生前葬が定着しない理由

5月17日の日経新聞夕刊に「生前葬」の記事が載っていました。

「葬儀分野に関する報道において、日経は読売、朝日に比べて弱いという印象です。」
と書きましたが今回の記事もハズし方具合が、やはり日経・・・という感じです。

記事の要約版がネット上にありました。
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日経新聞

さて生前葬とは生きている間に自分の(模擬)葬儀を行うことです。
シャレで遺影写真を飾ったり
友人が弔辞を読んだりすることが多いようです。

生前葬が定着すれば喜ばしいことですが
残念ながらそうはならないでしょう。

私は葬儀業界の「中の人」なのでまず商業ベースで考える癖がついています。
(利益至上主義ってことじゃなくて消費者のニーズはあるか、ってことです)
現在、生前葬を行う人というのはおそらく10万人に1人くらいではないでしょうか。
マスコミは珍しいから記事にするわけで
(例えば終活特集で必ず取り上げられる散骨は100人に1人くらいしかやっていない)
ニュースバリューはあるんでしょうけど、ニーズの喚起にはつながらないでしょう。
私が生前葬が定着しないと考える理由は3つ。

(1)費用
現在消費者が葬儀にかける費用は減少傾向にあります。

それにもかかわらず生前葬を行うとなると葬儀を二回やらなければならなくなります。
というのは生前葬を行った人が亡くなった場合でも、
遺族の気持ちとしては生前葬をやったからお葬式はやらなくてもいい、というわけにはいかないからです。
やっぱり正式にお坊さんを呼んで、となると出費がかさみます。

記事中には

ある葬儀社は「生前葬なら費用は自身で出し、子供に経済的な負担をかけなくて済む」と説明する
と書かれていますが、アホかと思います。
別に生前葬やらなくても
遺産として葬儀費用を残すなり葬儀費用信託サービスを利用すればいいだけの話だからです。

(2)度胸
終活ブームのおかげで自分自身の葬儀のことを考える人が大部増えてきました。
とはいえ話題に出すだけで嫌がる人もまだまだたくさんいます。(特に男性)
話題に出すだけでも嫌がるのに、模擬葬儀まで行うというのはなかなか険しい道のりです。

(3)許容度
あとは、周囲が「悪ノリ」をどこまで許容するかというのも問題でしょう。

以上の理由から
生前葬は定着しません。
 サイドカー

いま葬儀業界が生前葬をすすめるというのは
縮小している バイク産業が
これからはサイドカー、とすすめているようなものです。
極々一部の好事家の満足度は高いでしょうが
商業レベルから見た消費者のニーズは0の誤差の範囲です。

強いて言うなら葬儀というジャンルではなく
ホテルで行う誕生パーティーの余興の一つとしてならやっていけるかもしれません。

というわけで、今回の結論としては
もっとがんばれ、日経新聞!