2030年の葬儀業界を予想する

さて2020年、あけましておめでとうございます。

早速ですが、炎上覚悟で今後10年くらいの葬儀業界予想をいたします。

キーワードは「寡占化(同一産業内で、少数の大企業が、その市場を支配している状態)」です。

消えゆく料理業者さん

先日、お寺でお葬式の担当をしました。
通夜の参加者は喪主を含めて5名。お寺の本堂は無駄に広く、2台のストーブでは底冷えがしました。

通常業務では自社の契約先の料理業者さんに依頼します。しかしそこはお寺の指定の料理業者を使用しなければいけないというルールでした。

通夜が終わるとその料理業者さんが「皆さんでどうぞ」と言って葬儀社スタッフ用のお弁当を持ってきました。正直なところ、まだそんなことをしている料理業者さんがいるのかと驚きました。5名分しかない通夜の料理に配膳スタッフをつけて、さらにタダで料理を配っていては利益なんて出ないでしょう。

そのうち通夜葬式の料理はUber Eatsでいいという時代まであと少しです。

最近、自分の周りで料理業社さんがより大きな資本の傘下に入ったという話を聞きます。身売りできるのはまだいい方で、廃業したという話はもっと多く耳にします

関西と異なり、関東は通夜の料理を参列者に振る舞う習慣があるため「おいしい」環境でした。しかし今や食材費+人件費(調理費と配達費)を考えると注文を受けるべきでないケースもでてきているはずです。

そしてこの現象は今後きっと「上流」に展開するでしょう。

そう、葬儀屋さんも同じ運命をたどるはずです。

大手葬儀社の寡占化が進む

日本の葬儀社は中小企業が多いのですが(※1)、それらが淘汰され、大手葬儀社の寡占化が進むでしょう。

現在のところ件数ベースでシェア1%を超えている葬儀社(互助会含む)はおそらく10社程度です。
(その原因を分析した記事はこちら→大きなシェアを持つ葬儀社が少ない理由 | 考える葬儀屋さんのブログ

寡占化が進むと言っても自動車産業的な巨大独占企業が登場するというわけではありません。

葬祭業は本来高度なサービス業なので、100人超えるとクオリティコントロールの問題が出てきます。
上位100社が規模を拡大していくというイメージでしょうか。

見所のある中小の葬儀業者は大手に吸収され、ダメなところは消滅するでしょう。

言い換えると、人口比で葬儀社の数は減少し、一社あたりの人数が増加していくということです。

私は自分が大手葬儀社に勤めているからポジショントーク(自分に有利な状況になるような発言)をしているわけではありません。
「零細企業は潰れろ!」と言っているわけでもありません。

市場の変化(葬儀件数の増加、葬儀単価の減少、労働人口の減少)を織り込んで経済原則に則って考えると、
葬儀業界全体の生産性を高めるためには、中小企業は減少し、大企業に統合されていかざるを得ない言っているのです

寡占化が進む理由

私も不定期連載している(←ちょっと自慢してみました)東洋経済オンラインではデービッド・アトキンソン氏の提言が話題になりました。

デービッド・アトキンソン | 著者ページ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

ピックアップするならこの記事でしょうか。
時給「1000円ぽっち」払えない企業は潰れていい | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

彼は国内の中小企業を潰して大企業に統合することを提唱しています。

ちなみに彼はイギリス人にもかかわらず日本の重要文化財の修復を手がける小西美術工藝社の社長であり、職人集団を企業組織に変えた人物です。その過程が葬儀業界と共通点が多かったので、過去にこのブログでも取り上げたことがあります。(参考記事:葬儀屋さんは今月号の「致知(ちち)」を読むべし | 考える葬儀屋さんのブログ

かつて私はブログ記事の中で大手葬儀社の優位性?について触れました。

(参考記事:中小葬儀社は大手葬儀社より優れているのか? | 考える葬儀屋さんのブログ
葬儀社に就職したい!転職したい!人に葬儀屋さんがアドバイスをします(完全版) | 考える葬儀屋さんのブログ

今後中小葬儀社の多くが市場変化に持ちこたえられないことと
葬儀業界全体として下記のメリットを生むため
寡占化に流れていかざるを得ないでしょう。

大手葬儀社にスタッフが流入することで
○より多くの対象者を相手に、大量のナレッジを提供できる→葬儀業界の有能な働き手が増える

↓こちらの記事を参考にしてください。
中小葬儀社は大手葬儀社より優れているのか? | 考える葬儀屋さんのブログ

○葬祭業を基盤とした多角化を行いやすい

最近葬儀単価の下落を受けて、大手葬儀社が葬儀の前後のカテゴリーにも手を伸ばし始めました。昔は事前相談・仏事・仏壇・墓くらいだったのですが、今では士業や信託会社などの協業に活路を見出しています。

