民営火葬場は心付け(寸志)廃止を宣言すべき




首都圏の民営火葬場は心付けの慣習を廃止すべきという話です。

公営の火葬場がほとんどである地方の方は驚かれるかもしれませんが、首都圏には民間の火葬場がいくつかあります。
例えばその一つ、東京博全は23区の火葬の7割以上のシェアを持つ民間の火葬場で、東証一部上場企業の廣済堂の子会社です。

こういった民営の火葬場では、火葬炉職員、事務所職員、配膳職員など火葬場スタッフに心付け(現金)を渡す慣習が残っています。

基本的に公営斎場は心付けの受け取りをしないと宣言していますが、民間斎場も同様に心付けを受け取らないという宣言をすべきです。

心付けに対する私の考え

まず心付けに対する私の考えを表明しておきます。

過去2本の記事を書いています。

正しい心付けの断り方 | 考える葬儀屋さんのブログ
心付けを期待する気持ちは知らず知らず人間を卑しくしていくので受け取るべきではない、という主旨です。

賤(いや)しさと火葬場職員と心付け | 考える葬儀屋さんのブログ
「さげずまれる仕事だから心付けでも要求しないとやってられねぇよ、という考え方をする人がもしいたとしたら
その人は世間からさげずまれても仕方がない」という言葉でこの記事を結んでいます。

以上が心付けに対する私の基本的な姿勢です。共感してもらえればありがたいのですが、「それはあなたの価値観に過ぎない」という人もいるでしょう。

そこで次の章に続きます。

心付け反対への反論

火葬場の心付けに関して葬儀系YouTuberの佐藤信顕氏からご意見をいただきました。
(25:30から再生)

ご覧いただければ分かりますが、佐藤氏の意見を要約すると「遺族の(感謝の)気持ちなんだから心付けは受け取っていい。葬儀屋さんが強制しているわけではないのだから。慣習をとやかく言うべきではない」という論旨です。

こういう主張をする葬儀屋さんはたまにいるのですが、私は同意できません。

遺族は心付けを渡したがっているのか

心付けを渡したいほど感謝しているのか

確かに公営の火葬場と比べて、民営の火葬場のスタッフのレベルは高いです。たまに地方の公営火葬場にいくと態度の悪さや職業意識の低さに辟易することがありますが、民営の火葬場でそういう経験はありません。

とはいえ具体的に遺族は火葬場スタッフの何に感謝しているのでしょうか?

主に火葬場が提供するサービスは以下の流れです。

到着した寝台車から台車に棺を載せ替える→火葬炉に棺を収める→火葬→控え室での飲み物やお菓子の提供→火葬場料金の授受→拾骨

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Kotsuage.JPG

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Kotsuage.JPG

火葬は特殊技術だと思いますが、遺族に見えないところで行われている業務なので、遺族に伝わりません。

仮にいずれかのサービスの提供、もしくは全体の印象として、心付けを渡したくなるほど「感謝」したとしましょう。
そうだとすると心付けを渡したくなるほど感謝するのは、一通りのサービスを受けた後、つまり拾骨の後くらいが適切だと思うのですが、そのタイミングで渡している人を私は見たことがありません。

実際の心付けの受け渡しは下記の方法で行われています。

葬儀屋が用意させている

民間の火葬場に行く機会があれば、そこにいる葬儀屋さんの動きを見ていてください。
火葬炉にご遺体を収めた後、火葬場職員や事務所の方に封筒に入った心付けを手渡ししてまわっているはずです。

葬儀屋さんは火葬炉に棺を収めた後に、心付けを渡しているわけですから、この場合火葬場を利用する前に心付けの現金を遺族に用意させて、それを手渡していることは明らかです。

御存じのようにチップ制度は日本に定着していません。
一般読者の方で、心付けを渡したという経験をお持ちの方はどれくらいいらっしゃるしょうか。
せいぜいタクシーの支払いのときに端数のお釣りを受け取らなかったという程度ではないですか。

これまでお葬式を経験したことがなく、物理的にも精神的にも慌ただしい状況にある遺族が、自分から火葬場の職員に心付けを用意したいと葬儀屋さんに申し出ているとでも言うのでしょうか。

