(追記:先方が謝罪とともにツィートを消されたので、初見の読者のために補足です。震災の際、遺体を葬儀屋さんが談笑しながら掘り起こしていたらしいというツィートをされたことに、私が異議を唱えた顛末です。文中でも述べられているとおり、掘り起こしは過酷だったので談笑によって精神を安定させていた、という文脈で述べられていました。)
先日twitter上でファイティングポーズをとる事態があった。
「~という」などという出典のあいまいなデマで、当時不眠不休でがんばった現地の葬儀屋さんを侮辱しないでいただきたい。立ち入らせなかったのなら談笑してたことなんて分かりようがないはず。 https://t.co/bur3dapEuZ
— 考える葬儀屋さん (@kangaerusougiya) November 16, 2019
相手は教会の牧師の方である。
ファイティングポーズを取った理由
ファイティングポーズを取ったのは理由がある。
故人を前にして談笑するという行為が、葬儀屋さんのモラル上あり得ないから。
災害現場が非常に精神的ストレスがたまる現場だというのは想像に難くない。しかし故人を前に談笑するという不謹慎な振る舞いで精神的ダメージから身を護るというのは、にわかに信じがたい。
たしかに笑いと悲しみは同時に成立する、という主旨のことを震災直後のラジオで伊集院光氏が言っていた。笑いのプロの矜持ある発言で、その通りだと思う。
でもこのケースは明らかに違う。
故人や遺族に対して侮辱的な行為だ。
当たり前だが遺族を前にして葬儀屋さん同士で談笑することはない。一方で遺族のいないところで故人を前にして談笑できるということは、故人を魂のないモノだと考えていることに他ならない。もちろんそういう思想を持つ人がいてもいいが、そういう人は葬儀屋をやるべきではない。
(参考記事:故人に対する態度の見抜き方 | 考える葬儀屋さんのブログ)
私のtwitter上の物言いがキツくなってしまったのは、自己分析すると、以下の理由によるものである。
かつて(1990年代まで)は、故人の前で不謹慎な話題で談笑するクズみたいな葬儀屋が確かにまだ多く生息していた。
2000年以降ずっと葬儀屋さんをやってきた人ならわかると思うが、自分達はそういう連中と戦って駆逐してきたというささやかな自負がある。
だから、女性の地位向上に尽力してきたという自負のあるフェミニストがマチズモな発言に対して感情的に過剰反応するのと、同じことをやってしまったのだと思う。
そして私は、この過酷な業務を担当された仙台の葬儀社清月記さんのがんばりと誠実さを知っていた。
「日本でいちばん大切にしたい会社3」で葬儀社が紹介されています | 考える葬儀屋さんのブログ
彼ら彼女らがそんなことをするはずがない、侮辱されていると思ったのだ。
おまけにこの沼田氏のツィートは6,000件以上リツィートされ、16,000件以上のいいね!がついている。
このままでは、葬儀屋はそんなやつらという認識が世間に広まってしまう。
だからそんな葬儀屋が実在したのか、清月記の方に確認しようと思っていた。
そしたら沼田氏から驚きのツィートが。
葬儀業者の方ですね。いつも貴いお働き、ありがとうございます。わたしは葬儀社の方々への深い敬意を抱いております。ツイート内容の典拠は金菱清『呼び覚まされる震災の霊性学 3・11死と生のはざまで』掲載の小田島武道氏による、石巻市の葬儀社「清月記」への聴きとり調査です。 https://t.co/w3Fy8XIj14
— 沼田 和也 (@numatakazuya) November 16, 2019
当の清月記さんが談笑しながら故人を掘り起こしている?
何かの間違いではないかと思った。
私は災害現場で活動したことはないが、災害現場を経験した知り合いの葬儀屋さんからはいろいろ話は聞いている。
(参考記事:被災地でがんばっている葬儀屋さんへ | 考える葬儀屋さんのブログ)
いくらなんでも談笑はないんじゃないか。
それとも、かつて誰も経験しなかった掘り起こしという異常な状態ではそんなことが起こりえてしまうのだろうか・・・
葬儀屋さんは故人の前で談笑しない
出典を教えていただいたので、早速Kindleを購入する。
本来なら全部を読み通して、さらに震災における清月記の活動について描かれた他の書籍も併読すべきなのだろうが、取り急ぎ該当する第6章を読んだ。
結論から言うと、清月記のスタッフは「談笑しながら掘り起こし」ていない。
以下は書籍からの抜粋である。
ご遺体を掘り起こすなかで大切だったのは〝笑い〟だったと、西村さんは言う。不謹慎に思われるかもしれないが、感情を管理する上で笑いは重要である。チームの雰囲気づくりを大事にするため、休憩時間や移動時にはコミュニケーションに気を配り、あえて業務からかけ離れた感情を形成し、共有すること。働く時は業務に徹し、休憩時間は他愛もなく笑いあい、お互いの感情をケアする。
笑いによって精神的ダメージを軽減させていたが、それは休憩中である。ちゃんとONとOFFの区別はつけている。
そりゃ遺族も故人もいないところでは、我々葬儀屋さんも談笑する。四六時中沈痛な表情をしているわけではない。精神のバランスをとるために、事務所では私も談笑する。
また遺族に非公開にしたのは談笑するためではなく、腐敗した遺体や処置を見せるわけにはいかなかったからだろう。
だから遺族がやってきた場合には掘り起こしをいったん中断している。
清月記さんのスタッフはやはり誠実であったのだと安心した。
謝意
沼田氏の一連のツィートを御読みいただければ分かるように、葬儀社スタッフに対して深い敬意をお持ちである。
