2040年葬儀業界はこうなっている

2017年にこんな記事を書きました。

2030年、将来の葬祭業はこうなる


空想も交えて将来の葬儀業界を予想する、という内容です。

答え合わせ

ちょっと早いのですが、予想が当たりつつあるのか振り返ってみましょう。

  1. 独居老人の孤独死の遺体処置+直葬の仕事の需要が増加
    →〇
  2. 葬祭扶助申請数も増加し財政を圧迫。
    →〇
    「無縁遺体」急増、行政の葬祭支出は10年間で1.5倍に – 日本経済新聞
  3. 葬祭業の最低賃金は介護職員のそれを下回る。葬儀業界の慢性的人手不足。
    →人手不足は〇 賃金は△ 下がっているが介護職は下回ってはいない。
  4. 葬祭業の過労死認定増加。
    →× そもそも業界に限定した公表値は、存在しません。ただ定性的な感想を述べると、途中で働き方改革が行われてしまったので、大手葬儀社の労働量はむしろ減少傾向な印象。その一方、零細葬儀社は人手不足の影響をダイレクトに受けている分、労働環境は悪化しています。
    そのため過労死(認定されているかどうかにかかわらず)が増えているとしたら後者でしょう。
    「同じ担当者がずっとあなたの葬儀を担当します」とうたっている葬儀社はほぼ労働法を無視していると言っても過言ではありません。
  5. 労働力不足で夜勤廃止の葬儀社が増加。
    →〇 正確な数字は不明ですが、搬送業務を寝台業社に丸投げしたり、コールセンター業務しか行なわない葬儀社は増えています。
  6. 直葬に限りソーシャルワーカーの職務に葬祭業務も付加される。
    →× これはまだ起きていません。
  7. 0葬が導入され都内火葬場で遺骨の全引取が可能に
    →△ 23区の火葬の7割を占める東京博善が、一部引取に移行するなどの流れが起きています。
    また自治体の無縁仏の預かり数が増えているとの報道があります。
  8. 韓国のように葬儀式場併設病院が日本国内で増加。
    →×これはまだ起きていません。
  9. 生活保護受給者が死亡したときのための火葬場併設病院建設を、住民の反対を押し切って強制執行できる法案が可決→× 当時は「火葬場」と書いているが式場の間違いです。どちらにしても起こっていません。

現在(2026年)コロナ禍を経てさらに状況が明確になってきたところもあり、
以下続編として2040年の葬儀業界はどうなっているかを予想してみます。

文中の言葉を以下のように定義します。
直葬・・・病院搬送→安置→火葬のみ
葬儀・・・直葬の要素に宗教儀式を加えたもの

2040年にほぼ確実に起っていること

いくつかのレポートから、2040年日本社会において高い確率で発生する事象の中で、葬祭業に関係することをまとめました。

死亡人口の増加

今後、死亡人口は増加します。
死亡人口というのはすなわち葬儀屋さんの取扱件数です。

厚生労働省の機関である国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)は、多分、
出生者数に関して、各方面から政治的なプレッシャーがかかっているのでしょう、出生者数予測を大きく外してきました。
しかし死亡者数は、高い精度で当てています。
今後の死亡者数予測に関しても、十数年のスパンでは、ほぼ間違いなく当ててくると思われます。

現在、2024年の死亡者数が160万5,298人まで達しています(厚生労働省:令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況)。
今後さらに団塊の世代が亡くなっていき、死亡人口がピークに達するのは2040年で166万5千人と予測されています(国立社会保障・人口問題研究所(IPSS)「日本の将来推計人口(令和5年推計)」)。
また、ピークアウトして160万人を切るのは2049年(159万6千人)と予測されています(同上)。
つまり、今から約25年間は、現時点より死亡人口が少なくなることはないということです。

おひとりさまの増加

2040年には、65才以上の人口が全人口の約35%になるといわれています(内閣府:令和7年版 高齢社会白書(PDF)「高齢化の推移と将来推計」)。

同時に、おひとりさまで老後を迎える高齢者も増えます。
国の資料では、65歳以上の一人暮らしの数は、2040年には2020年より370万人増加し、約1,041万人となる見込みです(衆議院:令和6年度〈概要〉高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況(概要資料))。

75歳以上の高齢単身世帯は、2015年の42万世帯から2060年には76万世帯へと1.8倍に増えます。

変死の増加

警察庁の公表で、2024年(令和6年)に警察取扱死体20万4,184体のうち、自宅で死亡した一人暮らしは7万6,020体(37.2%)とされています(警察庁:年齢階層・経過日数別(令和6年))。
このうち、65歳以上は58,044体です(同上)。
この数も死亡人口の増大に合わせて増えていくでしょう。

