最近話を聞かないなぁ、と思っていたら、イオングループが運営する葬儀屋さんの紹介業、「イオンのお葬式」が業績悪化でヤバいことになっているという話です。
目次
イオンのお葬式とは
「イオンのお葬式」とは、イオングループの1社であるイオンライフ株式会社が運営する葬儀社紹介業です。
「イオンのお葬式」という看板をかかげていますが、実体は葬儀社を探している顧客をイオンのブランド力で集客し、契約先の葬儀社に紹介し、紹介手数料を得るというビジネスモデルです。
実際お葬式をおこなっているのは、イオンライフではなく、依頼を受けた地元の葬儀屋さんです。
イオンのお葬式の歴史
ではこれまでの、イオンのお葬式の経緯をふりかえっておきましょう。
【2009年】
イオンリテール株式会社の一事業として「イオンのお葬式」がスタートしました。
契約先の葬儀社を紹介して、紹介手数料をもらうというビジネスモデルです。
【2010年】
ホームページ上に「お布施の金額」を掲載したことで、日本仏教界から叱られます。
しかし世間では、御布施の金額をはっきり言わない仏教界が悪いという意見が噴出する結果に。個人的には、問題提起として良いことをしたという印象です。ただお坊さんの協力が得られないとお葬式はできませんから、仏教界と事を構えることは避けて、掲載はとりやめられました。
(参考記事:お布施のHPでの目安提示をイオンが取りやめた理由 | inside Enterprise | ダイヤモンド・オンライン)
【2012年】
ペット葬儀に参入
【2013年】
お墓部門にも参入
↓この記事でうまくいかないだろう、と予測しましたがうまくいっていないようです。
要約すると
・自由競争がなく、寺院とパイプがない
・品質の優位性がない
のが理由です。
【2014年】
事業が軌道にのると判断したらしく、新会社イオンライフ株式会社を設立して葬儀事業を継承します。
【2019年】
2017年12月に掲載した新聞広告で景品表示法違反を犯し、消費者庁から措置命令を受けます。
この責任をとって、事業を立ちあげた広原章隆氏が代表取締役から外されて、ジャスコ→イオン戦略部だった島田諭氏に交代。
くわしくは↓こちらの記事に書きましたが、広告に追加費用を不要と書いていたのに、実際は下請け葬儀社の4割が追加費用を発生させていたことが優良誤認と判断されました。
実際葬儀業界では、イオンのお葬式をふくめ、葬儀屋紹介業者が良くないことをやっているというのは公然の秘密でした。
そもそも構造的に、葬儀屋紹介業者から仕事を受ける葬儀屋さんというのは、仕事がうまくいっていない葬儀屋がほとんどなのです。
うまく仕事が入ってきていれば、高い紹介手数料(15%くらいと言われています)を払ってまで、葬儀屋紹介業者から仕事をもらう必要はないのですから。
正社員を遊ばせるわけにはいかなので、というところも多いでしょう。
うまくいっていない葬儀屋は、葬儀屋紹介業者の指定するプランではほとんど利益がでないため、遺族にオプション(追加商品)を強引に売りつけてそこで儲けを出そうとします。
葬儀屋紹介業者もそれを知っていたはずですが、他社が黙認している以上、自分のところだけが止めさせるわけにいかないのです。
なぜなら、葬儀屋紹介業者から仕事をもらう葬儀屋というのは、複数の葬儀屋紹介業者と契約をしているので、うるさいことを言わない葬儀屋紹介業者の仕事を優先的に受けるようになってしまうからです。
そんな不健全な状態だったところに、一罰百戒を目的として、知名度のあるイオンが消費者庁に目を付けられたということなのでしょう。
2021年
おそらく事業不振のテコ入れと思われますが、島田諭氏が代表取締役から外されて、イオン銀行のマーケティング部長だった中村敏之氏が代表取締役に就任。
イオンのお葬式の良いところ
実は、イオンのお葬式が、他の葬儀屋紹介業者と比べて優れているところは、特にありません。
先ほど述べたように、葬儀屋紹介業者から仕事をもらう葬儀屋というのは、複数の葬儀屋紹介業者と契約をしています。そのため遺族がどの葬儀屋紹介業者に葬儀を依頼しても、そのエリアで紹介される葬儀屋は同じ葬儀屋なのです。つまりどの葬儀社紹介機関に依頼しても、お葬式のクオリティは変わりません。
つまり、イオンのブランドが知られているということ以外、特に強みはありません。
ここからは、世の中では良いと思われているのに実はそうでもないところを解説していきます。
イオンの商品をつかうことで、流通コストを抑えている
↓この記事でとりあげたようにテレビ番組で「イオンのお葬式はイオンの商品をつかうことで、流通コストを抑えている」と言っていました。
どうやら、祭壇に飾る果物や線香はイオンの品物を使うことで、コストダウンをはかっているらしいのですが・・・
いや、その金額ってたかがしれていますし、そもそも他の葬儀社紹介機関のプランと総額を比較しても、全然安くないです。
仮にコストカットした分があったとしても、消費者の利益ではなく、イオンの利益になっているのでしょう。
自社基準にのっとった優秀な葬儀社を選んでいる