なぜ葬儀屋は心付けを用意させるのか

結局、葬儀屋が打合せの時にお願いしているのです。

「慣習なので事前に用意して下さい」と。

で、「相場はいくらくらいですか?」と遺族が訪ねて、葬儀屋さんが金額の相場を伝えているのです。
その段階で火葬場スタッフに対する感謝はありません。

とはいえ、このやりとりについて、一概に葬儀屋さんだけを責めるわけにはいきません。
(「火葬場の心付けを、何で自分たちがお願いしないといけないんだ。」と内心思っている葬儀屋さんもいるでしょう。)

火葬場>葬儀屋 の力関係

葬儀屋さんは火葬場が使えないと仕事ができません。「火葬場を使わせていただいている」極めて弱い立場です。
別に民間火葬場の職員が威張っているわけではありませんが(というより腰の低い人が多いのですが)構造的に 火葬場>葬儀屋 という力関係です。
わざわざ自分の立場を悪くするような、心付けを用意しないという行動に出るインセンティブ(動機)はないでしょう。

こうして、葬儀屋が遺族に心付けを用意させるという習慣が絶えず続いているわけです。

おこぼれに預かりたい

次に、火葬場に心付けの慣習が残っていることをいいことに、それを利用して「おこぼれ」に預かろうとする葬儀屋が一部います。

火葬場のスタッフに心付けが必要という話の流れで、自分たち葬儀屋にも心付けが必要ですとだまして(もしくは人のいい遺族に「葬儀屋のみなさんにも心付けは必要ないのですか」と尋ねられて)遺族から心付けをもらうスタッフが存在するのです。大体そういう性根の葬儀屋は一線を越えていずれクビになることが多いのですが、稼いでくれれば「前科」不問でいいという葬儀社に再就職して同じ悪事を働きます。

不健全です。

この業界に入った頃は、「用意してと言われたからとはいえ、どんなサービスを受けるかも分からず、日頃心付けという習慣も無いのに、みなさん良くすんなりと支払うな」と思っていました。

その背景には、葬儀の慣習が分からないから言われたままに従う、ということがあるでしょう。
さらには、口には出さないものの「そういう」世界の人達だから、と考える人も中にはいるでしょう。

25年ほど前の話ですが、私の父は地方の小さな町の火葬場で火葬されました。火葬場に行く前に、封筒に入れた1万円と一升瓶の日本酒を用意して火葬炉の職員に渡すように、親戚から言われました。
「なんで?」
と聞く私に親戚の人たちは
「うん、まぁ、そういう人達だから」
という言い方をしました。
自分が「そういう」世界の人間になってみると、屈辱的な言われようだったなと未だに青臭いことを思います。

以上述べてきた、「遺族が心付けを渡す暗黙の了解」を火葬場が知らないはずはありません。

こうして、火葬場と葬儀屋の共犯関係は続くのです。

余談ですがある民間の火葬場は、火葬料金の一割程度を葬儀屋さんに手数料として支払っています。
紹介手数料と考えれば、このやりとり自体は問題ありません。ただこの支払い、会計処理の利便性を考えても月末にまとめて会社の口座に振り込んでくれればいいのですが、なぜか火葬場に来ている担当の葬儀屋さんに直接現金で渡そうとするのです。いわゆるうがった見方をすると、この手数料は葬儀社ではなく、個々の葬儀担当者のポケットに入ることを前提にしていて、現場の担当者がより高額な火葬炉を勧めてくれることを狙った戦略ではないか、と疑っています。

いつまでもそんな体質でいいのか

心付けを渡す渡さないは遺族の意思に委ねられていて強制ではないという、グレーゾーンに逃げたずるい言い方は、
お経や戒名の費用を、「お気持ちで」と濁(にご)してしまう仏教界や
不明瞭な料金体系を長らく続けてきた葬儀屋にも通底するいやらさしさを感じます。