今回のツィートに当然悪意はなく、単なる思い違いであろう。
最後に
たくさんリツィートされているなかで、批判的な私のツィートに対してわざわざ誠実なツィートを返していただいたことと
今回関連書籍に触れる機会を与えていただいて、新しい知識を得ることができたことに対し
沼田氏に謝意を表したい。
(追記)
その後の一連のツィッターでのやりとりを貼付けました。
また当事者の葬儀社の方からコメントをちょうだいしました。
併せてコメント欄も是非お読みいただければと思います。
こちらこそありがとうございました。わたしの当該ツイートは、明らかに誤りであり、葬儀社の皆さまへの侮辱にもなりかねないため、ただちに削除いたしました。心からお詫び申し上げます。
— 沼田 和也 (@numatakazuya) November 18, 2019
ありがとうございます。
Twitterで批判されていた事もこのブログを拝見して初めて知りました。
いつも温厚な?考える葬儀屋さんに、ファインティングポーズをとらせてしまってすみません。
この論文を書いた方は、仕事における「感情管理」についてとても熱心に聞き取り調査をされていました。
掘り起こしについては色々な取材を受けましたが、これから社会に出る学生さんという事もありましたし、我々葬儀社の仕事内容にも興味を持って頂いていたので、「誤解されるかな・・」というリスクもありながら、当時の状況を率直にお話しました。
この学生さん、当時、論文を書くにあたって我々の業務にも三日間、研修生として同行したり、私だけではなく他のメンバーにも取材を試みたり、熱量が変態的に高かったのを覚えています。そんなに興味があるならいっそ就職すればいいんじゃないかと誘いましたが、残念ながら我々の業界には入ってきませんでした。今も時折メールのやり取りをしています。
さて、ご推察の通り、談笑していたのは休憩時間やバスでの移動時間です。とは言え、もし、ご遺族の方がその事で不快になったら申し訳ないのでわざわざ書く事でもないと思ったのですが、執筆者の意図はそうした部分ではなく、我々がどのように感情を保っていたのかという事に主題を置いていて、感情のコントロールは最終的には自己責任ですが、小さな子供がいる社員や、入社したばかりの若い社員もおり、とにかく精神的に病んでしまうことが心配でしたから、バスの中では私が馬鹿みたいに騒いでふざけて、メンバーに話しかけていました。これが一生続くわけでは無いので、いっそ男子校の運動部みたいなノリでやってみてはどうかと思っていました。わたしはそっち方面の出身ではないのですが。
実際にご遺体に接する現場でのコミュニケーションですが、常にマスクが外せず、重機のエンジン音の中でアイコンタクトとジェスチャーが中心だったと思いますし、石巻市からの委託業務でしたので、掘り起こしの業務中は必ず石巻市の職員さんが立ち会って、全てのご遺体の移し替えを確認しておられました。これも大変な役割だったと思います。今でも慰霊祭などで顔を合わせることがありますが、握手をしたくなるような気持ちになります。
今思えば、もっと丁寧に、迅速にできたのではないか、対面の案内についてもあれでよかったのかどうか、思い返して後悔する事もありますし、手法についての様々なご批判が耳に入ってきたりもしますが、知り得た事を発信する事で、災害時には可能な限り広域な火葬の連携をして、出来るだけ仮埋葬をしなくてもいいように努力すべき、とお話しております。
あれから8年が経ちますが、9名のメンバーは誰一人退職することなく今もそれぞれの部署で勤務を続けていますし、現場はキツかったけど、メンバーと過ごす時間は楽しかった、と言ってくれています。とはいえ、メンバーと共有した「ノリ」の時間よりも、社長がこの業務を全面的に支えてくれているという安心感と、常に社内で激励されながら送り出されていた肯定感の方が乗り切る原動力としては圧倒的に大きかったと思います。けど、学生さんは、その辺がなんか腑に落ちなかったようで(笑)、私の些細なムードづくりに注目してくれたのかもしれません。
私もいろいろな発信をしておりますので、批判も中傷も全て受け入れますが、今回、このように敬愛する考える葬儀屋さんに反論して頂いたことが何より光栄です。
毎日チェックするブログに突然自分の事が書かれていたので動揺しました。長文、大変失礼いたしました。いちファンとしてこれからもブログを注目し続けたいと思いますし、考える葬儀屋さんの書籍を推薦図書として常に新入社員に伝え続けたいと思います!
西村 恒吉 様
お久しぶりです。
当事者の方から詳細なコメントいただけてうれしいです。
あのレポートで描かれていなかったところもうかがい知ることができました。
>ファインティングポーズをとらせてしまってすみません。
先方は紳士的で誠実な方だったこともあって、自分は当事者でも無いのに狂犬ぶりを発揮してしまった結果になって、お恥ずかしい限りです。
>残念ながら我々の業界には入ってきませんでした。
そうなんですよねぇ。私も何人もの学生さんから取材を受けるのですが、誰も入ってこないのです。確かに新卒カードを葬儀社相手に切るのはもったいないってことなのかもしれません。
しかしあのレポートは、ニュートラルな視点から浮かび上がってくる考察が大変興味深く、勉強になりました。
>社長がこの業務を全面的に支えてくれているという安心感と、常に社内で激励されながら送り出されていた肯定感
このリーダーシップと組織の一体感が御社の強みですね。
今後の益々のご活躍をお祈りしています!