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なぜ大手葬儀社は零細葬儀社より生産性が高いのか




零細企業が圧倒的に多いと言われていた葬儀業界ですが、今後大手葬儀社が勢力を伸ばしていくでしょう。
なぜなら大手葬儀社の方が生産性が高いからです。

(今回の記事は、葬儀業界の分析をしているだけで、零細葬儀社より大手葬儀社のスタッフが優秀だとか、幸せだとか言っているわけではありません。むしろ個人のポテンシャルに大きな違いはなく、どこの組織に所属するかが重要という構造的な問題の考察です)

大企業は中小企業より生産性が高いというアトキンソン氏の主張

最近菅総理のブレーンとなったことで、がぜん注目を浴びるようになったデービッド・アトキンソン氏ですが、このブログでは以前から注目していました。

葬儀屋さんは今月号の「致知(ちち)」を読むべし | 考える葬儀屋さんのブログ
2015年の記事では、粗野な職人集団を生産性の高い会社組織に再生させた手腕を評価しています。

その後アトキンソン氏は「日本は観光に活路を見出すべき」との主張を行い、現在は「日本が停滞しているのは中小企業が原因」との主張を行っています。
これが数の上で多数を占める中小企業経営者の反発を食らっているわけですね。

中小企業批判に関する最新刊はこちら。

たくさんの国際比較データを出しつつ、

  • 各国の生産性は、中小企業と大企業の比率で説明できる
  • 大企業比率が高い国ほど生産性が高い
  • 日本の大企業の数は全体の0・3% で、これら大企業に勤めている労働者は全労働者の 31・2% だが、創出している付加価値額では 47・1% を占める
  • 日本は1964年のオリンピック終了後、法人税制など中企業優遇政策を取ったため中小企業が多くなってしまった
  • 労働人口増加局面では、雇用を発生させる中小企業優遇政策は一定の効果をあげるが、労働人口減少局面では生産性を下げる

等のことを、証明しています。

ちなみに生産性とは
「生産したもの÷投入したもの」
で表されます。

葬儀社のようなサービス業では、時間当たりの付加価値を指すことが多いです。

「日本人の一人当たり労働生産性は、OECD加盟37カ国中26位」
という話を聞くたびに、私はいつも
「こんなに勤勉で、就学率も高いのに、そんなに日本人てダメなの?」
と思っていました。同様の感想を持つ人は多いんじゃないでしょうか。

アトキンソン氏の主張は、無理なくこの理由を説明してくれています。
データが間違っているのではない限り、彼の論理には破綻がありません。

彼は、予想はしていたものの、感情的反発が多くてうんざりするという趣旨のことを言っています。
東洋経済オンラインの連載で、反論に逐一答えている姿勢は、誠実でした。
一方彼の主張に対する「論理的」な反論は、いまのところ見かけません。

葬儀業界でも、大手葬儀社は零細葬儀社より生産性が高いのか検証してみた

アトキンソン氏は上記の著者の中で、中小企業白書などの各国の政府系レポートをもとに、中小企業よりも大手企業が生産性が高いことを証明しています。
では日本の葬儀業界はどうなのでしょうか。

調べてみました。

許認可事業ではなく監督官庁が存在しない葬儀業界には、信頼できる公的データが少ないことはこれまでに何度か述べてきました。葬儀社が、日本に何社あるかすらも把握できていない状況です。

そんな中で比較的信用できるのは、経済産業省の「特定サービス産業実態調査」でしょう。

今回は現時点で最新の2018年度版を使用します。

このデータは各指標と、事業従事者1人あたりの年間売上高、つまり生産性との相関を教えてくれます。

国内の中小企業の定義は、サービス業の場合、中小企業基本法によると

資本金の額又は出資の総額が5000万円以下、または 常時使用する従業員の数が100人以下

ということになります。
これより大きいと大企業ということですね。

ここで問題になるのは、数値に葬祭業だけではなく冠婚(結婚式)業も混じってしまっているところ。
ただし、表5をみていただければ分かりますが、全体に占める冠婚業の比率は
事業所数ベースで9.6%(冠婚874事業所、葬祭8201事業所)
売り上げベースで21%(冠婚412,597百万円、葬祭1,565,042百万円)
となり、影響はあるものの限定的と言えます。

ではまず
資本金規模別と事業従事者1人あたりの年間売上高の関係です。

見事に、「資本金が大きくなるほど、つまり大企業になるほど、一人あたりの年間売上高が大きくなる」傾向が見て取れます。

参考までに企業の売上高と事業従事者1人あたりの年間売上高の関係です。

売上げが大きくなるほど、1人あたりの年間売上高が高くなっています。当たり前と言えば当たり前なのですが、かつての居酒屋チェーンのように薄利・薄給で多くのスタッフを抱えて売上げを伸ばしているわけではないことを確認するために、この表を載せてみました。

