先日、初めて炉前での順番待ちを経験しましたよ。
数年前までは、全ての炉が満杯になるなんてことはほとんどなかった。
ですが、その時は炉の全てが稼働中で、次の会葬者も炉前で最後のお別れをしている。
さらに我々が、その後ろで待機しているという状態です。
三〇分も待ちましたよ。
火葬の一週間待ちは、もはや当たり前。
最後の一行までは炉前(火葬場に到着して火葬を待つ状態)で待った話をしているのに
唐突に亡くなってから火葬までの空き日数の話に飛んでいます。
そして「当たり前」は言い過ぎです。
12時前後の混み合う時間帯なら炉前で待たされることは20年前でもありました。
良くあることですがこの住職はインタビューアーに合わせて話しを盛ったのではないでしょうか。
その後その住職が
「ある葬儀屋さんがこっそり、『人が亡くなってから火葬場を押さえたのでは間に合わない。亡くなることを前提に、混み合いそうな時間帯は事前に押さえておく』と教えてくれましたよ」
と裏話を披露するのですが、それが火葬場待ちが長くなる原因じゃないの?
その後鵜飼氏自身が横浜市の火葬場サイトにアクセスしたらしく
横浜市の火葬場の予約サイトを見ると、確かに混み合っている。向こう三日間の予約はほぼ埋まっており、四、五日先は午前の早い時間帯しか空いていない
4,5日先でも空いてるじゃねぇか!
つまり誰も10日間待ちなんて言ってない。
にもかかわらず、その後
前述のように死者が増える夏場や年の暮れには、火葬待ちが一週間から一〇日というケースも出てきている。
とさも既製事実のように言い切る。
おまけに「夏場や年の暮れに死者が増える」という事実は無い。
それから最も不思議なのは板橋区の戸田斎場というまさに都内の火葬場を取材しているにもかかわらず
火葬場待ちの話には言及していないことです。
「いやぁ、10日待ちはフツー無いよね」と言われたのではないかと邪推するのですがどうですか?
前書きで述べている
ジャーナリストとしての役割も肝に銘じている。
という言葉は信じてよいのでしょうか。
さて、なぜ鵜飼氏は数字を盛ったのでしょうか?
そう書いて恐怖訴求をすれば本が売れると思ったからでしょう。
もしかすると編集者の意図だったかもしれません。
しかし最近は鵜飼氏本人が10日待ちと言いだしました。
私が鵜飼氏の流すデマをなぜ批判するかというと
葬儀業界は零細企業が多いため、人手のやりくりが厳しくなった一部の悪質な葬儀屋が
火葬場のせいにして、葬儀施行日程を調整(延長)するケースがあるからです。
鵜飼氏のデマはこの状況を助長する可能性があります。
(「Aという葬儀社に依頼したら4日後しか火葬できないって言われたけど本当?」と遺族からセカンドオピニオン的問い合わせの電話があって、確認したら2日後でもOK、というようなケースがたまにあります。)
このようなデマが横行すると消費者に不利益を与えかねません。
確かに火葬場不足は今後深刻な問題ではありますが
鵜飼氏によって過剰に事実が歪められていることに対しては
声を上げておきます。
鵜飼さん、そろそろ黙っていただいても良いですか?
(追記)
前作「寺院崩壊」は良い作品でした。
(参考記事:「寺院消滅」すればいいんじゃないですか)
それだけに今回指摘した内容は残念です。
次作に期待します。
今、『無葬社会』を読んでいます。
ご指摘の通り、
「都会の火葬場では炉が一杯で、待機状態が一週間から一〇日にもなっているという。」
という曖昧な文章から始まるのは、
本全体の信頼度を下げてしまいますね。
そして、このブログを読ませてもらうと
現実はそうではないのですね。
葬送現場の現状を知りたいと思い読みだしたので、
何とも残念です。
ただ、ご指摘されているのが
アマゾンのレビューや『無葬社会』の「はじめに」だけ、
もう少し言うと「火葬場の10日待ち」の部分だけを取り出して
全体を論じられているこのブログも残念に思いました。
鵜飼さんが
「ジャーナリストとしての役割も肝に銘じている。」
と書かれているのも、
「僧侶のはしくれ」である自分が日本仏教界擁護の立場を取らないように
「肝に銘じている」と書かれているのに
このブログでは、
それを読みかえて論じられているのもどうかと。
私は当ブログが好きで読んでおりましたので、
内容の薄さが残念に思い、
思わずコメントさせて頂きました。
一読者として、
『無葬社会』全体を読まれてからの論評記事を
拝見したいとも思います。
読者様
コメントありがとうございます。
本作でも
http://kangaerusougiyasan.com/archives/1981474.html
で述べた鵜飼氏の良さは出ていると思います。
ただ前作の出来が良かっただけに今回はパンチが弱くパワーダウンしています。
それでおそらく氏の戦略として火葬場10日待ちをフックにして耳目を集めようとしているのだと思います。
実際に著作を手にとって全体を読んでバランス良く判断できる読者 様のような方にとっては
今回の私の記事が針小棒大だと感じられるのは理解できます。
でも世間には書籍の宣伝だけを受け取って本書を読まない人の方が圧倒的に多いんです。
そうなると「火葬場10日待ち」が一人歩きして、(現にもうかなり広まっています)
余計な不安を消費者に与えているんですね。
似たようなケースを何度も見てきました。
対抗してそれを食い止めるためには
いいところもあるけど・・・、というバランスの取れたぬるい言い方では世間に届かなくて
「火葬場10日待ち」のテーマのみに絞って、あえてきつめの言葉で叩く、
という戦略をとらざるを得ないんですね。
そうしないと世間には届かないのです。
そのあたりの葛藤をご理解いただければ幸いです。
亡くなるのを前提に予約できるんですか_??
そこが知りたい。地方では市営しかないので不可能です。
かかし 様
キャンセル前提ってことでしょうね。
あわせてこちらも↓
http://kangaerusougiyasan.com/archives/1664396.html