労働人口の減少・質の低下

2024年の生産年齢人口(15〜64歳)は約7,373万人です。これが2040年には約6,213万人に減少しています(内閣府:令和7年版 高齢社会白書(PDF)「高齢化の推移と将来推計」)。
つまり、約1,160万人(15.7%)減少します。

日本中の労働人口が減少する中で、葬儀屋の労働人口が増えるとは思えません。
運動体力(遺体を持ち上げる)+防衛体力(長時間かつ不規則な労働に耐えうるコンディション)が必要なので、高齢者は従事しづらいです。
また、文化産業であるため対面業務においては外国人労働者の従事も難しいでしょう。さらに円安が進めば、そもそも日本で働きたい外国人も減ってくるでしょう。
ここ10年、葬儀社の採用担当をしてきた方ならわかると思いますが、労働量は増大しているにもかかわらず採用が集まらなくなってきており、以前なら不採用だったレベルも採用せざるを得なくなっています。
労働力の減少にくわえて質の低下が起っています。

貧困化

今後貧困層が増えることが予想されます。

統計では生活保護者に占める高齢者の比率が高いです。
令和5年度確定値(月平均)で、生活保護の世帯類型別のうち高齢者世帯は90万8,629世帯(55.3%)となっています(厚生労働省:被保護者調査(令和5年度確定値))。
さらに、資料では高齢者世帯の92.3%が単身世帯(令和4年3月)とされています(厚生労働省:生活保護制度の現状について(令和4年6月))。

生活保護者は、葬儀を行うだけの蓄えはなく、亡くなると葬祭扶助による火葬のみを選択するしかありません。

また、2025年時点で
二人以上世帯(世帯主50代)の金融資産保有者比率は 18.2%
単身世帯(50代)の場合は、 35.2%です。(J-FLEC:家計の金融行動に関する世論調査(2025年)
この人達も、親が亡くなった場合、多少の遺産があったとしても、葬儀ではなく将来の自分の生活費に使おうとする可能性が高いでしょう。
また年金納付をする余裕も無いと思われるので、就労できない年齢になった途端に生活保護受給者になるかもしれません。

2040年までに高い確率で起りそうなこと

前章の予測から、高い確率で起こりそうなこと述べてみます。

変死増加に伴う葬儀社業務量の増大

おひとりさまが増加することで、自宅死亡の変死者数も増えます。
葬儀屋は変死の場合、検死作業に付き合わねばならず、病院死亡に比べて拘束時間が増えコストもかかります。
追加費用をもらいたいところですが、低価格化の流れの中では難しいでしょう。

夜間搬送業務の減少・消滅

働き方改革と人手不足で夜間搬送業務(病院→自宅や葬儀式場などの安置場所に遺体を搬送する)は機能不全になります。
対応策としては
・葬儀社の夜間搬送業務の廃止、外注化。夜間業務は、コールセンター機能が中心。
・寝台車の自動運転化
・夜間死亡者の安置受け入れ場所として、新設大型病院には病床数に合わせた病院の安置室の義務付けもしくは推進が行われるかも

首都圏では直葬比率が5割を越える

祭壇を飾って宗教者を呼ぶ葬儀の数が減少し、直葬が増えます。
需要不足(人間関係の希薄化+消費者の支払い能力の欠如)+供給不足(葬儀社の人手不足)の相乗効果で、直葬の比率がどんどん増えていきます。
おそらく首都圏では5割を越えて、直葬が主流になるのではないかと思われます。

寡占化及び零細葬儀社の廃業

2030年の葬儀業界を予想する


この記事でも書いたように、大手葬儀社の生産性を持たなければ、葬祭業を継続することが難しくなります。零細葬儀社は、どんどん廃業するでしょう。首都圏では2割くらい消滅するのではないかと予想しています。
最近活発になりつつある寡占化(M&Aの活性化)の例を以下に挙げておきます。