こんな理屈がいまだに通ると思っているのは葬儀業界の古い人間だけで、もはや一般の人に納得してもらうのは難しいでしょう。

不健全

前述したように東京博善は一部上場企業の廣済堂の子会社です。東証一部上場というのは極めて透明性のある財務内容の公表を求められます。心付けがどう処理されているのかは廣済堂の有価証券報告書を見ても判断できません。ちなみに心付けを出した遺族は通常領収書をもらっているわけではありません。
東京博善側も問題ないと説明できるように理論武装はしているのでしょうが、広義のコンプライアンス的に不健全だと思います。例えば心付けを職員の実質的な収入と見込んで、賃金の支払いを低めに抑えるというようなインセンティブが経営側に働かないとも限りません。

前近代的

火葬場の運営は公共性が高く、インフラと呼べる重要な仕事です。そのため従業員が良い給料をもらうのは何の問題もありません。
遺族が本当に心付けを渡したいくらいのサービスを火葬場が提供している、つまり今の料金以上の価値を提供しているという自負がもし火葬場側にあるのなら、値上げをして正規の料金に反映させればいいのです。

旅館やホテル業界も前近代的な心付けを廃止して、サービス料という形で正式な料金として受け取っています。葬儀業界ができないというのは通らないでしょう。
堂々とお代を頂いて税金を納めましょう。

以上いろいろ述べてきた問題は、民間の火葬場が心付けを受け取らないと宣言すれば、スッキリ解決できます。
心付けをもらえないからと言って、サービスの質を落とす火葬場スタッフはいないと信じています。

公共性の高い火葬場の心付けの問題は、葬儀業界の体質につながっている話です。
心付けをもらう、もらわないは一企業の勝手である、などというように問題を矮小化して欲しくありません。

こういう前近代的な慣習は、次世代のためにも変えていかねばなりません。

渡したくない遺族は渡すべきではない

今後、民間の火葬場を利用する遺族の方にお願いです。

火葬場側や葬儀屋が「強制ではなく心付けを払いたい人が払っている」という建前を押し通すなら、払いたくない遺族は、「払いません」としっかり意思表示をするのがよいでしょう。

東京博善は、前期87億の売上で25億の営業利益を出しています。そんな超優良企業で働いている従業員のために、経済的な事情で火葬だけしかできない遺族が、それでも心付けを捻出したいというのであれば、私は止めません。

繰り返しになりますが最後に、一言。
今回動いているお金が大きそうなのと、公共性が高いため民間斎場を取り上げていますが、葬儀業界全体が心付けを廃止すべきだと考えています。

(追記)
お前は今まで全く心付けをもらったことがないのか、と尋ねる人もいるでしょう。そもそも最近都市部では、葬儀屋さんに心付けを渡そうとする遺族も少なくなりつつあります。キャリアを振り替えると9割以上断ることに成功していますが、無理に断ると不愉快になる相手もいるため、数%は受け取らざるを得ない状況がありました。そんな時は命日に送るお花代にします。まれですがそれが拒否された場合、昔はフォスターペアレント(貧困国支援団体)に寄付していました。近年はALS関係に寄付しています。











2 件のコメント

  • 日本の9割が公営ですから、
    全国ベースでみると
    岩手県1火葬場、埼玉聖典谷塚斎場、戸田葬祭場、東京博善、日華斎場、神奈川の数社、岐阜の自福寺、大阪の数社、沖縄の数社他ですかね。
    家は些少なりとも出しましたが、自己満足ということで(  ̄▽ ̄)

    私の場合は大学病院で手術しても、国立の東大、東京医科歯科大、私立の北里大学の医師には1円も包みませんでした。
    温泉の仲居さんには3000円出します。
    東博が宣言するとは思いませんから、
    全葬連や全互協が宣言したら如何でしょうか?
    「葬儀社も火葬場も付け届けはいらない~~」

    因みに埼玉のセレモニーは、うちにも火葬場にも心付けは要りませんときっぱり言いました‼️

    火葬場が言わないならば、葬儀社が言えばいい。

    私はそう思います。

    また、この話題は東京以外はピンと来ないと思っています。

    • LAW様
      コメントありがとうございます。
      >全葬連や全互協が宣言したら
      そうしてもらえるならいいのですが、「おこぼれ」に預かっている人もいるし、火葬場との力関係上、無理かと。
      タイトルは火葬場が宣言と書きましたが、現実的な施策は記事最後に書いた、断るという選択肢があることを消費者が知る、ことでしょう。

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