今回は死亡届けの手続きと、その改善ができないのかという話です。
目次
死亡届の手続き
死亡届は戸籍法の第86条、第87条に記載されていることからもわかるように、必ず行わなければならない手続きです。
現在、死亡届けの実務は、以下のように行われます。(御存じの方は、飛ばして次の章へ)
1.逝去
2.死亡診断書の発行
お医者さんが死亡診断書に死因を書きます。異状死(ざっくり言うと病院以外で亡くなること)の場合は、死体検案書という名称になります。
死亡診断書を発行する目的は、厚生労働省の死亡診断書マニュアルによると
・人間の死亡を医学的・法律的に証明する
・我が国の死因統計作成の資料とする
ためです。
http://www.city.matsuyama.ehime.jp/kurashi/tetsuzuki/koseki/siboukisairei.html
通常用紙は横長のA3サイズで、左側が死亡届、右側が医者の診断書、のレイアウトになっていることが多いです。
左側の死亡届の欄に遺族が、故人の情報(生年月日・死亡日時・死亡場所・本籍地など)と届出人の情報を書き込みます。
ちなみに届出人は、肉親であることがほとんどです。
しかしおひとりさまなど肉親がいない場合、
6親等内の血族か、3親等内の姻族(配偶者側の血縁者) であったり
アパートの大家さんや、介護施設の責任者だったりすることもあります。
ちなみに右側の死亡診断書の豆知識としては
・死因の記載欄には、I欄とⅡ欄がある
・Ⅰ欄に複数病名が書かれている場合は、最も死亡に影響を与えた傷病名が因果関係の順番に記入されている。
・Ⅱ欄には、直接には死因に関係していないが、Ⅰ欄の傷病等の経過に影響を及ぼした傷病名が書かれている
・「心不全」、「呼吸不全」の場合、その「状態」で亡くなったからと言って、記載してはいけない。そんなことをやり出したらみんな該当するから。明らかに病態としての死因であればOK
・医者のサインがあれば、押印は不要。(医者がどちらもしていなくて、役所で突き返されてもう一度病院に行って書き直してもらうという事態が、たまに起こります。)
3.死亡届の提出
この死亡届を役所の戸籍課に提出します。(ちなみに役所の多くは、夜間窓口を設けていて24時間提出が可能です。)
この提出によって
・火葬許可書の発行
・戸籍の手続き(除籍)の開始・・・大体1週間後に完了
が行われます。
ちなみにどこの役所に提出してもいいというわけではなく、
- 故人の死亡地
- 故人の本籍地
- 届出人の住所
の三条件のいずれかへの提出が認められています。
上記のどこの役所に出したとしても火葬業務には影響を与えません。ただし提出した役所で除籍処理されると、それが他の役所に伝達されるのに、数日のタイムラグが生じます。そのためそれほど多くはありませんが、遺族が死後の公的手続きを一日でも早く済ませたいという場合は、遺族の生活圏内にある役所を選ぶことが多いです。
また提出は亡くなってから1週間以内に行わなければなりません。
普通すぐに提出するだろうと思われるかもしれません。しかし都市部では年末年始火葬場がお休みのため、亡くなってから1週間後に火葬をすることがあり、死亡届けは火葬直前でいいやと思っていると、痛い目にあいます。
最終的に火葬の際、火葬許可書を火葬場に提出して、火葬してもらいます。
つまり、死亡届を行わないと故人を火葬することができません。
ちなみにこの時提出した火葬許可書は、火葬後、いわゆる埋葬許可書として遺族に渡されます。
この埋葬許可書は、お墓などに納骨するときに、墓地の管理者に提出が義務づけられています。
以上が死亡届の仕組みです。
さてこの
3.死亡届の提出
を誰が行っているか、が以下のテーマに関係します。
死亡届け業務の問題点
死亡届の提出は、届出人(遺族)が行うのが前提です。
とはいえ、実務上は葬儀屋さんが代行しているケースがほとんどです。
そしてこの手続きは、葬儀屋さんの業務を圧迫しています。
以前私は、葬儀屋さんの業務を、全て分解して、解析したことがあります。トヨタのカイゼンみたいなアプローチだと思ってもらえれば良いです。
その分析の結果、最も「非生産的」な業務だったのが、この死亡届業務でした。
以下、その理由を解説します。
業務のほとんどが移動時間と待ち時間
自社近隣の役所手続きであったとしても、移動時間と待ち時間を合わせれば、大体1件あたり平均1時間30分の時間を取られます。
先程の提出場所の三条件に合致する役所が、遠方にしかなかったりすると、下手をすると半日仕事になってしまいます。
最近では、コロナウイルスの影響なのか、働き方改革のせいなのか分かりませんが、
