葬儀業界優良企業ティアの採用の秘密を考える

葬儀業界でも新卒採用活動の季節がまた巡ってこようとしています。

早いところはもう12月から会社説明会を始めています。
採用活動に熱心なところが意外とブラックだったりするのが、葬儀業界の難しいところですが。

さて葬儀業界の新卒採用で現在最も勢いがあるのは、名古屋で創業した東証一部上場の葬儀社、ティアさんでしょう。

今回はティアさんの採用活動を取り上げつつ、他の葬儀社の採用にも活かせるヒントがないか考えてみます。

ティアさんの新卒採用の現状

近年、ティアさんは企業規模を順調にどんどん拡大しています。

それに伴い、新卒の採用も当然のことながら増やしています
リクナビのページによるとこの10年の採用者は以下の通りです

17名(2018年4月実績)
11名(2017年4月実績)
5名(2016年4月実績)
28名(2015年4月実績)
22名(2014年4月実績)
8名(2013年4月実績)
9名(2012年4月実績)
9名(2011年4月実績)
11名(2010年4月実績)
18名(2009年4月実績)

2019年は31名を採用、来期2020年は社長のインタビューによると40名の採用を目指しているそうです。

なぜここまで大量採用が可能なのでしょうか。

そもそもマイナビやリクナビに掲載しても、会社説明会に30人すら来ないという葬儀社が多いはずです。

葬儀業界が採用に苦戦している事情はこちらの記事をお読みください。(参考記事:葬儀業界の終わり|考える葬儀屋さんのブログ

こんな状況で30人~40人も採用できるというのは素晴らしいとしかいいようがありません。

ティアさんの新卒採用が好調な理由

大量採用ができる理由を3点ほど考えてみました

1つ目は、創業者であり社長である冨安氏の魅力です。

葬儀業界の経営者としては、講演を行ったり本を出版したり最も情報を発信しています。
新卒者を惹きつける人間的魅力があると思います。

2つ目は、名古屋という土地柄、他のエリアと比較して冠婚葬祭業の地位が高いのではないでしょうか。

あくまで私個人のイメージで恐縮なのですが、他の都市部に比べて名古屋は、冠婚葬祭を派手に行うというイメージがあります。
そのため他の都市と比べると、葬祭業はまだ有望な産業なのではないでしょうか。

3つめは、愛知県内の東証一部上場企業という切り口で探し始めると、ディアさんにたどりつくから、ではないでしょうか。

葬祭業の採用担当者の大きな悩みは、そもそも学生が葬祭業という就職先が存在することを知らない、ということです。

愛知県に本社のある東証一部上場企業は90社程しかありません。ティアさんはその中の一社です。
地元の愛知県の上場企業に行きたいという切り口で検索をかけた学生さんが受けてみた、という流れができているのではないでしょうか。

ちなみに、このロジックでいうと、福島県のJASDAQ上場の冠婚葬祭企業、こころネットさんも人気があるのではと仮説を立てて調べてみました。
こころネットグループの採用情報(初任給/従業員/福利厚生)|リクナビ2020
採用はコンスタントに10名前後で、東北大、上智が含まれているところを見ると、この考察は合っているように思います。

落とし穴はないのか

さてこのように堅調に拡大を続けるティアさんですが、採用に関して落とし穴(懸念事項)がないか考えてみます。

急拡大による質の低下は起きないのか

社会人デビューした新人を、ほぼすべてのタイプのお葬式が担当できるように育てるまで大体3年はかかります。
IR情報によると社員数‎480人(2019年3月末現在)とのことですので、2020年に40名を採用すると、組織の構成比のほぼ2割弱が3年未満の新人ということになります。

冨安氏のインタビューによると社員教育のために葬儀業界初の人材教育センターを設立したようですが
(ちなみに葬儀業界初というのは嘘です。冨安氏は歴史修正主義者のところがあるので(笑))
それでも育成が追いつかないでしょう。

ただ私はそれほどティアさんのクオリティは落ちないと考えています。

あくまで推測ですが早い段階からフランチャイズを投入するなどスタッフのクオリティを求道的にゴリゴリ追求するという戦略ではなかったように思います。もちろんクレームが出るようなレベルではいけませんが、ある一定のクオリティが担保できるなら後は水平展開で人数を増やしていくというのがティアさんの戦略だと考えています。

(参考記事:「一橋MBAケースブック【戦略転換編】」の葬儀社ティアの分析のおかしなところを指摘してみた|考える葬儀屋さんのブログ

そう考えると急拡大による質の低下は限定的と見るべきでしょう。

採用の男女比率がいびつ

ティアさんのリクナビのページを見ると男性の採用者が圧倒的に多いです。

過去3年間の男女別新卒採用者数
年度男性女性
2017年度7人4人
2016年度4人0人
2015年度25人3人
3年以内男性採用割合:83.7%
3年以内女性採用割合:16.3%

葬儀会社の採用担当者なら理解できると思うのですが、会社説明会に来る応募者の男女比率は女性の方が多いです。
好景気で人手不足のため、今は中堅以上の大学生であればそれなりにみんなが知っている有名な企業に就職できるようになりました。男は基本的にバカなので(笑)みんなが「そこ知ってる。わーすごい」という企業に入りたがる傾向があります。だから葬祭業に来ない。一方女性は現実的で将来のことを考えている、つまり頭がいいので、そんな風潮には惑わされません。そのため女性の応募者が必然的に多くなります。

しかし葬儀業界は男性を欲しがります。
原因はこの記事でも述べましたが(葬儀業界が女性より男性を採用する理由|考える葬儀屋さんのブログ)
葬祭業は長時間不規則労働です。そういった職場では男性は夜勤や肉体労働現場などいろいろツブシが効くからです。

ティアさんもおそらく例外ではないでしょう。

これはあくまで私の想像ですが、取扱件数が右肩上がりゆえに、当然夜勤もできる男性を優先的に取っているという構造なのではないでしょうか。

管理職の女性比率もこんな感じ。

役員・管理職の女性比率
項目女性
役員7.6%
管理職5.0%
(2017年4月1日時点)

そのため男性は比較的楽に採用してもらえますが、女性はかなり高倍率の狭き門になっているはずです

もし私の予想が正しいとすると(背に腹は変えられないという気持ちはわかりますし、誰を採用するかは企業の自由ですが)東証一部企業としては健全とは言えないでしょう。女性採用が重要という世の中の流れを汲んでマイナビ・リクナビが女性比率を掲載する時代なのですから。

 

葬儀会社のKFS(KeySuccessFactor事業成功の要因)は2010年までは「葬儀会館」でした。
ティアさんはこの会館戦略を葬儀業界で一番うまくやってきました。

現在の葬儀会社のKFSは、「女性社員の活用」だと私は考えています。
葬儀件数の増加と労働人口の減少を考えるなら労働人口の葬祭業従事者比率は上げていかなければいけません。
そのためには人口の半分を占める女性がちゃんと働ける環境でなくてはいけないはずです。

それができないと、いずれ行き詰まってしまうでしょう。

とはいえ、聡明な冨安社長なら次のステップが女性の活用であることは当然理解していることだと思います。

 

以上は私の想像ですが、いかがでしょうか?
もしティアの中の方が読まれているなら、ご意見を伺いたいです。

また葬儀業界全体としても、ティアさんの戦略から学ぶところは大きいはずです。




2件のコメント

「社員にとっての社長の息子は、会社の存亡に係る」というのは葬儀社に関わらずあるものですね。社員教育と子供の教育は必ずしも同義にならないということですね。(勝手に深読みしてしまいました。)

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