芥川賞受賞作「死んでいない者」(滝口 悠生)を葬儀屋さんが読む




先日芥川賞を受賞した「死んでいない者」(滝口 悠生)を読んだ。

死んでいない者

滝口 悠生 文藝春秋 2016-01-28
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<アマゾンの内容紹介から>
第154回芥川賞受賞作!
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。
子ども、孫、ひ孫まで。
一人ひとりが死に思いをめぐらせ、あるいは不在の人を思い、
ゆるやかに互いを思う連帯の中で、それぞれの記憶と時間が広がってゆく。
20人あまりの生の断片から永遠の時間が立ち上がる一晩の記録。

人が死のことをもっとも「考える」時はいつだろう。

だれか大切な人が亡くなりそうな時、もしくは自分が死にそうな時、
をまず思い浮かべる。

しかし受け止めなければいけないものがあまりにも大きいとその状況に飲み込まれてしまう。
そしてただ祈るだけ、もしくは死からできるだけ逃げようとする本能的な衝動だけがあり、
意外と「考える」ことからほど遠いことが多い。

そうなると誰かの通夜~葬儀の間が
もっとも感情と理性のバランスを保って死のことを考えられる時間である、
と私は思う。

この「死んでいない者」を読む前、あらすじを聞いたときは
ずいぶんまっすぐに勝負するんだな、というのが感想。
宗教も哲学も文学も死を最重要テーマとして扱ってきた。
今あえて小説の舞台にお葬式という死と向き合う場所を選ぶのは
小説家にとって大変リスキーだ。
まっすぐ過ぎるけど大丈夫なのか?

それが気になってキンドルで予約を入れて
発売日にさっそく読了。

読んでいる最中ずっと考えていたのは
以前私がこのブログに書いた
通夜に考えること
という記事のこと。

あの記事で書いたことと「死んでいない者」のテーマはちょっと似ている。
似ているのだけれど
小説家の圧倒的な観察力と表現力で一本の小説になると
こういうふうに昇華されるんだな、という感じ。

通夜の空気感をうまく表している良作だと思う。

滝口氏が描こうとしたのは多分死そのものではない。
描こうとしたのは恐らく「消えていく」こと。

決してネガティブな意味だけでなく。

つながりをきっかけに紡ぎ出された思いや記憶や言葉が
どんどん生まれて流れて消えていく。
もちろんそれを生み出す人と人のつながりもいつかは・・・

読んでいて登場人物(それもほとんどが親族)が多いので
人物関係がわかりにくいという人もいるかもしれない。
しかしそれも文章の主体がいつの間にか入れ替わって、時系列も前後して
「とめどなくふわふわしたことを考える」
という文体であるということを考慮すると
あえて分かりづらいままにしているのかもしれない。

今後高齢化や葬儀の簡素化が進むと
そのうちこういったお通夜の風景も無くなってくるだろう。
この小説の舞台が埼玉の外れであるため、通夜の風景はまだ賑やかだ。
人のつながりが薄くなってきている昨今だからこそ
この物語の通夜の時間は人のつながりをあぶり出す。

読み終える前は葬儀後の拾骨あたりで物語が終わるのかと思ったが
描かれるのは通夜後から深夜に遺族が帰るまでの数時間。

拾骨までではなく通夜までの描写である理由は以下の通り(だと思う)

通夜はお酒がふるまわれるからみんな酔っぱらっている。
(葬儀後の会食時間にもお酒が振る舞われるが、
通夜後の方がよりインフォーマルな場でありかつ夜なので酔っぱらい度が高い)
そのため登場人物にふわふわした言葉を吐かせやすい。

次に葬儀当日の火葬もしくは拾骨は一つの人生の終わりを意味するが
通夜はまだその途中であるため、「終わりの途中」の不安定感を醸し出せる。
通夜ではまだ完結はしていない。
完結しないというのはつまり永遠を意味する。

こんな理由で作者は通夜の時間だけを切り取ったのではないだろうか。
死んでいない者
不満な点は一つだけ。
通夜が終わった深夜、ラスト近くで子供達が道に迷って「川」にたどりつく。
そして一人が水の中に寝そべる、という描写は楽な方に行ったかな。
何の隠喩であるかが分かり易すぎる。

あと葬儀屋さん視点での感想を付け足すと
同じ芥川賞受賞作の「中陰の花」では仏教が中心軸として機能していたが
この小説では通夜が舞台なのに仏教はほとんど機能していない。
僧侶は迎えの車の運転手に「車で迎えに行くような距離かよ。歩けよ。」と悪態をつかれる存在。
三途の川や寺の鐘や線香が隠喩として機能はしているものの
葬式仏教のロジックは機能していない。
同様に通夜後なのに葬儀屋が全く登場しない。
それがちょっと個人的に寂しい。

中陰の花 (文春文庫)

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以上
「死んでいない者」
通夜のあの空気感が好きな人、
通夜のあの空気を味わったことのない人にお勧めです。
(おそらく前回受賞作 の反動で
今回は地味な扱いになってしまうと思うので、推しときます(^^;))











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