かつて、「紹介先の葬儀社は自社基準にのっとった優秀な葬儀社を選んでいる」と言っていました。
しかし立ち上げのときに声をかけられたから知っているのですが、その時は自社基準などというものはなく、紹介手数料とイオンの返礼品を使う条件を飲めるかどうかで、選んでいました。
自社基準、なんてことを言い出したのは、スタートしてから1年ほどしてからだったと記憶しています。
葬儀サービス品質基準 | 葬儀・家族葬なら【イオンのお葬式】
それも具体的にどういう内容なのかは、公開されていません。
↓この記事の追記で、イオンの紹介先だった葬儀社(千葉の「セクト」など)が、僧侶からのリベートをもらっており、それを申告せず、所得隠しをしていたことに言及しています。その程度のレベルの葬儀社ということです。
紹介葬儀社の研修を行っている
イオンライフは、紹介先の葬儀社を集めて研修を行っているということを、アピールポイントの一つとしてあげています。
イオンライフの社員自身はお葬式のノウハウなど持っていないので、研修講師は外注です。
講師の方は私も存じ上げていますし、優秀ではありますが、スタッフの一部に数時間講習を受けさせたところで、その葬儀社のクオリティが変わるなんてことはありません。
自分は長い間社員教育を担当しているのでそのあたりの限界は、心得ています。
↓イオンの研修について書いた記事。有料研修を受けると送客が多くなるというコメントがあって、さもありなんと思った記憶が。
イオンカードが使えます
まったく良いところがないというのも、あんまりなので、葬儀費用の支払いにイオンカードが使えることを挙げておきます。
あとイオンの株主には割引があるそうです。どのくらいかは公開されていません。
イオンのお葬式の悪いところ
中身は他の葬儀屋紹介業者といっしょなのに、ブランド力で信用できると思わせているのが、タチが悪いです。
背に腹はかえられないということでしょうか。
悪化する業績
実はイオンのお葬式、かなり業績が悪化しています。
イオンライフの財務状況は、イオンのIR情報にはのっておらず
官報のページからイオンの業績を調べてみました。
なぜか2019年~2020年のデータが存在しなかったのですが、最近のバランスシートを見ることができます。
毎年1億円違い赤字を垂れ流し、コロナ後も黒字化できず、資産が1億円ちょっとしかないのに、2024年現在、4億6千万円を超える債務超過になっています。
100%以上が理想と言われる流動比率は22%しかありません。
イオンのお葬式がダメになった理由
いくら親会社に潤沢な資金があるといっても、この赤字状態を続けることは許されないでしょう。
深刻な問題は、この財務状況が悪化することはあれ、良くなる可能性がないことです。
なぜなら、葬儀社紹介機関がいくつかあるうち、イオンには有利な材料は無く、悪い材料しかないからです。
葬儀社紹介機関はインターネットが主戦場です。
↑この記事で書いたように、葬儀の実働部隊をもっているとか、寺との太いパイプがあるというような参入障壁をもたない葬儀社紹介機関の場合、
インターネットでは、理論上、葬儀費用はこれより下げられないというところまで、下げないといけません。
いわゆるレッドオーシャンです。
先に述べたように、葬儀社のクオリティが変わらないのであれば、顧客に選ばれるためには、他よりも安いと勘違いされるような、ウソをつかなければなりません。
必要な費用が事前見積もりに入っていない、
火葬だけにもかかわらずお葬式であるかのような誤った解説をする、
ということが横行しています。
葬儀業界は監督官庁が存在しないので、広告はやりたい放題の状態です。
イオンライフも最初は、ヤバい広告を打っていたのですが、先ほど述べたように消費者庁から是正勧告を受け、罰金を取られてしまいました。
イオンという日本有数の優良企業にとってはイメージダウンの大問題であり、イオンライフの創業社長は更迭されるという事態に。
つまりこれ以降、他社がサギまがいの広告を打つ中、イオンライフだけ、フェアで正直な広告を打たざるをえない状況になったということです。これで広告の訴求力は他社より弱くなります。
是正勧告報道によるイメージダウンも影響し、イオンのブランド力も効かないまま、どんどん業績が悪化しているのではないか、というのが私の見立てです。
終活市場が爆発的に好転することはないので、明らかに自力再建が不可能な状態で、普通の会社なら確実に潰れているところです。しかし親会社が2,000億円を越える営業利益をたたき出す、あのイオンなので、なんとか存在を許されている状態です。
とはいえ、コスト意識の高い親会社が、出来の悪い泡沫子会社を救済するとは思えません。
2002年に子会社の婦人衣料専門店のリズ・ジャパン株式会社とガーデニング専門店のサンサンランド株式会社の2社を清算したこともあります。
同業他社に売却するというのが落としどころではないでしょうか。
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