夜間の窓口を設置せず昼間来い、とか
連休中は手続きしない、
という役所も出てきました。
この「お役所仕事」により、届け出日時が制約を受けることで、さらに葬儀屋さんはシフトが組みにくくなっています。
特殊能力を必要としない
死亡届は、初めて行う人には負担が大きく、ましてや肉親を亡くした遺族にこれをやれというのは酷な話です。
そのため葬儀屋さんが代行しているわけです。
しかし手続きの申請自体は、数回経験すれば高校生のアルバイトでもできる内容です。
- 戸籍課の窓口で、死亡届と届出人の印鑑を提出。
- 使用予定の火葬場と、届出人の続柄を伝える。
- しばらく待って、火葬許可書を受け取る。
死亡届と印鑑は絶対なくしてはいけないので責任重大ですが、業務自体はシンプルです。それにもかかわらず、
葬儀施行という特殊技能を持ち、労働力として希少性がそこそこ高いがゆえに、
人的コストの高い葬儀屋さんに、やらせているわけです。
葬儀単価が下がり、葬儀件数が増え、役所での待ち時間も増えるとなってくると、このコストは馬鹿になりません。
どの業務よりも必須
それにもかかわらず、この業務を省くというわけにはいきません。
火葬できないと、葬儀屋さんは業務を行えないので、必須度でいうと全業務でNo.1です。
他の業務なら、
コストと、止めた場合の損失を天秤にかけて、止める、という決断が可能なのですが、こと死亡届け業務に関しては無理です。
死亡届け業務の改善案
そこで改善案を考えてみました。
有料化する
この業務をお金をいただいて行うという案です。
しかし行政書士さんの中には、「死亡届を葬儀屋さんが代行するのは、法律論で言うと違法。それは本来行政書士の仕事」という方もいます。
ここは結構グレーゾーンの話なので、死亡届の代金としてお金をもらうのは微妙です。
死亡届を遺族にやってもらう
では、死亡届を遺族にやってもらったら・・・ということになるのですが、前述したように初めて行う人には負担が大きいのです。
また遺族に任せると、「ちゃんとタイムリミットまで、遺族が手続きしてくれるだろうか」と葬儀屋さんは、不安な気持ちで過ごさねばなりません。
「明日中に火葬許可書を取得しなければいけない」という状況ですぐ動くのは、行政書士さんには無理で、現実問題としてはやはり葬儀屋さんしかいないでしょう。
戸籍課の窓口の方も、葬儀屋さんが届けるものと、認識しています。
届け出場所をコントロールする
さきほど死亡届を提出するできる役所の三条件を、提示しました。
どこに提出するかを遺族と決める際、「役所提出を代行する代わりに、できるだけ葬儀屋さんの移動時間がかからないようにする。つまり葬儀屋さんの近所の役所に提出できるように、打ち合わせの段階でコントロールする」という方法があります。
故人の死亡地や本籍地が遠方だった場合、葬儀屋さんの近所の届出人を選んでもらうということです。
死亡届け専属スタッフを作る
バイクに乗れるアルバイトを雇って、夜間に役所を回ってまとめて提出してもらうという方法。
なんで夜間かというと、道が空いているのと、夜間は待ち時間が少ないため。
ただこの方法は、以下のデメリットがあります。
・死亡から火葬までの日程が短い地方では無意味。(首都圏では大体3~5日ほど空きます)
・月100件くらいお葬式を施行する大手葬儀社でないと、元が取れない
・夜間なので人件費がアップ。コストのリターンが発生しづらい。
・今後夜間業務をやらない役所が増える可能性が高い
効率化アルゴリズムを考えて、指示を出す
これは、「何日までに」「どこの役所に」提出するという情報を、集約化して、最も効率的なアルゴリズム(計算式)を考えて、提出業務量を最少化するという方法。
例えば○日の何時にスタッフAさんは、B営業所を出発し、C営業所の死亡届をピックアップして、D市の役所で3喪家分の死亡届けをまとめて提出する、などの効率化で業務量を最少化します。
しかしこれは巡回セールスマン問題と同じく、PCを使っても日々理論上の最適解を出すのは難しいという問題があります。
つまり机上の空論にすらならない、という残念な結果に・・・
移動時間と待ち時間に他業務を行う
結局、移動時間と待ち時間に他業務を行う、というベタな方法が一番ということに・・・
実際、私がやっているのもコレ。
移動は車が多いので、全自動運転が定着するまでは車中のデスクワークは無理ですが、書類発行中の待ち時間は有効利用できます。
とはいっても、ノートPC持ち歩くのはセキュリティリスクも生まれてしまうので、「どうしても」という時くらいしか使いません。
