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葬儀社の改造の仕方




2016年に出版されたビジネス系書籍ではマイベスト。
(書評書いているうちに年越しちゃいました。すいません。)

ザ・会社改造–340人からグローバル1万人企業へ[Kindle版]

三枝匡 日本経済新聞出版社 2016-09-09
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by ヨメレバ

 

<Amazonから>12年間にわたり仕掛けてきた数々の改革が、「事業モデル」の革新を引き起こした。それは、多くの日本企業が立ち後れた罠―欧米から押し寄せる「事業革新の新潮流」に対抗するための打ち手だった。いかにして失敗と成功に壁をよじ登り、「会社改造」と呼べるほど、組織を違う生きものに変身させていったか。上場企業の現役経営者が自ら書き下ろした改革のドラマ。

著者は事業再生のプロ。
もし著者のシリーズが未読でしたら一読をお勧めします、
って私が言わなくても御存じの方多いですよね。

今回の舞台は実在する資本集約型のグローバル企業で、労働集約型のドメスティック企業で構成されている葬儀業界とは異なるのですが、参考にできる箇所が多々ありました。

今回の著書で一番重要なのはこの部分。

経営者の優劣はフレームワークの有無で決まる。

経営リーダーが、混沌とした事象を単純化・構造化し、本質を突く「道具」、つまりフレームワークを持たないと、組織は疲弊し、限界に近づく。

経営者がフレームワークを持てというのはその通り。
この本ではPPMを使っていますが、
フレームワークは流行り廃りではなく使いこなすことが重要
と述べています。

私も同感です。

経営者も含めてスタッフ全員が、大きい問題を前に何をしていいやら、
というところが多いのではないでしょうか。

以前他社から天下ってきた上司で
「現場を知らない人間だからこそできることがある」が口癖の人がいました。
(10年以上そこそこの規模のある葬儀社にいた人なら、おなじ経験があるはず。)
しかしそれはガースナーみたいにフレームワークを含めたビジネスのセオリーを知っている人が言う言葉で
それを知らなきゃ経営も現場もただ何も知らない人じゃん、って思ってました。
今はもういません。

そういうわけで
今回は葬儀社でフレームワークを使う場合の概要をざっくり話してみます。

以下の話は業界で一番多そうな従業員10~30人前後の規模の葬儀社を対象にイメージしています。
(より詳しいことは他のビジネス書と併せて調べてみてください。たとえば入門書なら)

マーケティングの実践教科書 [実務入門]

池上 重輔 日本能率協会マネジメントセンター 2007-11-30
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葬儀社のマーケティングで使用するのは

PEST
3C
SWOT
4P

というベタなフレームワークで十分だと思います。

大切なのは(かつ難しいのは)最終的に
これらのフレームワークを使ったプロセスとそこから導き出された戦略とを
末端の従業員まで腹落ちした状態にすることです。
マネージャーがまとめた資料ができました、だけでは絶対と言っていいほど機能しません。
この「ザ・会社改造」の中でも情報伝達が組織の途中で止まるケースを挙げていますが、
ふつうは絶対末端までは届きません。

葬儀の現場の人はこういう「理屈」が苦手な人が多いです。
そのためにはどこかで聞いたことのあるベタな方法で、
全員参加でフレームワークを使って考えることは重要です。

では全員を集めた会議を開きましょう。
葬祭業で全員集めた会議は不可能?
いえ、大丈夫です。
その日は施行もしない、訃報が入っても断る、というルールにすればいいのです。

そんな無茶な、と思われるかもしれませんが、
そこまでやれば会社が本気であることが従業員に伝わります。
今日発生した損失以上の利益を将来生む、という気概がなければ行うべきではありません。
説明
大まかな進行としては
まず経営者の主旨説明
です。

本気であることを見せましょう。

その後経営者は退席してください。
これからフレームワークの各要素をブレインストーミング形式で書き出していくのですが
経営者がいてはまずうまくいきません。
特にSWOT分析のWTの項目で本音が出ることは不可能に近いです。

ブレインストーミングも
A自由に発言させて記録係が書いていく方式と
B付箋を回して全員に書かせて提出という方式がありますが
Bの方が良いでしょう。
なぜなら先輩の顔色をうかがう従業員が葬儀社の場合多いからです。
これでは活発な議論はできません。
Bなら発言機会が均等で、誰かの意見に左右されることがありません。

このときのファシリテーター(司会役)を誰にするか、という問題ですが
まわりに信頼されている内向的な中堅の人を当てることが多いです。
私がそうなのですが、(参考記事:内向型人間が葬儀屋に向いている3つの理由
左脳型内向的人間は
・そもそもブレインストーミング(思いついたことをしゃべる)が苦手
・自己主張しない(相手の意見を否定しない)ので
ファシリテーターとして使うのがベストです。