最後に事業従事者規模別と事業従事者1人あたりの年間売上高の関係です。

ここでアレ?と思いませんか。スタッフ数が増えていくにつれて一人当たりの売上高が下がっています。
これは一見仮説に反します。

よくよく考えてみると理由がわかりました。

1つ目の理由は、
これまで述べた資本金や売上のデータは「法人別」でしたが、今回のデータは営業所別になっているからです。
例えば、従業員100人の会社があったとしても25の営業所に4人ずつ置いていれば、すべて4人以下の事業所としてカウントされてしまうということです。

会館が多い葬儀社ほど、一会館に配属する人数を減らせます。なぜならその日の各会館の施行状況に合わせて、スタッフを各会館に割り振れるので、1営業所の配属者数をミニマムにできるためです。

2つ目の理由は、事業所人数が多くなるのに比例して、冠婚業(結婚式場)の混在率が高くなるからです。
産業構造的に結婚式場スタッフは葬儀屋さんよりも一人あたりの売上高が少ないため、結婚式場が多く含まれると1人当たりの売上高も下がります。

小型化が進む葬儀会館で専属スタッフが10人以上っていうところは珍しいですね。一方複数の式場を持つ結婚式場なら、30人以上のたくさんの専属スタッフがいても不思議はないですよね。
それを証明するデータがこちらです。
(第5表を見やすいように修正)

事業所数ベース全体では結婚式場は葬祭事業所の1割ほどしかないにもかかわらず、100人以上や50~99人規模の事業所では、結婚式場の方がむしろ多いですよね。
先ほどデータを見る上で冠婚(結婚式)業の影響は限定的と申し上げましたが、事業所人数が増えてくると、このように結婚式場のデータの混在率が高まるのです。

3つ目の理由は、葬儀社で一つの営業所に30人以上の専属スタッフがいるということは、大手葬儀社の本社スタッフ(コールセンターや総務や人事や経理などの)であることも考えられます。そうなると、コストセンターなので下図のように必然的に現場のスタッフよりも本社スタッフの一人当たりの売上高は少なくなります。

ここで補足です。

葬儀業界「外」の方の中には、
「売上高だけではなく、労働時間も見ないといけないのではないか?大手葬儀社の方が、零細葬儀社よりも圧倒的に労働時間が長かったらどうする」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
生産性=売上高/労働時間 が成り立ちますからね。

残念ながら労働時間比較をした統計データはありませんが、
大手葬儀社は労働基準監督署のチェックが入りやすかったり、労働組合があったりして、零細葬儀社より労働時間が短い傾向にあるのが実態です。

とはいえ大手葬儀社が労働三法をちゃんと守っているかというと、職業柄そんなことはないのですが(笑)
あくまで零細葬儀社との比較ではそうなります。

そのため売上高比較以上に、大手葬儀社と零細葬儀社では生産性に差が付いています。

なぜ大手葬儀社は零細葬儀社よりも生産性が高いのか

ではなぜ大手葬儀社は、零細葬儀社よりも生産性が高いのでしょうか。

経済学的にざっくり言うと「規模の経済」が働くからです。
製造業などに限らずサービス業でも規模の経済は働きますし、葬儀業界は葬儀式場というハコモノがくっついている装置産業でもあるので、当然のことです。

さらにもうすこしブレイクダウンした仮説は、
2020年初めのこの記事で述べています。

2030年の葬儀業界を予想する | 考える葬儀屋さんのブログ

女性スタッフの活用が重要と申し上げましたが、葬儀社の規模が小さくなるほど、女性正社員比率は減っているのが現状です。

2010年に書いた↓記事ですが、
人口統計から10年後の葬儀社の労働環境を予測する!? | 考える葬儀屋さんのブログ

2025年には 死亡人口、つまりお葬式の件数は約1.4倍になるのに、
国内の働き手の人数は13%ダウンしてしまうのです。
生産年齢人口における葬祭業就労者比率は計算上、
現在の1.6倍にしないといけません。

スタッフが増えれば、流動的にシフトを組みやすくなり、生産性はあがります。

ただし女性スタッフが肉体的ハンデの影響をできるだけ受けずに、男性と同じように活躍するためには葬儀会館が必要になります。会館のドミナント(特定エリアに集中的に出店)展開は必須です。
会館を持たない(もしくは需要に比べて所有会館が少ない)零細葬儀社は、肉体労働である外仕事が多く(さらに夜勤業務も加わって)女性社員を採用することが難しいので、人手不足(≒長時間労働≒生産性が低い)になりがちです。

葬儀社が生き残るためのカギを教えます

唐突ですが私のプロフィール

唐突ですが、私のプロフィールを少しだけ語ります。今回のテーマを語る上で必要だからです。

二十数年前、大学を出て新卒で葬儀業界に入りました。
当時自分の活動するエリアのスタッフは7名ほどでした。その後、葬儀会館も徐々にできて、現在の社員は100名を超えています。
その間ずっと増収増益でした。
そしてある程度の規模に達するまでは、葬儀担当者だけではなく法務・人事・経営企画・マーケティング・システム系の業務を兼任しています。