取引時期買い手企業売り手企業(葬儀社)M&A形態背景・目的(要旨)
2023年7月こころネット(東証スタンダード)喜月堂ホールディングス(山梨・葬祭業)株式取得(子会社化)葬祭事業のエリア拡大、既存事業とのシナジー創出
2023年10月公表(実行:11月)ティア(東証スタンダード)八光殿(大阪)/東海典礼(愛知)株式譲渡(全株式取得)関西・中部での基盤強化、会館網拡大
2023年12月日本企業成長投資(NIC/PEファンド)天光社(福岡)株式譲渡(経営権取得)事業承継・再編(ファンド主導の成長支援)
2023年12月ライジング・ジャパン・エクイティ(RJE/PEファンド)セレモア(東京)株式譲渡(資本参加)成長支援、ガバナンス強化(のちに事業会社へ譲渡)
2024年3月日本企業成長投資(NIC/PEファンド)富士葬祭(沖縄)株式譲渡(経営権取得)広域グループ化(九州~沖縄でのネットワーク拡大)
2024年8月日本企業成長投資(NIC/PEファンド)ベルハース(群馬、「ベルセレモニー」)株式譲渡(経営権取得)関東での展開強化、広域葬儀グループ化
2024年8月(成立:8/27)燦ホールディングス(東証プライム)きずなホールディングス(東証グロース、「家族葬のファミーユ」)TOB(公開買付)→完全子会社化家族葬市場の取り込み、規模拡大
2025年6月ひょうまホールディングス(島根・鳥取)京都屋葬儀社(島根県浜田市)事業譲渡(事業承継)後継者不在の事業承継、地域密着同士の統合
2025年10月公表(効力発生:2026年2月予定)燦ホールディングス(東証プライム)こころネット(東証スタンダード)株式交換(完全子会社化)による経営統合出店エリア補完、効率化・規模拡大(業界再編)
2025年12月(12/30)金宝堂ホールディングスジャパン・セレモニー・HD(セレモア親会社)/セレモア株式取得(完全子会社化)ブランド・顧客基盤とWeb/全国展開の融合、企業価値向上

 

実質葬儀単価の下落

実質的な葬儀単価は減少するでしょう。
実質というのは名目(見かけの金額)からインフレ率を引いたものです。
例えば葬儀の価格(名目価格)が2%値上がりしても、インフレ率が3%なら、
2-3=-1
で、実質価格は1%下がっていることになります。

2020年の消費者物価指数の品目入れ替えで「葬儀」が登録されました。

葬儀費用が消費者物価指数に登録された本当の理由

「葬儀」の登録当時(2020年)の価格を100とすると、2025年1月時点では 104.1です。
インフレの影響で確かに値上がりはしています。しかし同期間の全品目の消費者物価指数が111.2まで伸びており、2025年はインフレ率が2~3%で移行していることと併せて考えると、葬儀費用は伸び悩んでいます。
直葬比率が高くなるにつれて、さらにこの傾向が強まるでしょう。

ただし現在の直葬の価格は底値に張り付いており、葬儀屋の最低賃金を支えるために、直葬の単価だけはそれなりに上がる可能性はあります。

賃金の低下

葬儀1件当たりの単価が低下していくので、今後葬儀社スタッフの賃金が、今以上に良くなることはないでしょう。
穢れなどの職業選択の際の心理的抵抗感は薄まっていくでしょうが、低賃金のため人が集まらない状態は続くと思われます。

2040年 未来の葬儀業界予想図

ではこのディストピアで、何が起るか、どんな葬儀屋が生き残るか考えてみました。

行政との結託

現在身元不明者の直葬を対象に、自治体と随意契約を結んでいるところはありますが、対象者の範囲を拡げて契約を結ぶ葬儀社が増えてくるでしょう。
自治体側は、身寄りの無い貧困層の死者をどう扱うか困っています。
葬儀屋側としても直葬中心で単価は低くても、
・コンスタントな受注
・未収金の回避
というメリットはあるので、延命手段としては有りでしょう。

預託金で火葬、納骨まで 本人、市社協、業者が契約〈京都市、市社協〉

ただこの分野も、安定的な処理能力が求められるので、大手葬儀社が選ばれる可能性が高いです。

葬儀業務の福祉インフラ化

先ほどの「行政との結託」をもってしても、葬儀屋側の供給が十分でなければ、
福祉士・社会福祉協議会・地域包括支援センターが「死後対応」業務を担う可能性もあります。
できるだけ内製化することで、税金のコストカットを図るという考え方です。
キャパオーバーになったときだけ、葬儀社に外注するというやり方もあるでしょう。

ソリューションビジネスへの移行

寡占化については何度も述べていますが、いずれ葬儀社は「葬儀だけ」を行う企業では無くなるでしょう。
GEOやツタヤがレンタルビデオからリユース業にシフトしているように、周辺業務(介護、相続、死後事務等)にシフトしていくでしょう。