フレームワークの説明もファシリテーターがやるのがベストなんですが
能力が必要で、そんなに人材も豊富ではないと思いますので、
とにかく一番「説明がうまい人」が適任ですね。

外部からコンサルタント連れてきてファシリテーターやらせるという方法もあります。
確かにその方法は特別感が出て空気がャキッとするというメリットはあります。
当然フレームワークの説明もうまいです。

ただ葬祭業が特殊業務なので、項目の分割やグルーピングで間違った方向に行くことが多く
その場でコンサルタントだけが勘違いしている、という寒い状況になることは覚悟しておきましょう。
あと費用の問題。

さて使用するフレームワークですがこの「ザ・会社改造」で使われているPPMは止めといた方がいいです。

そもそもPPMに散らばらせるほど商品に多様性がある葬儀社は、
むしろ優秀で、これまでもいろいろな手を打っているはずです。

多分負け犬エリアに「直葬」「家族葬」と書いたまま凍り付くところがほとんどでは。

あとバリューチェーン もやってみれば分かりますが、
あんまり成果がでません。
おそらく外注部分が多いせいでしょう。

一番最初に行うとしたらPESTでしょう。
しかしファシリテーターに最後の落しどこが見えていない状態で使うことはおすすめしません。
多分、葬祭業が衰退産業であることが明らかになって、
その後のテンションがダダ下がりになります。

少子化でも伸びている学習塾があるように全く悲観的要素ではないのですが、
その空気感をあとの3CやSWOT分析でコントロールする技量がファシリテーターになければ、
結構大変です。

というわけで3Cからが本番ですね。
葬祭業は決まったパイを取り合う業態なので、
競合の部分はモレがないように特に念入りにやってください。

SWOTに関して
それぞれ意見は集めますが私はSを重要視します。
WTって結構どこも似たり寄ったりで、穴があっても即効性のある対策が立てづらいことが多いのではないでしょうか。
よほど致命的な抜けがないなら、強みに注力するべきでしょう。

それから4Pです。
4Pの場合セグメントを分けるケースが多いと思うのですが
葬祭業の場合、エリア決めてあと全員が対象、っていうパターンになりがちですよね。
強いて言えば、直葬は切り捨てるくらいかな。
でもそれも結構冒険ですよね。

正直なところおそらくプライスとプレイスは大きく差別化する要素はないんじゃないでしょうか。
プロダクトとプロモーションをどうするか、です。
私の経験では伸びしろと即効性の観点からプロモーションを重点的にやることをお勧めします。

たとえば・・・

ここから先は自分で勉強したり考えたりしてください。
そんな重要なことが無料ブログに書いているわけないだろ!
というのは冗談で
ここから先は個々の企業の環境や特性に拠る話だからです。

一つだけいえるのは4Pまでたどり着いたからといって
魔法のような方法が浮かんでくることはまずありません。
むしろ極めて当たり前の結論になることが多いです。
問題はそれをPDCAを行いながらどう継続できるかですね。
フレームワーク

最後に、
前回紹介した「ザ・会社改造」で自分が重要だと思った箇所の一部を以下に抜粋しておきます。
ご参考まで

改革や事業再生の成否は、事前にどれほど正確に思索と戦略の組み立てを重ねるか

まずは問題のボトムに潜む本質に迫り、問題の構図を「単純化」しなければならない。

短期間で「問題の本質」を発見できる人

それを幹部や社員に「シンプル」に説明できる人。

社員の意識を変えるために「意識改革をしよう」と叫ぶ経営者は、経営力が足りないのである。

 

事業戦略が生み出す「仕組みによる強さ」が必要

戦略とは、①「戦場・敵」の動きを、②「俯瞰」し、③自分の「強み弱み」から、④「勝負のカギ」と、⑤「選択肢」を見極め、⑥「リスクバランス」を図りつつ、⑦「絞りと集中」によって、⑧所定の「時間軸」内で勝ち戦を収めるための、⑨「ロジック」である。そして、⑩その戦略の「実行手順」を、⑪「長期シナリオ」として、⑫「組織内に示すもの」である。まだ実行していないことを描く戦略は常に「仮説」であり、その良し悪し(勝ち戦の可能性が高いか低いか)を判断する決め手は「論理(ロジック)の強さ」である

「戦略ストーリー」が肝要だ。競争相手は誰か。勝ち負けを決めている要素は何か。それに対して自社の強み・弱みは何か。

会社は2年で大きく変わることができるのだ。