「女性の葬儀の喪服で最もフォーマルなのはワンピース」という説に異議を唱えてみました。
情報提供ございましたらよろしくお願いいたします。
目次
通説ではワンピースが最もフォーマルらしいのだが
2018年8月25日の日経新聞の土曜版であの岩下宣子さんが葬儀の装いについて述べていました。
この方は肩書きがマナー講師ではなくマナーデザイナーなので、たまに自分で創作した、誰もそんなことやってねぇよマナーを言い出すことがあります。
このブログでも何度か指摘しました。
岩下宣子さん、勝手に葬儀マナー作るのやめてください
例のトンデモ葬儀マナーの元凶は「佐々木悦子」ではなく「岩下宣子」だと考える理由
日経新聞の記事でいくつか気になる箇所があったのですが、最も引っかかったのは
女性の喪服の格は高いほうから黒のワンピース、アンサンブル、ツーピース、パンツスーツの順
のところ。
これ本当?
喪服のフォーマル度ランキング
通説通り、フォーマル順に画像を並べてみます。
1.ワンピース
2.アンサンブル
3.ツーピース
4.パンツスーツ
アンサンブルの補足説明
男性の方は「アンサンブル」と言われてもピンとこないかもしれません。
手元にある新ファッションビジネス基礎用語事典(一応服飾関係の調べ物用に持っています)の記述から要約すると
アンサンブルとはフランス語で「調和、統一」の意味で、組み合わせて着用することを意図した一揃いの衣服のこと。生地、柄、色、デザイン等に統一性や調和性のある組み合わせを言うことが多い。
「葬儀 アンサンブル」で画像検索してもらえれば分かりますが、日本ではほぼワンピース+ジャケットの組み合わせを指します。
ツーピースの補足説明
ツーピースはスカート+ブラウス+ジャケットの組み合わせのこと。
アイテム3つなので、これはスリーピースと呼ぶべきで、アンサンブルの方がツーピースと呼ばれるのにふさわしいのではないかと個人的に思ったりもしますが、ややこしくなるので私の意見は忘れてください。
ワンピースが一番フォーマルってヘンじゃない?
さてフォーマル度が
ワンピース>アンサンブル
ってことは、
アンサンブルのジャケットを脱ぐとよりフォーマル度が高まるということになって、ヘンじゃない?
という疑問がわきました。
高級レストランのドレスコードからも分かるように、メンズの服ならジャケットを羽織った方がフォーマルというのは大原則です。
いつもの岩下宣子さんの創作マナーかと思いきや、ネット上では結構同じ記述がでてきます。
ただ岩下さんのデマが拡散されているだけという可能性もあるので、ちゃんと調べてみることにしました。
情報源は多い方がいいのでツィッターでつぶやいてみると・・・
私見です。日本では上衣とスカートが繋がったものをワンピースと言いますが、英語ではワンピースドレスといいます。TPOによる使い分けはありますが、ドレスは女性の洋装で一番格式の高い装いです。ワンピース=ドレスと考えるとワンピースが一番フォーマル度が高いといえるのではないかと思います。
— なむ〜 (@GoToHeaven_) September 9, 2018
ヒントをありがとう、なむ~さん。
洋装の本場、欧米ではどうなのかちょっと深掘りしてみます。
ワンピースとは
前述の新ファッションビジネス基礎用語事典から
■ワンピース【one‐plece】ワンピース・ドレスの略称。ワンピースとは、トップとボトムの部分が、ひと続きになったものをいい、ドレスをその構造からワンピースとよぶようになった。
うん、やはりドレスのことを正式にはワンピース・ドレスというらしい。
かつてモウニングドレスだった
次にお葬式の装いの記述としては
■モウ二ング・ドレス【mourningdress】モウニングは「悲嘆、喪、服喪期間」の意で、喪服のこと。近親者が身内の喪をあらわすために一定の期間着用するドレスで、通常は光沢のない黒の無地でつくられる。別にモウニングコスチュームともいい、ディープ・モウニング(正式喪服、本喪服)、ハーフ・モウニング(略式喪服)といった形式がある。
が挙げられます。
英国のウィキペディアをのぞくと、確かにビィクトリア時代(19世紀後半)に女性が着ているようなので、この時代はドレスの一種であるモウニングドレスが葬儀の正装だったようです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mourning#/media/File:The_Hessian_children_with_their_grandmother,_Queen_Victoria.jpg
詳しくは恐らく↓この本に書かれていると思うのですが、英語で専門書のようです。 すいません、どなたか解読お願いします(^^;)
念のため申し上げておきますと男性のお葬式の正装のモーニングのつづりはmorning coatで、文字通り朝から昼にかけて着用するからこの名がついています。
名古屋で小倉トーストがついてくるモーニングといっしょ。
ちなみにmorning coatは米語で、英語の正式名称はmorning dressらしいです。
前述したmourning dressとつづりが似ているので混同しないようにお願いします。
現在はアフタヌーンドレス
そして現在は
