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礼服・喪服のベント(切れ込み)は気にしなくていい




2018年3月13日に放送されたTBSの番組「この差って何ですか?」で誤ったお葬式のマナーが紹介されたので、指摘します。

過去の事例でも分かるとおり、テレビで紹介されるお葬式のマナーはよく間違っています。
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佐々木悦子(自称「葬儀のスペシャリスト」)ばっかりですが・・・

今回のTBSの番組「この差って何ですか?」には佐々木悦子は出ていませんが、間違った葬儀マナーの紹介が行われています。

切れ込み(ベント)の入った服はマナー違反ではない

以下番組のホームページから引用します。

〇仕事で着る黒いスーツでの参列はふさわしくない?
一般的なスーツには、背中に切れ込みが入っているためふさわしくない。
昔、西洋では剣を持って武装したり乗馬したりしていたため、ジャケットにはサイドやセンターに切れ込みがあった。お葬式は静かに個人(原文ママ)をしのぶ場所なので切れ込みのあるスーツはふさわしくなく、正式な喪服には切れ込みがない。

つまりお葬式に、ベント(切れ込み)の入った服を着ていってはいけないと言っているのです。

この解説はタキシードの仕様と混同した上、解釈を間違っています。

スーツの原型となるラウンジスーツが19世紀に登場した際、室内でおしゃべりする時に着用するものでした。
当然その際は体を動かすわけでもなく、なんの機能性も求められなかったため、切れ込み(ベント)が入っていないノーベントでした。

その後、馬に乗るためにセンターベント(背中の真ん中にある切れ込み)が作られ、剣を挿すためにサイドベンツ(両側にある切れ込み)が作られたと言われています。


ちなみにこのように中心に切れ込みが入っているのがセンターベント


両側にそれぞれ切れ込みが入っているのがサイドベンツです。

で、この切れ込みが全く入っていないのが、ノーベントです。

この番組で解説を行った冠婚葬祭マナーアドバイザーという肩書きの女性は「お葬式は武装する場所では無いから」ベントのあるスーツはお葬式にふさわしくないと言っていました。しかしこの理屈はヘンです。
これは剣を挿すためのサイドベンツがいけないことの説明にはなりますが、馬に乗るために作られたセンターベントがいけない説明になっていません。

礼装用の服、たとえばタキシードにはノーベント(切れ込みが入っていない)は確かに多いです。
しかしそれはベントがマナー上問題があるからではありません。
フォーマルな場では機能性を求められないので、あえてベントを付ける必要がないだけです。
よって葬儀にベントの入った服を着ていくことはマナー違反ではありません。

ちなみにもっとも洋装のマナーに厳格なイギリス王室の人達は、お葬式の時でも普通にベントの入った服を着ています。
「Prince Charles funeral」(チャールズ皇太子 葬儀)で画像検索してみてください。ベントの入った服で参列しているイギリス王室の画像がでてきます。

https://www.harpersbazaar.com/celebrity/latest/a10200940/prince-harry-princess-diana-funeral/
この画像では分かりづらいかもしれませんが、ダイアナ妃の葬儀の際、チャールズ皇太子とウィリアム王子はサイドベンツの上着を着ています。

現在の既製服の状況では、多少サイズがぴったりでなくても動きやすいという理由で、サイドベンツやノーベントの服の方が主流であり、ノーベントの服は少ないです。
テレビでこんなことを言われて、真に受けた人は困っているでしょう。
罪深いことだと思います。

革製品はマナー違反ではない

〇革製のバッグは黒くてもNG?
革製品は牛などの動物から作られており、殺生の意味合いがあるために仏式の葬儀にはふさわしくない。本来ならば布製品がよく、難しいならば合皮製品を使用する。同じく、靴やベルトも合皮製品にすることがふさわしい。

これも一部のインチキマナー研究家?が良く言っていますが、間違いです。
そもそも現代ではお葬式の食事に、肉や魚がでてきます。
服装に関してだけ殺生がどうこう言うのはバランスを欠いています。
大の大人が布やら合皮でできた安っぽい靴や鞄を身に付けるというような恥ずかしいまねはしないでください。
遺族に対して礼節を欠いています。

遺族に先に挨拶するのはマナー違反ではない

〇お焼香ではまず故人に弔意を表す。
お焼香の際は、まず故人に手を合わせ、弔意を表す。ご遺族へのお辞儀は、そのあとでよい。まずご遺族にお辞儀をしなくてはいけないという決まりはない。