この分野を伸ばすには施行件数の多さという分母が必要です。ある程度需要が見込めるなら社内に専属部署を作って、さらにこの分野を成長させていくことが可能です。専属部署を作らず葬儀担当者にマルチタスクを強いて行うには無理があります。

○会館運営に資本投下できる(葬儀会館の買収も含む)→会館施行比率が増える→筋力を必要としない現場が増える→女性を活用できる

かつて葬儀業界のKFS(キー・ファクター・フォー・サクセスの略で、最も重要視すべき成功要因のこと)は自社の葬儀会館を持つことでした。会館が飽和状態になった現在は、そこから一歩進んで生産者人口の半分を占める女性の活用がKFSだと私は考えます。

葬儀業界全体で労働人口が不足するのは目に見えているわけですから、いかに女性を活用するかを考えないと未来はありません。

統計は取れていませんが、中小葬儀社ほど女性の正社員比率が低くないですか?そのうち労働力を確保できなくなって廃業ってことになりませんか?
(参考記事:人口統計から10年後の葬儀社の労働環境を予測する!? | 考える葬儀屋さんのブログ 

○流動的なシフトが組める→スタッフを効率的に働かせることができる

人数が少なく、かつダメな葬儀社はこんな感じです。
・葬儀は発生をコントロールできないランダムウォーク状態のため、スタッフ数をミニマムにして固定費を抑える→受注件数が上振れしたときにデスマーチが鳴り響く→ブラック化
・下振れしたとき(仕事が入らないとき)はスタッフが手持ち無沙汰→それを解消するために利益の出ない葬儀ブローカーの仕事を受ける→生産性が低下する

その点大手は↓この記事でも書いたように
中小葬儀社は大手葬儀社より優れているのか? | 考える葬儀屋さんのブログ
同一商圏に多くのスタッフを働かせているので、流動的、つまり件数のブレを吸収できるシフトを組みやすいのです。その結果、スタッフが潰れにくくなるというメリットがあります。
あくまで中小葬儀社との比較において、ですが。

最近大手葬儀社の中でも働き方改革に伴って働き方改革関連法をちゃんと守ろうとする動きが出てきました。一方(一部の項目の施行時期は異なるとはいえ)中小葬儀社で働き方改革関連法を守っているところってありますか?

中小葬儀社の能力がある従業員の方は心配無用

今後の見通しをお話ししてきましたが、中小葬儀社の能力がある従業員の方はそれほど心配することはありません。
元々人材の流動性の高い業界です。大手葬儀社に移っても基本的なスキルは活かせます。
それに大手葬儀社は、良くも悪くも労働基準監督署に目を付けられやすいので、労働環境は中小企業よりもちゃんとしていることが多いです。

私は、ハードワーク世代でかつて3週間連続出勤とか36時間連続勤務をやっていました。正直言えば、そういうアクセル踏みっぱなしで遺族に寄り添うスタイルに愛着があります。当時給料も他業種と比べて多かったです。

ところが近年ハードワークはそのままで給料は相対的に下がっていったため、多くの葬儀社がブラック化しています。
時給、つまり年間収入÷実質労働時間(サービス残業を含んだ労働時間)が、都内なのに2,000円を切っていたら、明らかにそこはブラックです。

ウチの葬儀社もうダメかも、と判断するためのサイン | 考える葬儀屋さんのブログ

もし私が中小葬儀社の従業員の立場なら、今後大手葬儀社を目指します。

ただし一部の互助会さんなんかは一見大手でも注意が必要です。
リクナビからやばそうな葬儀屋を調べてみる | 考える葬儀屋さんのブログ
売上ウン百億円でも、正社員30名というところもありますからね。つまりここは中小葬儀社のカテゴリーに含まれます。

問題は中小葬儀社の経営者

デービッド・アトキンソン氏は、生産性の低さの原因として「経営者が無能だから」とばっさり切り捨てています。

私はこの点に関してだけは、氏の意見に心情的に乗れないですね。
確かに無能な経営者は多いかもしれませんが、私も経営者としての才能は無いと思うので。(だからキャリアプランを考え抜いて、従業員で生きていくために自分に有利なポジションを取ったところはありますが)

さて中小葬儀社の経営者の方はどのように思われたでしょうか。
不愉快という方もいれば、ウチは違うというご意見をお持ちの方も多いでしょう。

でも、業界全体を考えたときどうですか?

私の意見に納得できなくても、かまいません。

答え合わせは10年後!

 

 

(参考資料)
※1 葬儀業界に中小企業が多いということを示したデータ

経済産業省 平成29年度の特定サービス産業実態調査より作成したグラフ

単独事業所、本社、支社別計9,328
単独事業所4,338
本社1,049
支社3,941

9,328事業所のうち支社が3,941社含まれているものの、それでも中小企業が多いことが分かる。