■アフタヌーン・ドレス 【afternoondress】 午後のフォーマルな場に着用される服の総称.特にワンピース形式のドレッシーなドレスを指すことが多く、これは女性の婦人用の礼装として用いられる。基本的には帽子と共に着用され、結婚式の参列や公式行事などに向く。肌を露出したり、透けるような生地は避けるのが原則とされ、丈は少し長めのものが一般的。
このアフタヌーンドレスの一種として、黒などおとなしめの色とデザインのものを選んで、funeral dressとしてお葬式に着ていっているようです。
イギリスやアメリカのAmazonや、マナーサイトを「funeral attire」系ワードでのぞいてみましたが、日本人の感覚からすると確かに「ワンピース」じゃなくて「ドレス」っていう感じ。
海外サイトの葬儀の服装良い例悪い例
欧米のモデル女性のプロポーションが良すぎるせいでしょうか、日本人の感覚からはちょっとお葬式にしては自己主張しすぎのような気がしますが、あちらではOKなのでしょうね。
王室系の人々はまだ抑制が効いています。
葬儀の著名人の服装(海外サイト)
つまり日本で喪服として着られるワンピースは、先程の画像の通り装飾がなく化学繊維でできたつなぎのスカートといった風体なのですが、
一方であちらの(ワンピース)ドレスは、光沢も装飾もOKで、パーティー文化の背景を感じられるものです。
それで国際基準上(ワンピース)ドレスがフォーマルランキングの1位に来ているのです。
結論:ワンピースはフォーマルではない
というわけで私の仮説。
そもそも (ワンピース)ドレス>アンサンブルが正式な国際基準である。
それが日本に伝わった際、
本来 (ワンピース)ドレス>アンサンブル
とすべきところを 日本には(鹿鳴館の失敗以来)ドレス文化がないので、受け入れられる素地が無かった。
そこで「ドレス」という単語の方を省いてしまった結果
ワンピース>アンサンブル
という誤った解釈が日本のルールとして定着した
ということではないでしょうか。
これは男性の国際基準の略礼服がディレクターズスーツだったのに、それに相当するものが日本になかったので、独自の解釈で黒いスーツにしてしまったのと似ています。
(参考記事:日本人の葬儀の服装は間違っている? | 考える葬儀屋さんのブログ)
というわけで今後日本のお葬式で、ドレス文化が今さら根付くことはなさそうなので、
現実的な対応として女性のお葬式のフォーマル度は
アンサンブル>ツーピース>パンツスーツ>黒のワンピース
の順にすべきじゃないでしょうか。
日本で出回っている葬儀用の黒のワンピースはドレスなんかではなく、「ジャケットを脱いだだけのアンサンブル」にしか過ぎないのですから、最下位でしょう。
より詳しく総合的に女性のお葬式の装いに興味のある方は下記の記事をお読みください。
女性のお葬式の服装(喪服)について葬儀屋さんが解説します | 考える葬儀屋さんのブログ
追記
1970年発刊で当時ベストセラーになった
「お葬式の洋装では黒のアフタヌーンドレスが最もフォーマルである」という主旨の記述を見つけました。
つまり50年前頃までは洋装で最もフォーマルであるのは、ドレスという認識が日本でもあったわけです。
しかし文献によると(「衣と風俗の100年 生活学会」)、当時フォーマルと言えば和服が主流でしたので、アフタヌーンドレスを着ている人はほぼいなかったのではないでしょうか。
この直後から起こった和服→洋服の流れの中で
「ワンピースドレスとはワンピースのこと」
という誤った認識が広まったのだと考えられます。
流通している婦人用喪服にアンサンブルが多いことから疑問を持ち、こちらに辿り着きました。
洋装の正式なマナーから考えるのであれば、喪服の正解はワンピース>アンサンブルになりますね。
洋服文化のドレスコードにおいては、筆者の方もおっしゃる通り、ドレス>アンサンブルです。
ワンピースは和製英語で、英語ではこれもdressと呼ばれます。
なので、ドレス(ワンピース)>アンサンブルです。
洋装文化において、女性が短い丈のドレスの上にジャケットを着ることでフォーマル度が上がるという事はありません。むしろ逆です。
ジャケットを含む婦人服は、ビジネス・スマートカジュアル辺りで着るもので、フォーマルの場ではドレスを着ます。
ジャケットを脱いだら格が落ちるというお説には、男性服のマナーとの混合があるように思います。
日本では、冠婚どちらも、欧州のドレスコードとは異なる実態があります。
洋装本家のマナーに準拠しようとする人と、日本で現状広がっている実態に準拠しようとする人とでは、正解も変わって来ますね。
私は前者なので、日本の結婚式での参列者ボレロ文化も、日本のお葬式での婦人ジャケット文化も、あまりしっくり来なかったのです。
※上記はあくまで性別二元論のジェンダー規範の中での話なので、今後は変わっていく可能性が高いとも思います。
この記事が自分なりに考えをまとめるきっかけになりました。ありがとうございます。
N様、コメントありがとうございます。
>なので、ドレス(ワンピース)>アンサンブルです。
この点、日本の場合 ドレス≠ワンピース ではないでしょうか。
似て非なるもの、というか。
欧米のお葬式で着用されるアフタヌーンドレスに比べると、日本のワンピースは素材や作りがあまりにも貧相です。
(着用者の民族的体格差によってさらに貧相に見えます。)
アンサンブルのジャケットを脱いだだけ、と見分けがつきません。
(欧米の)ドレス>アンサンブル>(日本の)ワンピース
という序列がもっとも現実に近いのでは、と考えています。