たしかにこの説は一理あるのですが、
焼香に向かう際、遺族が遺影や焼香台より自分に近い位置に座っている場合は、故人より先にコンタクトするという意味で、遺族に先に挨拶せざるを得ないと思います。
ちなみこの解説しているのは、お坊さんでした。

ちょっと待って。
そもそも仏教に故人を拝む概念はないですよね?
仏教ではお葬式の時拝んでいるのは本尊(仏像や、経文を書いた掛け軸)であって、故人を拝むのはそもそも儒教の概念ですよね。
日本の仏教葬には神道と儒教の概念が混ざっているとはいえ、仏教を正しく修めているはずのお坊さんがテレビでこういうこと言うのはどうなんでしょうか?

このあたりのことを詳しく知りたい方はこちら↓

テレビ、特にバラエティ番組は正確性よりも、面白さを追求します。
そのためありもしない、それゆえ意外性があると感じる話をでっちあげようとします。
みなさんはこのような誤った情報を真に受けないようにしてください。











7 件のコメント

  • 「この差って何ですか? 葬儀マナー」で検索してこのブログにたどり着きました。この記事は昨年のもののようですが、今年(2019)の2/26にも同じような内容でまた放送したようですね。ベントの入っているスーツはマナー違反、革製品は身につけてはいけない、お札は折り目を付けて向きには気をつけろといった内容のようです。

  • >大の大人が布やら合皮でできた安っぽい靴や鞄を身に付けるというような恥ずかしいまねはしないでください。
    遺族に対して礼節を欠いています。

    女性ですが、合皮や布製カバンは安っぽいから礼儀を欠いてダメ?に疑問です。
    初めてそういった意見を目にして驚いております。

    ブログ主様は靴に並々ならぬ情熱があるので合皮など恥ずかしいと鼻で笑うのでしょうが、それをいったら女性の喪服は100%ポリエステルがほとんどではありませんか。
    一番目立つ喪服本体がポリでもOKで、カバン靴は牛革じゃないと礼儀が無いというのはバランスがおかしくないですか?
    ブログ主様の理論であれば「ポリエステルの喪服なんて安っぽい素材は遺族に失礼だ!」と言えるのではありませんか。
    喪服は良くて靴カバンはダメという理由は、何でしょうか?

    現在、葬祭関係の小物として売られている布製・合皮カバンはそれなりの見た目、体裁をしているので、私はそれらを持っている方を礼儀知らずだと思ったことはございませんでした。
    ロッカーに預けられずどうしても荷物を手持ちで移動しなければならない場合など、牛皮の硬くそれほど入らないバッグよりも布製カバンの大きめな容量によく助けられています。
    また足のサイズが幅広のため、牛革の既製品が合わず、合皮で済ませています。
    これも合皮は礼儀がなってないと仰るなら、オーダーメイドで誂えるしかありませんが、それだと悪くすると喪服本体より金額がかかりませんか?

    これがジュエリーでしたら、ユニクロに最高級ノンオイルコロンビア産エメラルドを合わせてもお洒落に決まるのでわかるのですが、フォーマルシーンのトータルコーディネートにおいても小物さえ高級素材ならOKというのが、日本の常識なのでしょうか?

    • mana 様
      コメントありがとうございます。

      大まかな私の意見としては
      ・このページを併せてお読みください。https://kangaerusougiyasan.com/archives/%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E3%81%8A%E8%91%AC%E5%BC%8F%E3%81%AE%E6%9C%8D%E8%A3%85%EF%BC%88%E5%96%AA%E6%9C%8D%EF%BC%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E8%91%AC%E5%84%80%E5%B1%8B%E3%81%95%E3%82%93.html
      ・引用いただいた私の意見は、マナー講師の「殺生はダメなので」を理由にしたロジックに対してなされています。mana 様はこのロジックをどうお考えになりますか。

      あと付け加えてお答えしますと

      >鼻で笑うのでしょうが
      いえ、笑いません。

      >喪服本体より金額がかかりませんか?
      かかりますね。
      服飾評論家の落合正勝氏はスーツよりも靴にお金をかけろとおっしゃっていました。私も概ねそうしています。
      それから本当に合皮の靴しかmana 様に合わないのなら、それを履かざるをえないのではないでしょうか。

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