普段はKindleで情報のインプットくらいです。本当は、アウトプット業務を行いたいのですが。
死亡届のオンライン化
究極の改善案を提案させていただきます。
死亡届のオンライン化
です。
もちろんネット投票の実現すらままならないこの国では、今世紀中ですら実現が難しいでしょう。
思考実験として提示してみました。
死亡届けのシステムに問題があれば、殺人の隠蔽や戸籍システムの崩壊につながります。
いかに偽装を防止するかが、ポイントです。
ただ、現在でもインターネット投票や、ネットバンキングや、ブロックチェーンが行われているのなら、高い精度で不正を防ぐ仕組みはあるはずです。
例えば
・医者が入力し病院に蓄積される電子カルテ情報と
・マイナンバーなどの個人認証システム
・葬儀社や遺族の第三者を認証できる仕組み
・役所のデータベース
を組み合わせれば、その手続きの正当性を担保することはできないでしょうか。
最終的に亡くなった電子情報が、火葬場に伝達され、紙は埋葬許可書の発行のみというのが究極の理想です。
とはいえ現実は、本籍地などの照合ですら、役所によっては手作業や電話での聞き取りでやってるところを見ると、オンライン化への道はほど遠いのですが・・・
以前、霞が関系のミーティングに参加する機会があり、この意見を表明したことがあります。確かに一理あるけれども優先順位としては低くなるだろうねということでした。
医者が悪意を持って偽造したらどうするのかとか
なりすましのリスクをどうするのか、
という意見もあるでしょう。しかしそれは現行のシステムでもあり得るリスクです。
本音を言うと、日本の死因究明制度がザルなのに(参考記事:日本で殺人が見逃される理由 | 考える葬儀屋さんのブログ)
死亡届のシステムにゼロリスクを求めるのは現実的ではない、という思いもあります。
以上が夢物語的希望なのですが、現実的な行政の歩み寄りとしては「提出役所の三条件」だけでも外せないのか、と思います。
つまりどの役所に提出しても、死亡届けを処理してくれるという世界ですね。これならいつも近所の役所にまとめて提出すれば良いだけなので、多少葬儀屋さんもラクになるのですが。
住基ネットやマイナンバーカードの仕組みを使えば、技術的には十分可能だと思います。
ただ地域別のセクションが強力なので、他エリアの業務は行いたくないとか役所の人が言い出して、そこを乗り越える政治力が必要になるでしょう。
やはり道のりは遠いです。
死亡届は、申請書出したり、斎場の費用を払ったりと独自のお役所ルールがあるので、時間がかかるものと諦めてます。T市以外で24時間受け付けてくれない役所があるのですね!
届を出したら、年金や葬祭費・高額療養と扶養する20歳以下の子どもがいる場合は、手当や保険の手続きが自動でできたらいいんですけどね。
関係ない話ですが、博善系の斎場は、「心付を受け取りません。」の貼り紙がされるようになりましたね。
佐々木行恵 様
>自動でできたらいいんですけどね。
あれはわざと面倒にして、手続きする気をなくさせようとしているのではないでしょうか(笑)
届出可能地に死亡者の住所地を入れるだけで随分変わると思うのですが、お葬式は故人様が住んでいた地域で行うことが多いと思うので逆になぜ無理なのかがわからないぐらいです。私たちのような地方ではあまりありませんが東京などは本籍地や入院していた病院などの場所も様々ありそうなので大変そうですよね。
東 隆司 様
私は都内の葬儀社勤務なのですが、提出の選択肢が鎌倉しかないという状況で、夜間は受け付けてもらえないということがありました。
あの時は大変でした。
うんうんと終始うなずいてしまいました(笑)
流石ですね。繁忙期、お身体ご自愛下さい。
大阪の葬儀屋さん 様
ありがとうございます!
オンライン化を今後勧めて頂きたいですね。現状は「有料化」で宜しいのではないでしょうか。以前旅行社に勤めていたときパスポートの代理申請は5000~10000円ほどで代行手続きをしていました(受領は本人となりますが)。法的にグレーゾーンでも、葬儀社が手続費を計上したからといって行政書士が表だって違法だと騒ぎ立てる事はないと思います。違法だと言って、じゃあ実際誰がやるんだといえば葬儀社でしょうし、申請に関して法制度化されるんであれば、それはそれで我々業界は関係ないし。堂々と請求しちゃいましょう。ちなみに私の会社は車で5分程のところに出張所があり、隣接市町村も30~40分程の所ですべて夜間・休日対応なので手続きが苦になった事はほとんどありません。都内だといろいろ大変なんですね。
ちゃくろしま 様
>都内だといろいろ大変なんですね。
そうですね、道も混みますしね。