会社の成長に、私の能力は人並み以上の貢献はしていませんが、会社が(疑似的な)零細企業から大企業に変化する仕組みは、ずっとつぶさに観察分析してきました。

なんでこんな自慢話と受け取られかねない話をしているかと言うと、ちゃんと零細葬儀社と大手葬儀社の両方を経験した上で、これまでの話をしていることを理解してもらいたいからです。

例えば私が葬儀業界の人材論を語るときは、3年間後輩がいなかったという時代を経て、これまでに約500名の新卒・100名の中途入社希望者を面接して、100名を育成してきた実体験に基づいて話しています。
零細葬儀社から転職してくる人も多いので、他社の実態も把握しています。
組織が大きくなるにつれて生産性が高まるのを、この目で見てきたのです。
(これが200名、300名の規模になっても右肩上がりで生産性が伸びていくかは断言しませんが)

以上のバックラグラウンドがあるにもかかわらず、今回のような記事を書くと、社員がずっと5名くらいの零細葬儀社の社長から「いや、君の採用・育成・人材論は間違っている」というような反論をもらうことがあります。

こういう不毛な議論はしたくありません。
釘をさしておく必要があるため少々長めに私の実績を記しました。

零細企業の問題点、のひとつ

「自宅や寺の設営をはじめとしてオレは何でもテキパキできる優秀な葬儀屋だぜ」と、自分をスタープレーヤーだと思い込んでいる零細葬儀社のスタッフがたまにいて、会館仕事がメインの大手葬儀社スタッフに批判的になりがちです。

この職人至上主義的認識が、生産性が高まらない原因の1つだと、私は考えています。

いわゆるこういった職人タイプは、確かに作業速度が速く、状況判断も的確です。
しかしその事実は裏を返すと、「零細企業はシステムとして生産効率が悪いので、大手と張り合うには、個々のスキル(と長時間労働)で補う必要がある」ということなのです。
職人タイプがいないと零細葬儀社自体が、そもそも成立しないという構造です。
そして当然のことですが、単なる自信過剰を除くと、優秀なタイプは絶対数が少ないです。そして、習得能力のスピードが速い反面、暗黙知の言語化を含めて育成が苦手な人が多いです。

そんな属人的なシステムでは、いつまで経っても人を増やすことはできません。
つまりずっと零細葬儀社のままでいなければなりません。
そしてその人が抜けたり引退すれば、現場が回らなくなります。

組織としては非効率で脆弱です。

それに「優秀なタイプ」と申し上げましたが、そもそもひとつの葬儀社内の、ボトムのスタッフとトップのスタッフの生産性が2倍違うという事例は、ほぼありません。
トップレベルであっても、ボトムレベルの2倍の件数の担当は持てません。
トップレベルが打ち合わせに行ったから、葬儀代金がボトムレベルの2倍になるということも(社葬営業部隊があるなら別ですが)ほぼありません。自動車ディーラーや保険販売のように、顧客の選択と集中が行いづらいのです。

こういう言い方は誤解を招くかもしれませんが、状況に応じた分業化が進む現代葬儀の現場では、ガンダムより、チームプレイに優れたジムを、短期間低コストで大量育成できるシステムの方が、組織として強いのです。
それができない葬儀社は遅かれ早かれマーケットから退場せざるを得ないでしょう。

つまり厳しさを増す現代の葬儀業界では、「零細葬儀社」という存在自体が、ビジネスモデルとして間違っているのです。

零細葬儀社の従業員の方は、不安に思う必要はありません。
葬儀業界の人材市場は流動的なので、実力があって、望むなら、すぐに大手葬儀社のスタッフになれます。
アトキンソン氏も言うように、労働者の所属組織がかわるだけです。
葬儀業界内の個々の葬儀屋さんの存在はそのままで、より大きなハコに移動するだけです。結果、相対的に給料も寝る時間も増えるでしょう。

自分は、お客様のためなら長時間労働上等というハードワークでやってきた人間なので、正直なところムリ・ムダなスタイルに愛着があります。
生産性向上で効果を上げている、ある葬儀社の幹部が「遺体搬送コストを下げるために、4体をいっぺんに運べる寝台車を導入した」と得意気に話しているのを聞いた時は、不愉快でした。
「生産性が重要」とは言いながらも、自分の時代が終わっていく一抹の寂しさは感じているのです。

とはいえ、極めて論理的かつ必然的な結論を、感情で拒否できるほどバカにはなれません。

今後厳しさを増す環境の中で生存するために、正しい論理と事実に基づいてやるべきことをやるしかないのです。

葬儀屋でいたいなら、つまり遺族のために役立ちつづけたいなら、surviveしましょう。











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