葬儀社が生き残るためのカギを教えます

宗教者の葬儀屋化

効率化で有効なのは多能工化(マルチタスク化)です。
司会ができない、納棺ができないということでは、余計に人数がかかってしまいます。
なんでもできるスタッフの方が、シフトを組みやすいということは理解できるでしょう。
ただ重要な葬儀のタスクなのに、葬儀屋が行えないのが「読経」です。
建前上僧籍という「資格」が必要とされているからです。

であれば逆転の発送で、僧籍を持つ人が、葬儀タスクをマスターする、つまり葬儀屋になるというのはどうでしょうか。
檀家制度崩壊、葬儀式そのものの減少により、寺院は約3割が廃業するという説があります。
「座して死ぬくらいなら葬儀屋になった方がマシ」という僧侶も中にはいるでしょう。

同じ理屈で行政書士が葬祭業務を行う可能性もありそうですが、葬祭業務と同時期同地点で行うタスクはほとんどないので、効果は低いと思われます。

介護施設内のお別れの対応

今後葬儀社の式場ではなく、介護施設の居室や共有スペースを使ったお別れが増えてくるでしょう。
私も何度かやったことがあります。
参列する知合いの高齢者にとっては外出する肉体的負担が少なく、遺族にとっては式場代が浮きます。
介護施設に住んでいる人は、富裕層寄りで、本来葬儀単価が高い層の比率高めです。葬儀社としては高価格帯葬儀の機会を手放すことになりますが、背に腹は代えられないでしょう。
ただ介護施設職員が、葬儀屋のタスクを行う可能性もあるので、その場合は葬儀社は排除されるかもしれません。

高齢者ホームで「施設葬」増加 火葬待ちも自室

葬儀屋のマイクロ法人化

マイクロ法人とは、「1人でやる仕事を、会社の形にして運営する超小型の一人会社」のことです。被雇用者ではないフリーランスが法人化することで、税金や社会保険の負担を減らすことができます。

直葬をメインで行い、葬儀の時は外注で、自分一人だけが食べていきます。たいして儲かりそうにありませんが、葬儀業界に身を置きたい人の働き方です。

死亡届手続きのオンライン化

↓以前書いた記事です。

死亡届の改善案を考えてみた


単純業務でありながら、必須で、葬儀屋さんの時間を奪う死亡届の手続きを、オンライン化できないか、という内容です。

死亡届から埋葬までをデジタルで一気通貫 葬儀DXを推進するLDTの「葬儀情報共有システム」が特許取得 – LDT株式会社

↑あるテック系の会社が特許を取ったようです。

死亡届及び死亡診断書(死体検案書)提出のオンライン・デジタル化におけるHPKIリモート署名の活用について

死亡届のオンライン化の推進が閣議決定されました。火葬許可書発行については具体的に言及されてはいませんが、業界人として期待します。

デジタルゴーストによる代替

デジタルゴーストとは、AI技術により故人と対話を可能にする技術のことです。
生前のデータを解析することによって、ホログラフ、合成音声などで、故人を再生します。

余談ですが、この分野で儲けたい人達は、このネーミングが定着する前になんとかした方がいいかもしれません。
「お化け」はよくないでしょう。

パーソナイズされた3Dホログラフィにはあと数年、アンドロイドの物理義体までは数百年かもしれません。しかし全く違和感なく、本人の口調で、本人が喋っているかのような発言を電話口で行うことは現在でも可能でしょう。

葬式の機能には、「喪失の受容」があるわけですが、あえて喪失を感じさせないという技術が葬式の代替となるかどうかは分かりません。
私の大学時代の親友は13年前に亡くなりましたが、先方の家庭の事情で、遺体との面会・葬儀の参列・墓参りができていません。亡くなっているという情報だけが存在していて、亡くなった気が全くしないという状態です。しかし亡くなってから数年後位から、喪失の受容ができないこの状態は、これはこれでいいのかもしれない、と思うようになりました。

多くの日本人にとって、故人への認識が「あっちの世界で生きている」なのであれば、「それをこっちでも見れるようにした」のがデジタルゴーストであるとも言えます。

デジタルゴーストのコストが葬儀より安くなったら、葬儀は廃れてしまうのでしょうか?
私にはわかりません。
ただ確実に仏壇は無くなるでしょう。なぜなら仏壇の本質は、個人との対話デバイスだからです。

というわけで、いろいろ書いてきましたが答え合わせは15年後です。